STEP1 Frozen Flare 37
戻ってきたウミハルは、紙コップから何か飲み物を飲んでいた。ライは、ここにはいない。
「独断と偏見か」
長門が再び、ボソリと言う。
愛美が何か言い返そうとすると、長門は重ねて言った。
「ああ言うのがタイプなのか?」
――な。
思わず愛美は大きな声を出しそうになり、慌てて回りを見回して、誰もこちらを見ていないことを確かめた。
「別に、誰もそんなこと言ってないでしょう」
穏やかな物腰、物静かな口ぶり、聡明そうな顔立ち、憂えているような眼差し。
可愛いよなんて言いながら、照れているのか向こうを向いている、そんな人。
(そりゃ、いつでも無表情で無愛想で無口で、口を開けば嫌味しか言わないような傍若無人、変態最低野郎とは違うわよ。そりゃ格好いいなと思うけど、けど。タイプと言えばそうなのかも知れないけど、けど)
「やめた方がいい」
長門は、冷ややかにそう言った。
愛美は、思わずまじまじと長門を見つめてしまう。
(何よ。それ。何で、そんなこと)
「何であなたに、そう言うこと言われないと駄目な訳? 向こうは芸能人で、私はしがない女子高生なんですからね」
愛美は、そう言ってプイと横を向いた。
胸がドキドキしている。
そうだ。
何をむきになっているのだろう? ちょっと優しくされた、ただそれだけなのに。ちょっといいなって、そう思っただけなのに。
俯いている愛美を見ないようにして、長門は前を向いて言った。
「何にしろ、俺の仕事は奴をガードすることだけだ。それ以外のことは」
それ以外はで言葉を切った長門に、愛美は顔を上げた。
ザキがこちらに歩いてくる。言われなくても続きは分かる。お前が勝手にやれということか。
愛美の方などチラリとも見ずに、ザキは長門の前に立った。
「オレん家まで来る訳?」
長門は淡々として、
「目を離すなと言われている」と、言った。
その答えは初めから分かっていたのか、ザキは頷いただけで別に何も言わなかった。そして、今度は愛美をジロリと睨んだ。
(長門がメインで私は、キャベツについている虫か)
「お前も来んのかよ」
愛美は焦った。
そういうことは全然考えていなかった。ただのアシスタントが、芸能人の家までついていく理由とはなんぞや。
ああ、スタイリスト見習いなんて訳の分からないものじゃなく、ボディーガード会社から派遣されたアドバイザーとか言ったら適当に格好がついたのだ。
日本人は横文字に弱い。
(しかし、なぜ私にそんなことを聞く?)




