STEP1 Frozen Flare 94
スポットライトの輪の中で、ザキは身動ぎ一つしない。
嘘だろう? 嘘じゃない。
ザキは駄目になる。多分再起不能になる――そう言った愛美の言葉が、私の中に甦る。
メンバーは、誰一人として持ち場から動こうとしなかった。もしザキに近付いて、ザキがどうにかなっていたらと思うと、誰も動けなかったのだ。
スタッフの中にも動揺が走る。
メンバーは凍りついたように固まったままだ。客達もこの異常な事態に、ようやく反応を見せ始める。
ザワザワとライブハウス内が騒がしくなってきた。
混乱が起こる。
どうすればいいのだ。私には方法が分からなかった。
どうすればいい。どう終わらせる?
私はハッとして愛美の方を見た。
愛美がスタッフの一人に、何か言いつけている。
私と同じようにボーッとなっていたスタッフは、愛美に何か言われてようやくすることが見つかった言うように、慌ててどこかに駆け出した。
愛美は、ステージ上のメンバーに向かって盛んに何か合図を送っている。
大きく手を振って、自分に注意を向けさせようとしていた。
ステージの袖でも誰も彼もが、呪縛にでもかかったように動けずにいた分、愛美の動きは目立つ。
それでも頭が真っ白になっているのか、メンバー達は、ザキをマジマジと見つめているだけだ。
愛美の祈りが届いたのか、シヴァが顔を上げてこちらを見た。
口の動きだけで、愛美が言葉を伝える。
いや、本当は声に出していたのかも知れない。
その時、他の物音は観客の立てる声に掻き消されてしまっていたからだ。
しかし愛美が何を言おうとしたのかは、ちゃんと通じた。
「『Believe』を演奏して」
愛美は、その言葉を二度三度繰り返した。
シヴァはそう何度も愛美に同じことは言わせなかった。
騒然となりかけていた会場内に、キィボードの静かな旋律は染み入るように響き渡った。
先ほど愛美が何か言いつけたスタッフは、予備のマイクを手に戻ってくると、それを愛美に渡した。『Believe』の前奏が流れている。
愛美はマイクをオンにすると、ステージに向かって歩いていった。
「信じてと君は言う 見えるものと見えないものの全てを」
彼女の、優しく包み込むような声が、マイクを通して溢れ出す。
その瞬間、会場内が一瞬にして静まり返った。
そして、ザキの身体がビクッと反応するのを私は見たのだ。
愛美はザキの前に立つと、マイクを持っているのとは反対の手を差しのべた。
「愛してと君は言う 夏の腐った日差しも 冬の狂った風も全て」
ザキが顔を起こす。
私から見えたザキの顔は、まるで幼な子のようだ。




