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ようこそ、異寄学園生徒会へ!!  作者: 野村 誠
孤狼(リカントロピー)編
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9/14

孤狼9



 午後の授業は平穏無事に終わり、職員室へと向かう。なんだか長く感じる1日だった。とりあえず早く寮でゆっくり休みたい。


 扉を開けると教員数名の姿があり、その中に静刃先生もいた。

「お疲れ様、杉原君」

 静刃先生は、こっちに気付いて近づいてくる。


「君の部屋は、男子寮3階の北側の一番奥よ。何か困ったことがあったら、私に言って頂戴ね。何時でも相談にのるわ」

 先生が俺に気を遣っている気がする。問題児を押し付けたことに少し負い目を感じてんのかな。「何か困ったこと」というのは、(凶也に関して)という意味だろう。


 そのまま、学生寮へと向かう。

 東校舎の玄関あたりで何かの気配を感じて、後ろを振り返ると下へと続く階段が見えた。今まで通った学校の中で地下があるのは初めてだ。下をのぞくと、なんか薄ら寒い空気を感じる。特別教室でもあるのかな? とりあえず今はここには用は無い。


 校舎の外へ出ると、建物の隅なんかに監視カメラが設置されているのが見えた。この場所から見渡すだけでも3つある。防犯目的にしても数が多すぎるな。きっと外からの侵入者を監視するというより、学園で暴走した生徒を外に出さないようにする為の処置かもしれない。


 学生寮は東校舎のすぐ隣にあったので、場所はすぐに分かった。

 白い壁の5階建て。周りは花壇と生垣に囲まれている。

 寮の入口を抜けると、広い空間に椅子やテーブル、部屋の隅には観葉植物があり、まるでホテルのロビーみたいだ。空調までついてる。


 そこでは、授業を終えた生徒が数人集まって話をしていた。校舎もそうなんだけど、異様に設備が整っている。なんでこんな問題児の寄せ集めのような学園に潤沢な資金があるんだろう。裏で何かの陰謀が動いている気がする。考えすぎか?


 3階へ上がると、春風が頬を撫でる。今朝、凶也が廊下の窓を開けたままにしてたみたいだ。窓の横には「校舎への飛び移り禁止」という張り紙がある。

 一番奥の部屋を見るとそこだけ扉が開いたままになってる。無用心だな。あいつと同室なのは、やっぱり不安だ。


 部屋を覗くと、意外に綺麗に整頓されていた。ただ、床や机にくないやらの忍具が無造作に置かれている。あいつは忍の末裔(まつえい)とかだったりすんのかな? となると静刃先生のあの格好は、コスプレとかではなく、本職の忍なのか?

 部屋に入り窓を開けると、町の様子が一望出来る。良い風も入るし、中々どうして条件の良い部屋だ。俺は何だか気分が高揚し、何を思ったか自分のベッドへ勢い良くダイブした。


「やっほ~~い!!」

 ベッドの弾力で身体が弾む。


「……………………お前、俺っちの部屋で何してんだ?」


 振り向くと部屋の入り口で、凶也が立っていた。俺の行動に少し引いている目をしている。

 静刃先生にしても、こいつにしても気配が無いので困る。


「今日から君のルームメイトになる杉原です。どうぞ、ヨロシク」

 俺はベッドから起き上がり、笑顔で握手を求める。


「は? マジかよ? ルームメイトが決まったって、お前のことかよ。冗談じゃねーぞ。つか、てめぇ。さっき、俺っちのこと見捨てやがって。覚悟出来てんだろうなぁ」


「まぁまぁ、落ち着きなって。そんな昔のこと水に流そうよ、凶也クン」

 俺は、両手を挙げ降参のポーズをとる。


「………………お前さ、俺っちがどういう人間か知らねぇだろ? その身に教えてやるよ」

 突如、凶也の表情が豹変し、凍てついてゆく。と同時に、凶也の姿が視界から消失する。次の瞬間、首筋に何か冷たい物が触れた。


  (え…………?)


 視界の端に黒い物が映る。これは、くないだ。何時の間にか凶也が背後から負ぶさるように俺にくっつき、両脚で挟み込むように俺の両腕を封じ、両腕で俺の首を羽交い絞めにして、くないを俺の首につきつけている。

 これは、疑いようも無く暗殺術だ。このご時世にこんなことをやっている連中が存在したのか。職業として成り立つということは需要があるということなんだろう。


 でも、本来身の危険を感じ恐怖するはずのこの状況で、俺に恐怖は無かった。においを感じたからだ。凶也が俺にくっついた時、俺は凶也から自分と同種の異質なにおいを感じた。そして俺が感じたのは恐怖ではなく、親近感だった。


 俺は何だか、可笑(おか)しくなり、少し笑った。


「……っ!?」

 凶也が俺から離れる。


「何が可笑しいんだ? お前、マジにイカれてんのか?」

 凶也は理解できないものを見るように俺を見る。


「いや、案外お前とは仲良くなれそうだと思ってさ」


「はぁぁ? 意味がわからん」


 凶也は脱力し、くないを机に置いて、自分のベッドに横になる。

「もういいよ、お前。勝手にしろ。俺っちは寝る」

 そう言うと、凶也はすぐに寝付いた。


 そっと自分の首筋に触れ、傷ついていないことを確認する。リュックを肩から降ろし、机の上へ。

 持ち物はほとんどないので整理する必要もない。疲れていたので、自分のベッドに横になった。今日の出来事や、家族の事、これからの事がぐるぐると頭の中を巡る。色々な事を考えている内に、いつの間にか夢の世界へと誘われていた。


 次第に空は紫色に変わり、闇が少しずつ町を覆ってゆく。

 静寂が不吉な影を招くかのように辺りを包み、少しずつ夜へと変わる…………



 空腹で目を覚ました。時間は夜7時。

 昼に宮内さんの弁当を食べさせてもらったけど、やっぱりそれだけじゃ育ち盛りの胃袋はご不満のようだ。学園内にある学生食堂は夜遅くまでやっているらしいんだけど、お金が無いんじゃどうしようもないし。


 (う~、これじゃ、寝付けないな……)


 途方に暮れていると、凶也も目を覚ました。

「腹減った……飯でも買いに行くか…………」

 そう独り言を呟き、凶也はゆっくり起き上がり部屋を出ようとする。凶也は俺の視線に気付き、訝(いぶか)しげにこっちを見る。


「何だよ?」


「……別に」


 凶也は不思議そうに観察していたが、はたと気付く。

「ああ、そうかそうか。そういや、お前金が無いとか言ってたっけ。付いて来るか? 俺っちが お前の眼前で美味そうに飯を食う所くらい見せてやってもいいぜ」


 こいつと仲良くなれるなどと思っていた数時間前の自分を殴りたい。でも、空腹でそんな気力すら沸かない。

 こいつに頼んでも金を貸してくれるなんて有り得ないしな。


 そう思って再び凶也の方を見ると、何やら険しい顔をして校舎の方をじっと見ていた。


「……どうした?」


「お前、今、校舎の地下の方から大きな音が聞こえなかったか?」


「いや? 何も聞こえなかったけど」


 何だ? さっきまでのにやけ顔が消えている。突如、男子寮廊下にあるスピーカーにノイズが入り、そのあと園内放送のスイッチが入る。


<< 緊急放送。緊急放送>>


 何事だ。こんな夜中に?

 俺と凶也は廊下に出る。他の部屋の学生も数人廊下に出ていた。


<< ただ今、地下から高等部の学生が1名逃走しました。寮の学生は決して部屋から出ないで 下さい。繰り返します------->>


 地下から? 学生が? 逃走? した? 一体何を言っているんだ。


「糞っ!! いい加減にしろよ。あの馬鹿。もう知らねぇぞ、俺っちは」


 凶也が憤っている。が、俺にはこの状況が飲み込めない。

「凶也。教えてくれ、何が起こってるんだ?」


「あぁ? また、逃げ出したんだろ。あの狼女が」

 狼女…………犬神さんのことか。逃げ出した?


「校舎の地下に何かあるのか?」

「うるせぇな。独房だよ。ドクボウ」


 独房って学校にあるものなんだっけ? もしかして凶也が昼間、犬神さんに絡んでいたことに関係あるのか? 俺は、凶也の肩をつかむ。


「俺に分かる様に、状況を説明してくれ」

「は? 面倒くせぇな、お前。他の奴に聞けよ」


 凶也は俺の手を振り払う。明らかに機嫌が悪い。俺は、廊下に出てきていた隣の部屋の学生2人に聞くことにした。


「多分、1年4組の犬神さんだろ」

「間違いねぇって、今日満月だし」

 学生2人が答えてくれた。


「ヤバイよな、彼女。可愛いけどさ」

「え? お前、見たことあんの?」

「ああ、前回地下から逃走したときな。野次馬しに行って見て来た」

 学生2人で話をしている。質問に答えてくれ。


「へえ、俺も行って見ようかな」


「やめとけって。彼女、満月の夜は野獣化してっから。狼少女っての本当らしいぜ。映画の狼男みたいにけむくじゃらになるわけじゃねぇけど、俺が見た時はマジで顔が野生の獣みたいだったな。前回の時も、相当怪我人出したらしいぜ。俺が見た時、彼女の両手血塗れだったもん」


「この学園じゃ、ああいう生徒が毎年数人は入学して来るんだよな。だから、教師連中でも手に負えない状態の奴は、地下の独房で拘束しとくんだと」


 2人の会話からおぼろげながら状況はつかめてきたけど、かといってどうする。おそらく野獣化?した彼女は、凶也が命を賭けなければ捕らえられない程に危険な存在のようだ。俺が太刀打ちできるはずもない。


 先生達に任せた方がいいのか? 俺が迷っていると、背後の階段を勢い良く駆け上がって来る足音が聞こえ、振り返る。


「凶也君! お願いっ、刹那を止めてっ!!」


 パジャマ姿のまま汗をかきながら息をきらしている宮内さんの姿があった。

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