STEP1 Frozen Flare 31
そのヨータは、メイクボックスの鏡の前にしゃがみこんで、自分の髪型をチェックしている。峰の邪魔になっているが、お構いなしだ。
峰は簡易椅子に座らせたウミハルの顔に、ファンデーションをはたいてやっているところだった。
「スタイリスト付けるってさ、俺、峰さん以外に触らせる気ないぜ」
シヴァとの話を終えた里見を捕まえて、ウミハルは鬱陶しげに言う。
分かっている分かっていると言うように、里見は頷いた。
チョコレート色のスーツを着たウミハルは、緩いパーマを当てた肩まである髪を、指でねじっている。
ウミハルは、ヨータとは高校の同級生で、シヴァと同じ大学に通っているそうだ。
突き放した言い方に愛美は、エネミー2の名前をウミハルに進呈したくなった。
「俺、別に誰でもいいよ。どんな髪型でも、衣装でも似合うし」
ヨータが、フォローするように言う。
ライが、フェイクファーの襟つきのジャケットに着替えて戻ってきた。峰が手早く、立ったままのライにメイクを施す。
その最中にカメラマンが、撮影を始めようかと言い出していた。
俄かに慌ただしくなる。
ザキは、さっと終われとでも言うように、スクリーンの前に立って仲間を待っている。
急ぐでもなくヨータとウミハルが肩を並べて歩いている横を、メイクを終えたライの方が追い抜いていってしまった。
峰はシヴァのマフラーを手直しして、ようやく満足した表情を見せる。そして、メイクボックスにしゃがみこみかけて、愛美を呼んだ。
「愛美さん、ちょっと。これ仕舞うの手伝ってくれる?」
仕舞うと言う名目で、峰は愛美にそれぞれメンバーに合わせて使用を変える化粧品について、教えてくれるのだ。
愛美は、元気よく返事をして、駆けていこうとした。
その時、シヴァが突然何か言った。
「眼鏡」
愛美は、え?と振り返る。
眼鏡と聞こえたが、聞き間違いだろうか。それとも他の誰かに言ったのだろうか。
シヴァは、愛美を見ていた。シヴァは指を顔に近付けると、鼻の頭あたり、眼鏡を押し上げるような仕草をする。
シヴァはピアノを弾く人間に似合いの、白く繊細そうな指をしていた。
「合わないよ。ない方がいいと思うけど」
シヴァは微かに微笑むと、そのまま大股で歩き去った。
愛美の胸が、トクンと音を立てて鳴る。
怪訝そうな峰の声で名前を何度か呼ばれて、愛美は慌てて走っていった。
(何だろう。胸がドキドキする)
峰の言葉もどこか上の空で、愛美は危うく床にアイブラシなどのブラシ類をぶちまけるところだった。




