STEP1 Frozen Flare 35
「びっくりしたでしょ」
愛美の前には、いつの間にか側に来ていたシヴァの姿があった。
――来ていきなり、あんなシーンじゃね。
そう言ってシヴァは、隣の長門に軽く目礼した。長門は、愛想なくシヴァから目を逸らしただけだ。
「なんか、あれってひどい」
愛美は、シヴァの微かな笑顔に勇気付けられてそう言った。
(何だろう。胸がドキドキして緊張してうまく喋れない)
主語、目的語はどこにいったのか。
シヴァは物静かな様子を崩さず、何もかも受け止めてくれるような、そんな感じがした。
「彼のこと、誤解しないでやって欲しい。音楽をとても大切にしているんだ。それはみんな一緒だから、だから」
――音楽やってる。
シヴァの言葉は、愛美の胸に沁みいるようだった。
ああ、この人のこと好きだ。愛美は、素直にそう思っていた。
「済みません、私なんかが言うことじゃないですよね」
嫌な子だと思われただろうか。
愛美は胸をざわつかせながら、窺うようにシヴァを見る。
「女の子の前でとっくみあいの喧嘩なんかできないから、どんどん言ってやるといいよ。君に嫌われるぞって言ったら、ヨータも気を変えたみたいだし」
少しおどけたように、シヴァはそう言った。
愛美も、思わず微笑んでしまう。
いい人だな。
この人がいるから、このメンバーで成り立っているんじゃなかろうかと思える。シヴァはそのまま行きかけて、振り返らずに最後に言った。
「前言撤回。眼鏡でもやっぱり可愛いよ」
愛美は、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えながら、シヴァのほっそりとしたシャツの背中を見ていた。
シヴァは、床に座り込んでいるザキの側に今度はしゃがみこんで、何か言っている。
穏やかな表情のシヴァに対しても、ザキはむっつりとしていた。何か言われても、面倒臭そうに横柄に頷くばかりだ。
それでもシヴァは辛抱強く、ザキに笑顔で話しかけている。
ザキ、こと曽根崎一也。
美少女と見紛うルックスが売りの、十七歳の少年。ノーメイクでも可愛いことに変わりはないが、その顔に三分の一でも見合うだけの可愛げのある性格ならばよいものの。
ザキの場合は、顔がよくて性格が悪いというお約束のような人間だ。
「敵だらけね。恨まれて当然って感じ」
愛美は憎々しげに呟いて、声を低めたまま長門に里見の話を報告した。
元々フローズンフレアは、ケンゾーというボーカリストを中心に四人組で活動していたバンドらしい。作詞とギターを受け持っていたナオという女性と、ベースと鍵盤楽器のシヴァ、そしてドラムのヨータ。




