STEP1 Frozen Flare 38
愛美が、実はSGAという何でも屋の社員だと里見が言ったのか。
それとも、それとも、誘っているのか。
愛美は、パニックに陥った。ザキは、愛美と長門を馬鹿にするように見比べながら、
「デキてるんだろう。お前ら?」
顎をしゃくった。
愛美は、言葉の意味を理解するなり、急速冷凍される。
(誰が、誰と、デキてるって?)
思わず、何でそんなと口走っていた。
ザキは何で分かったのかという意味に、勝手に解釈したらしい。
「古女房みたいな顔してるからさ」
あっさりと言ってのけた。
――ふる……。
一瞬、愛美は気が遠くなった。
あまりな言葉に、愛美もどこかのネジが外れてしまったらしい。
ってかー、えー、分かんなーい、の世界だ。
「同棲って言うのかなぁ。スタイリスト志望なんだけどぉ、不況で雇ってもらえないしぃ? コネがないと、この業界大変でしょ。ザキさんのボディガードするってこと聞いてぇ、頼みこんじゃったぁ」
一々語尾を伸ばして、とことん馬鹿っぽく言ってやった。
多分、今の自分は、間違いなく間抜け面をしていることだろう。
同棲? 思わず鼻で笑いたくなる。
しかし、嘘ではなかった。一つ屋根の下で暮らしていることは暮らしている。
頼んだ? 誰が頼んでまでこんな仕事をするか。金を積まれたってごめんだが、こっちはただ働きときている。
長門は気味悪そうに愛美を見ているが、ザキはそれが愛美の地だと気にもしていないらしい。嘲るような表情を浮かべて、ザキは長門に言った。
「趣味悪ぃ。こんな女のどこがいい訳?」
(こんな女?)
愛美はカチンとくる。
(何よ。こんな私でもいいって男が、どっかに一人ぐらいいるに決まってるじゃない。た、多分ね)
長門は普段から無口で、あまり喋らないからいいが、頼むからボロは出さないでくれ。
適当に合わせて、適当にあしらって、こんな仕事さっさと終わらせてお役御免といきたいものだという愛美の願いは、長門にも通じたようである。
誰と誰が同棲をしているんだなどという、味方からの突っ込みは入らなかった。
しかし。
「どこ?」
そう言って長門は愛美を見て、考え込んでしまった。
(本気で考えるな、本気で)
性格でも顔でも、どちらもよくはないが、もうこの際嘘なんだから、実は脱いだらすごいんですぐらい言ってやればいいのだ。
何がすごいのか、もう愛美は自分でもよく分からなくなっている。
しかし、長門はまだ考えていた。ここまでされると長門も含めて男二人、蹴飛ばしてやりたくなる。




