表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/399

STEP1 Frozen Flare 94

 スポットライトの輪の中で、ザキは身動ぎ一つしない。


 嘘だろう? 嘘じゃない。


 ザキは駄目になる。多分再起不能になる――そう言った愛美の言葉が、私の中に甦る。


 メンバーは、誰一人として持ち場から動こうとしなかった。もしザキに近付いて、ザキがどうにかなっていたらと思うと、誰も動けなかったのだ。


 スタッフの中にも動揺が走る。

 メンバーは凍りついたように固まったままだ。客達もこの異常な事態に、ようやく反応を見せ始める。

 ザワザワとライブハウス内が騒がしくなってきた。


 混乱が起こる。


 どうすればいいのだ。私には方法が分からなかった。


 どうすればいい。どう終わらせる?


 私はハッとして愛美の方を見た。

 愛美がスタッフの一人に、何か言いつけている。


 私と同じようにボーッとなっていたスタッフは、愛美に何か言われてようやくすることが見つかった言うように、慌ててどこかに駆け出した。


 愛美は、ステージ上のメンバーに向かって盛んに何か合図を送っている。

 大きく手を振って、自分に注意を向けさせようとしていた。


 ステージの袖でも誰も彼もが、呪縛にでもかかったように動けずにいた分、愛美の動きは目立つ。 

 それでも頭が真っ白になっているのか、メンバー達は、ザキをマジマジと見つめているだけだ。


 愛美の祈りが届いたのか、シヴァが顔を上げてこちらを見た。

 口の動きだけで、愛美が言葉を伝える。


 いや、本当は声に出していたのかも知れない。

 その時、他の物音は観客の立てる声に掻き消されてしまっていたからだ。


 しかし愛美が何を言おうとしたのかは、ちゃんと通じた。


「『Believe』を演奏して」

 愛美は、その言葉を二度三度繰り返した。


 シヴァはそう何度も愛美に同じことは言わせなかった。

 騒然となりかけていた会場内に、キィボードの静かな旋律は染み入るように響き渡った。


 先ほど愛美が何か言いつけたスタッフは、予備のマイクを手に戻ってくると、それを愛美に渡した。『Believe』の前奏が流れている。


 愛美はマイクをオンにすると、ステージに向かって歩いていった。


「信じてと君は言う 見えるものと見えないものの全てを」

 彼女の、優しく包み込むような声が、マイクを通して溢れ出す。


 その瞬間、会場内が一瞬にして静まり返った。

 そして、ザキの身体がビクッと反応するのを私は見たのだ。


 愛美はザキの前に立つと、マイクを持っているのとは反対の手を差しのべた。


「愛してと君は言う 夏の腐った日差しも 冬の狂った風も全て」


 ザキが顔を起こす。

 私から見えたザキの顔は、まるで幼な子のようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ