STEP1 Frozen Flare 40
ただ、愛美はそれどころではない。
愛美は、きつく唇を噛んでいた。そうしていないと、涙目になってしまいそうだ。
悔しいからだった。
機嫌が直ったらしいザキがマイクの前に立つと、メンバーを振り返った。
「新曲いこうぜ。前奏からドカンとかませよ」
みな、異存ないというように頷いた。
ヨータがスティックを打ち合わせながら、声に出してカウントをとる。
1・2・1・2・3・4で、音が弾けたという感じだった。
確かに先ほど、みんながザキを窺いながら演奏していた時とは、音の質が全く違う。
愛美は、雰囲気に飲まれていた。
音楽から生まれる感動を、言葉に表すのは難しい。
アーティストのコンサートに足を運んだことはないので、生の演奏をこれだけ間近で見聞きするのは、愛美は初めてだ。
音が溢れてくるという表現はあるが、音は楽器からではなく、彼らの指先から生まれてくるかのようだった。
早いビートと、激しくうねるような音の本流。
みんな、音楽が好きでたまらないのだと言うような表情をしていたが、マイクの前に立っているザキだけは、どこかひねたような顔をしている。
――銃弾が穿つ 淋しさの跡は 錆びた誰かの血の甘さを……
歌っていると言うより囁きかけてくるようなザキの声は、楽器の音に消されることもなく耳にこびりついて離れない。
愛美は、動悸を鎮めようとするように胸を押さえた。長門は、ぼんやりとした様子で、唇に指を這わせている。
――消えない月の刻印のように 耳許で囁くさよならの声
Heaven's Gate is in your eyes 誰よりも 何よりも
(嫌だ。怖い)
胸が掻き乱される。
愛美は、シャツの胸元を握り締めながら、思わずもう片方の手で長門の腕に縋っていた。
「どうした?」
ザキの声が吸い込まれるように消えるのに合わせて、潮が引くように楽器の音もトーンダウンする。
ただドラムだけが、まるで拍動のように力強く、愛美の鼓膜を振動させていた。
嫌な予感。
胸が締めつけられるようだ。
再び楽器の音が力をとり戻し、覆いかぶさるようにザキのボーカルが入ってくる。
――見上げなくなったのは星空で 君の涙の理由に耳を塞ぐことも
冷たい雨に打たれることも 構わなくなったのは 誰かの所為かな
「何、これ」
その場に崩れかけた愛美を、長門の腕が抱きとめる。
(苦しい。嫌だ。怖い)
愛美は、身体の震えをどうしてもとめることができなかった。
――高層ビルのJungle 獣ばかりのこの街で 淋しく膝を抱えるよりも
閉じた目を開けて 堕ちていく月にKissしよう




