STEP1 Frozen Flare 61
私は思わず縋るように愛美を見たが、ザキと長門に続いて部屋を出ていくところだった彼女に、私の視線は通じなかった。
私はシヴァへと顔を戻すと、重々しく頷く。
ザキは、揚げたてのテンプラで作った天丼が食べたいと言った。いくらでもおいしい店ならあるにも関わらず、またもやザキは愛美に買物をさせて作らせる気でいる。
作るのはどうせ長門だが、本当に人を何だと思っているのだろう。
まあ、この時間ならまだスーパーも開いているし、海老やイカなどの生鮮食品も揃えられるだろうが、あの家の様子から考えると、揚げ物用の鍋から買わないといけないに違いない。
フライパンがあったら、代用するか。マカロニを茹でるのに使ったミルクパンでは、油の臭いがつくからまずいだろう。
スタジオのエントランス部分で足を止めたザキに合わせて、愛美も立ち止まった。
「車回してくる」
長門が、駐車場に向かって足早に立ち去るのを、ザキは無言で眺めていた。
愛美は懐具合が寂しくなることを不安に思って、リュックの中を覗き込んで財布の中身を確かめていた。
十分な生活費を綾瀬から渡されていて、いくら金には困っていないと言っても、何万円も財布の中には入れていない。
領収書をもらって後で返してもらうにしても、やっぱり買い出しをする度に、何となく心許ない気持ちがするのだった。
男二人は何様のつもりか、ザキはもちろん長門さえも自分で払うことをしない。
愛美がいない三日間、男二人でどうやって過ごしたものか不思議な気すらする。
鞄を愛美が閉めようとしていたその時、突然弾かれたようにザキが駆け出した。
――ザキさん。
愛美は叫んだが、ザキは振り返らなかった。
もう道に出て、見えなくなりそうになっている。
愛美は数瞬ためらったものの、リュックを引っ掴んだままザキを追って駆け出した。
(お願い、長門さん、気付いて)
走っていくザキに数メートル遅れただけで、見失うこともなく追いかけることはできた。
しかし暗くなった道を、路地を曲がったりした為に、愛美はどこを走っているものやらどこに向かっているものやらさっぱり分からなかった。
これでは長門にも分かる訳ないだろうが、何かあったことぐらいは察知してくれる筈だ。
ようやくザキが足を止めた為、愛美は今度は逃げられてはたまらないと、ザキのジャケットの裾を握り締める。
「どうしたんですか、一体?」
ザキは息があがっている為か、愛美の手を振り払おうとはしなかった。仕事で少しは鍛えられているとは言っても、流石に愛美も疲れて声が刺々しくなる。
「ここんとこずっとつきっきりだぜ。嫌んなるぜ」




