STEP1 Frozen Flare 26
「あなたのところの会社も、いろいろ大変そうですね」
私は、芯から同情して言った。
協調性はゼロのようだが、あの長門ならザキを任せても大丈夫な気がする。自分の腕に、自信があるのだろう。
ワンマンな人間に振り回されるのは、いつでも自分のような生命力の弱い人間と決まっている。
少女は、使い古された表現で恐縮だが、桜の花弁のような唇をすぼめて不貞腐れた。
「本当、そうですよ。自分勝手な奴ばっかりで、共同作業なんか夢のまた夢ですよ」
そこで言葉をきった愛美は、顔を俯け気味にして、眼鏡のつるを耳から外す。
「まあ、自分のやることには責任持ってますけどね、それぞれ」
眼鏡をとった時の顔と、そう言った彼女の口調は、今までのものとガラリと調子を変えていた。これが同じ人間なのかと、私はポカンと口を開けて見ていた。
彼女は横を向いて独り言ちるように、私は私で勝手にやらせてもらいましょうかと言った。
そして私を見ながらも、どこまでが独り言で、どこからが私に向けているのか分からない言い方で、
「タダ働きで、こんなことに長々とかかずらってる訳にはいかないし。一応、学生なんだから。とにかく里見さんは、今回のザキのボディガードの件に、何か問題を感じているんでしょう? だから、あんな胡散臭い会社にやってきた」
と言って、奇麗な笑みを見せた。
作り物ではない、心からの笑みだ。
余裕に満ちた表情と、自信に裏打ちされた話し方は、彼女を更に大人びて見せる。
私は突然のことに、言葉が返せなかった。
ずっと開いたままの口を閉じるだけの器量はあったが、混乱した頭のまま、私は訳の分からないことを言う。
「長門さんでは不足ですか?」
彼女は、自分の言葉に対する返事でもない私の言葉にも、丁寧な返事を返した。
「あの人は、言われたことだけやるんです。ボディガードをしろって言われたら、それだけ。そう言う面では優秀ですよね。相手がアクションを起こせば、必ず防ぐ。けれど、相手の目的とか原因解除はしないですね。あ。でも、もちろん殺せと命じられたら殺しますよ。だけど、それだけですね。あの人に任せたら、結局分からずじまいになりますよ」
愛美は怖い台詞をさらりと言ってのけながら、自分の言葉におかしそうにクスッと笑った。
私の前で、彼女はクルクルと表情を変えていく。
今度顔を上げた時は、私の心の中を見透かすような目をしていた。
「それじゃあ、あなたの気が済まない」
私はまた馬鹿のように口を開けて、彼女を見ていた。




