STEP1 Frozen Flare 93
次のMCは、『Replica Night』のあとだ。
「返り討ちにして殺してやる。どうせなら、ここにいる奴らみんな殺してやる。三曲目、『皆殺しのJungle』ライブバージョン行くぜ」
ライブバージョンは、一番と二番の歌詞が入れ替えてある。
「哀しみを刳る 両刃の剣は 憎しみの温度とともに 空を翔ける虹の滴すら 凍てつかせたように Heaven's Gate is in your eyes 誰を見てる その声は」
普段の私なら見過ごしてしまうような、それはほんの微かな兆候だった。
歌いながらザキは、何か不思議なものでも見たかのように、眉をヒクリと動かす。
天国の門は君の目の中に。
「溢れ出るような痛みを喰らい 膿んだ世界を切り刻む 終えた魂の行き場所より 探しているのは永久に続く道 Heaven's Gate is in your eyes 誰の為に 温もりは」
ザキは、何かを探すかのように視線を彷徨わせている。
すがれるものを求めても、それでも闇しかなくて。
私は嫌な予感がした。
「Heaven's Gate is in your eyes 全て 全てを破壊して」
ザキは何かを求めるように手を伸ばして泳がせた後、力なくマイクスタンドにもたれるようにすると、そのままステージに崩れ落ちる。
それはまるで演出のようにしか見えなかった。
途切れ途切れに吐き出された、全て、全てを破壊してという歌詞を最後に、ザキはしゃがみこんでいる。
そうなっても、私は大変なことになったとは思わなかった。ザキの動きは、もちろん決められてあったものではない。
間奏の後、ヨータの抑えた声で、一番へと曲は戻った。
「銃弾が穿つ 淋しさの跡は 錆びた誰かの血の甘さを…… 消えない月の刻印のように 耳許で囁くさよならの声」
ザキが蹲っているのを、誰もがアドリブだと考えているようだ。
私もそれは同じだった。
それができるのは、ライブバージョンだからだ。
「Heaven's Gate is in your eyes 誰よりも 何よりも」
シヴァとウミハルの声が合わさる。
そこでザキは立ち上がり、マイクに向かう――ザキは立ち上がらなかった。
曲は始まったものの、ザキは立ち上がらない。
見上げなくなったのは星空で、君の涙の理由に耳を塞ぐことも、冷たい雨に打たれることも、構わなくなったのは、誰かの所為かな。
ザキの歌声がないまま、曲だけが演奏され続ける。
今にもザキが起き上がって、騙されただろうと言い出すのではないかと、私は無駄な期待を抱いていた。
おかしい、ようやく感じ始めたメンバー達が、一人また一人と楽器をおろしていく。
会場は、水を打ったように静まり返っていた。




