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STEP1 Frozen Flare 81

「誰が、峰より前に衣装に触ったんだ?」

 スタッフの何人かの目が、一人の人間に向かう。つられたみんながそちらを向いた。


 その視線を受けて、たじろいだようにウミハルが呟く。


「自分の衣装と間違えたらしくって」

 

 皆の目が、俯いていたライへと集まっていた。


 愛美だけは、ザキの方を見る。

 ザキは冷ややかな視線を、ライに向けていた。


 誰も何も言えないまま、事故は有耶無耶にされて、そのまま取材へと移行する。ライ本人も何も言わなかった。


 取材は、まるで何事もなかったかのように収録された。

 収録の最後に少し思わぬ出来事があったようだが、現場に居合わせなかった愛美は知らないことだし、別に関係もないことだ。


 愛美はずっと、峰と二人っきりになるチャンスを狙っていた。峰は結局、応急的な手当を受けただけで、病院には行こうとしなかった。

 峰がトイレに入って暫くしてから、愛美は事務所に長門を残して、後をついていく。


 洗面台に左手をついて峰は俯いていたが、愛美が入ってきたのに合わせて顔を上げた。こちらを見ようとはしない。

 愛美は、トイレにいるのが峰一人であることを確認した。峰の右手には白い包帯が巻かれている。


 スタイリスト魂か、怪我をしたにも関わらず――いや、怪我をしたから余計にか――いつにも増して峰は、自分の仕事に真摯な態度で向き合っていた。

 誰も、程々にしておけとは言えなかった。


 愛美は、その場は峰をそっとしておくことにしたが。


 話すなら今だ。


 愛美はそう思って、鏡の中の峰に向かって語りかけた。

「事実を隠したままで、それを突き通すのって、あまり気持ちのいいものじゃないでしょう?」


 峰は、ビクリと肩を震わせる。


 愛美に嘘は吐けないと観念したものか、

「わざとじゃなかったんです」

 と、今にも泣き出しそうな声で言った。


 分かっている。もちろん、分かっている。


 愛美は、峰を自分の方に向かせた。

「わざとだったら、自分で怪我しないでしょう。もう済んだことをあれこれ言っても仕方がないし、今更私の失敗でしたなんて言ってもどうにもならないし、これから気を付けることが大切でしょう。あなたのこの手も、Fフレアという形を作る上で大事な手なんだから」


 峰の手を優しく包み込んだ。


 泣き崩れた峰を、愛美は抱き締めていた。


――どうすればいい。どう終わらせる? どうすれば。

 愛美は、腕の中で鳴咽を洩らしている峰を抱いたまま、鏡の中の自分に向けて自問自答した。


 綾瀬も、大変な仕事を回してくれたものだ。

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