STEP1 Frozen Flare 47
そもそも、独立した洗面所はあるのだろうか。3点ユニットバスだったら、扉を開けたらザキの裸とご対面ということにもなりかねない。
いつか脱衣所で、長門と最低な対面を果たした時のことが愛美は思い起こされる。
確かに、不可抗力だ。
しかし、男と女では重みが違う。
見たくて見た訳じゃないと言った長門の言葉は、いまだに許せるものではない。
自分のハンドタオルは鞄の中だ。
玄関先にリュックは置いていたので、邪魔な長門の身体を越えるようにして腕を伸ばした。その時、ふと長門の胸に目がいく。
「あれ、ボタンとれかけてる。どっかで引っ掛けたかな?」
長門のシャツの真ん中のボタンの糸が伸びていて、ブラブラとしていた。
「つけとかないと、いつの間にかとれてますよ」
長門は、自分の服に目を落とすと、思いきりよくボタンをちぎりとった。
そのあとをどうするつもりなのか、全く何も考えていないのだろう。
そのボタンをどうすべきかと言うように、手の平の小さなボタンを眺めている。愛美は濡れた手を服で拭くと、溜め息を吐きながら長門に手を差し出した。
「針と糸持ってるし、つけますね」
長門は愛美の手にボタンを渡しながら、怪訝そうに言った。
「持ち歩いてるのか?」
女の子らしい気遣いなどないと、思っているのだろうか。誰も彼も、愛美を何だと思っているのだろう。
愛美は、ゴミ袋と反対側の長門の横に無理やり座り込みながら、リュックを引き寄せて裁縫セットをとり出した。
目を細めて針穴に糸を通しながら、
「もちろん、人形に針を刺して、憎い奴を呪い殺す為よ」と、呟いた。
呪いは両刃の剣である。人を呪わば穴二つ。
憎しみは、結局自分に返ってくるものだ。
不自然な沈黙に、愛美は手を止めて顔を上げる。
ゴミ袋に身体を押しつけるようにして長門が、愛美を見つめていた。
妙な感じだが、愛美の横には雑誌と本とプリントアウトされた紙を挟んだものがうず高く積んである――似たようなものか。
「冗談なのか?」
(まさか信じたのか?)
本当に、人を何だと思っているのだろう。
「当たり前でしょう」
思わず愛美は、声を大きくした。
「笑えないぞ」
長門はそう言った後、やりかねないと付け加える。
失礼にもほどがあった。そんなことを言っていると、人形ではなく本体を刺してやりたくなる。
「ほら、さっさと脱ぐ」
長門がボタンを外すのももどかしく、愛美は服を剥ぎとらんばかりの勢いで、服に手をかけた。
露わになった長門の胸や腹に、遅ればせながら自分のやっていることに気付いて愛美は赤くなる。




