STEP1 Frozen Flare 27
ゆっくりと私の目を見ながら吐き出された言葉と、彼女の挑発的な笑みは、まるきり悪魔の誘いだ。まるで誘導尋問でされたかのように、私は言われるままに頷いた。
そうだ。そうなのだ。
あの綾瀬に言いたかったのは、まさしくそこなのだ。
「ザキは、メンバーを疑っているんです」
少女は、私の言葉に驚いたりしなかった。
「仲悪いとかって書かれてますけど、どうなんですか? なんて聞くと、ゴシップ好きのそこらへんの奴みたいですね。まあ、彼のあの性格じゃと言う気もしますけど」
軽い調子で、愛美は私を見ずに言う。
私は、曖昧に頷いた。
ここにきて、こんな公にはできないようなネタを、たかが二十歳かそこらの娘に話してもいいのだろうかと思ってしまう。
私の心の逡巡は、沈黙というはっきりした形になった。
彼女は私の沈黙の意味を悟ったのか、チラリと私を流し目で見た。そして、フッと軽く笑うように息を吐く。
「インディーズ時代からのファンの子が、ザキがバンドを乗っとったみたいな言い方をしてたんですよね。もちろん言い方は穏やかでしたけど」
彼女はまた、全てを見透かすような目で私を見た。
私はその目で見つめられた途端、ゾクリと膚が泡立つような感覚を覚える。
まるで魅入られたように、私は話し始めていた。
「元々、ケンゾーというボーカルがリーダーで活動していたバンドなんです。その中で、シヴァが引き抜かれる形になった為に、ボーカルが駄々をこねて抜けたんです。それで慌ててたところに、ザキが入ったのが実際なんです。しかし、あのルックスと歌唱力ですからね。結局、おいしいとこはザキ一人が持っていく形になってる」
言いながら、私はだんだん明るい気持ちになっていった。
「シヴァは、正直面白くないでしょうね。本当なら自分が浴びる筈だった脚光を、ザキが一人占めしている訳ですから。ライはザキの後輩で、頭が上がらないし」
「ああ、ザキって高校生なんですよね?」
「いえ、中退したんです」
デビューが決まり、学業との両立を難しく考えた為か、ザキはすっぱりと学校を辞めてしまった。
学校にいきながら芸能活動をしているアイドルは、沢山いる。
両立は難しく、学業が疎かにされることもあるが、学校側としてもできるだけみんな卒業させてやりたいと思っているものだから、追試だのなんだのと救済措置がとられている。
せめて高校ぐらいと思う反面、アイドル業に専念してくれるならそれでよしという、マネージメントをしている人間としての気持ちもあった。




