STEP1 Frozen Flare 25
「はあーっ? じゃないでしょう。巴君がくれた資料だって、読んでるんでしょう?」
愛美は、私を意識してか声を低めて、長門に言った。
「あんなもの、読む必要はない」
長門は断定的に言って、服を引っ張ったままの愛美の腕を払う。
何だ、何だ、内輪揉めか。おいおい、大丈夫なのかよ。
私は、二人が何か言う度に、それぞれの顔をきょときょと心配げに見た。
「必要はないって」
愛美は、眉を顰めて困ったようなシュンとした表情を見せる。
長門は少し黙ったかと思うと、舌で唇を湿らせ、
「インディーズ時代からのメンバーは、シヴァ、ヨータ、ウミハルの三人で、それにボーカルのザキとギターのライが入り、今年の一月にシングル曲『Frozen Flare』でメジャーデビューを果たした。平均年齢十八才。ヨータとライは兄弟で、ウミハルとヨータが高校時代の同級生ということ以外は、本名なども一切公表されていない」
一気にそこまで喋ると、あとはだんまりを決め込んだ。
愛美の言葉にあったトモエというのは、SGAの人間なのだろう。依頼人の素姓は、きっちり調べてあるものらしい。
ザキの好みと言うのも、案外そうやって調べられたのかも知れなかった。
長門が今言ったようなことは、普通のアーティストならおおっぴらにされていて調べるほどのことでもないが、フローズンフレアは別だ。
完全なプロフィールとしては、何一つ出回っていない。ミステリアスな雰囲気が、エフフレアの魅力でもあった。
長門が言ったのは、ファンでも全て把握しているかどうかといったことだ。
私は、もちろん驚く。
ボディガードぐらいで、普通そこまで調べるものなのだろうか。
几帳面というか、それがSGAが変わった〈何でも屋〉である所以だろうか。
それにしても長門は、間違いなくA型だろう。堅物なA型ならば、殺しが専門などといった言葉も、案外冗談ではないのではという気がする。
まさかな。
「読んでるんじゃないですか」
愛美は、唇を尖らせて拗ねたように文句を言った。
そうして見ると少女は、形のよい唇をしていた。リップなしでも桃色に染まっている。
「もう、忘れた」
そう言った長門は、ザキがスタジオの扉を押し開けるのに気付いたようだ。
「必要なことはお前が聞け。その為に綾瀬は、お前を寄越したんだろう」
それだけ早口で言い置いて、扉から消えたザキを追うように、長門は背を向けて行ってしまった。
――ったく、もう。
少女は、閉まる扉の中に滑り込んでもう見えなくなったその背中に向けるように、小さく悪態をついた。




