STEP1 Frozen Flare 73
植えつけられた価値観は、ザキに妙な屈託を与えてしまったことは間違いないだろう。
しかし、親の育て方が悪かった訳ではないのだ。ザキの生活を見ていれば、それは分かる。
抱え込む形で、屈託を持ってしまったのだろう。
愛美は、ふと顔を上げて思わず呟いた。
「あの人」
シヴァは愛美の視線に気付いて、おかしそうに笑った。
「刑事さんだって。見えないけど、案外切れ者なのかもね」
刑事だというのは、愛美は前から知っている。
愛美は思わず冷や汗が出そうになった。
長門がいなくて幸いだ。
長門が、あの冴えない風貌の男が刑事だと知らずに、自分が刑事だと偽って話を聞いたことがあったのだ。
それ以後にも、愛美は一度街中で顔を合わせている。
その時はうまくあしらったが、長門と愛美のことを覚えていないとも限らない。切れ者でないことを祈るしかなかった。
「シヴァ、ちょっと、こっちへいいかな」
愛美が考え込んでいると、里見が手招きしてシヴァを呼んだ。
何か言いたげに愛美はシヴァを見たが、大丈夫というようにシヴァは微かに笑って、招きに応じて歩いていった。
愛美まで事情聴取を受けたら事だ。
部屋からそっと、愛美は滑り出ようとした。
今度はまた誰かと鉢合わせしそうになる。
二人とも、おっと、という顔になった。
誰か分かると、相手は軽く愛美に挨拶をしようとする。おうと言う言葉を遮るように、愛美は思わず強い調子で尋ねていた。
「その手、どうしたんですか?」
ヨータの表情がサッと硬くなる。
憎しみを込めた目でヨータは愛美を睨みつけると、愛美を突き飛ばすようにして部屋に入っていた。
愛美は辛うじて避けて、廊下に出る。振り返りもしないヨータの背中は、手荒く閉められたドアで見えなくなった。
ヨータの右手の手頚には、包帯が巻かれていた。
ザキを襲った内の一人が持っていたナイフを、長門は手刀で払い落としたことが思い出される。
手頚を押さえて呻いていた男。
まさかな。そんな訳はない。偶然だ。
偶然にしてもなぜ、その手頚のことに触れられることを極端に恐れる? ――ヨータは確かに恐れていた。
「ヨータさんなの?」
その日のライブは、ザキの件を考慮して中止となったものの、十日後に延期されることが決まった。
マスコミは勝手な憶測を垂れ流し、Frozen Flareの名は、野次馬的なワイドショー番組で何度もとり上げられることとなった。




