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73/399

STEP1 Frozen Flare 73

 植えつけられた価値観は、ザキに妙な屈託を与えてしまったことは間違いないだろう。


 しかし、親の育て方が悪かった訳ではないのだ。ザキの生活を見ていれば、それは分かる。


 抱え込む形で、屈託を持ってしまったのだろう。



 愛美は、ふと顔を上げて思わず呟いた。

「あの人」


 シヴァは愛美の視線に気付いて、おかしそうに笑った。

「刑事さんだって。見えないけど、案外切れ者なのかもね」


 刑事だというのは、愛美は前から知っている。

 愛美は思わず冷や汗が出そうになった。


 長門がいなくて幸いだ。


 長門が、あの冴えない風貌の男が刑事だと知らずに、自分が刑事だと偽って話を聞いたことがあったのだ。

 

 それ以後にも、愛美は一度街中で顔を合わせている。

 その時はうまくあしらったが、長門と愛美のことを覚えていないとも限らない。切れ者でないことを祈るしかなかった。



「シヴァ、ちょっと、こっちへいいかな」

 愛美が考え込んでいると、里見が手招きしてシヴァを呼んだ。

 

 何か言いたげに愛美はシヴァを見たが、大丈夫というようにシヴァは微かに笑って、招きに応じて歩いていった。

 

 愛美まで事情聴取を受けたら事だ。


 部屋からそっと、愛美は滑り出ようとした。


 今度はまた誰かと鉢合わせしそうになる。


 二人とも、おっと、という顔になった。


 誰か分かると、相手は軽く愛美に挨拶をしようとする。おうと言う言葉を遮るように、愛美は思わず強い調子で尋ねていた。


「その手、どうしたんですか?」

 ヨータの表情がサッと硬くなる。


 憎しみを込めた目でヨータは愛美を睨みつけると、愛美を突き飛ばすようにして部屋に入っていた。

 愛美は辛うじて避けて、廊下に出る。振り返りもしないヨータの背中は、手荒く閉められたドアで見えなくなった。


 ヨータの右手の手頚には、包帯が巻かれていた。

 ザキを襲った内の一人が持っていたナイフを、長門は手刀で払い落としたことが思い出される。


 手頚を押さえて呻いていた男。


 まさかな。そんな訳はない。偶然だ。


 偶然にしてもなぜ、その手頚のことに触れられることを極端に恐れる? ――ヨータは確かに恐れていた。


「ヨータさんなの?」



 その日のライブは、ザキの件を考慮して中止となったものの、十日後に延期されることが決まった。

 マスコミは勝手な憶測を垂れ流し、Frozen Flareの名は、野次馬的なワイドショー番組で何度もとり上げられることとなった。

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