拭えない憎しみ
ここは何処だろう?
前も後ろも真っ暗。
一寸先さえ闇に包まれ、自分が今立っているのか座っているのか酷く曖昧な感覚が襲った。
温度なんてものは無くただただ暑くもない寒くものない矛盾した感じに俺はぶるっと身震いさえ起こした。
何処だろうか?
考えをまとめようとするが頭に霧がかかった様にはっきりしない。
その時今いる所から少し離れた所に光が灯った。
鬼火というのだろうか儚く淡い茜色の光。
俺はその光に魅き寄せられるかのように、足は勝手に動いていた。
光に近づいていく。
どんどん。
どんどん。
どんどんと……。
光に近づくにつれて自分の体に温もりが戻ってくる。
ドクンッ!
自分の鼓動が早鐘のように激しく脈打つ。
この感じ。
このぬくもりは……。
知っている。
忘れるはずがない。
何年たっても覚えている。
強く撫でてくれた大きな手。
優しく包んでくれた優しい体。
天真爛漫に花が咲いたような顔。
───父さん、母さん、初音……。
声に出そうと思っても、何かが詰まったかのように声にならない。
光に近づく。
淡い光が俺の体を包んだ。
「どうした?司狼」
その声を聞いた途端、体の奥底からジワっと衝動が込み上げてきた。
そこに居たのはダイニングで大きな机を何時も四人で囲み、今は俺以外の三人が席についていた。
──泣きそうだった。
低く優しい声色。
俺達をいつも心配そうに見守ってくれていた。
父さん。
「何をしているの?司狼」
何時も穏やかな父さんに代わり俺達を叱ってくれた。
だけどそこには優しさが必ずあった。
母さん。
「泣きそうな顔してるよ?お兄ちゃん」
何時も俺の右肩に擦り寄って甘えてくる妹。
何度も離れろと言っても離れなかった。
初音。
死んでしまったはずの家族が目の前にいる。
皆立ち尽くしている俺を心配そうに見つめている。
暖かな──大切な俺の家族。
そして突然奪われた大切な家族。
俺はそれを求めるように震える手を必死に伸ばした。
父さん、母さん、初音も俺に手を伸ばしてくる。
あぁ、もうすぐで、もうすぐで触れられる。
触れ合いたい。
その光を。
温もりを……。
触れた。
家族の指に触れた。
だけど、おかしい。
暖かくない。
何故?
俺を包んでいた暖かな温もりは?
まるで死人のような……。
そう思うと指にヌメリと嫌な感触がした。
ブワッ!
全身の毛穴という毛穴から嫌な汗が噴出して来る。
嫌だ。
自分の頭が何に触っているのか瞬時に理解してしまう。
見たくない。
見たくない。
見たくない。
だが俺の意思とは無関係にまるで何かに操られているかのようにギギっ、ギギッと前を見てしまう。
そして、俺は──見た。
繋いでいる指からは真っ赤な雫が滴り落ち、闇に吸い込まれていく。
それが俺の腕を伝い、尋常ではない量の雫が俺の腕を真っ赤に染め上げていく。
見てしまった。
ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうっ!
俺が掴んでいたそれ(・・)は手から先が無かった。
俺を見ていた暖かな瞳も、温もりも、笑顔も……。
全部全部最初から無かったかのようにきれいさっぱりなくなっていた。
代わりにあるのはさっきまであったとは全く逆。
冷たささえ覚える虚無。
そして更に代わりにあるもの。
それは俺より少し奥にいた。
それはズチャ、ズチャ……と嫌な音を立てながら何かをしている。
そうだな。
あれが何をしているかわかる。
分かってしまう。
あれは……俺の家族を解体してるんだよっ!?
夢にまで見た。
何度も殺そうとも思った。
だけど忘れられない。
じいさんにあってから緩和されたが当時の記憶が鮮明に思い起こされる。
憎い。
ダメだ。
憎い。
ダメだ。
ダメだ。
憎い憎い憎い。
次第に俺の感情が一つに統率されていく。
絶対に思いたくない俺の封印したい感情。
憎しみ。
『殺せ』
何処からか声が聞こえてくる。
それがどこから聞こえてくるのか。
誰なのか、そんなことは今はどうだっていい。
『さすれば貴様に力をやろう』
俺はこの言葉が酷く正論な気がしてきた。
だけど本能ではやつを殺したい。
理性が俺に歯止めをかけていた。
やつがこちらを向く。
やめろ、それを乱雑に扱うな。
やつの手には何かぶら下がっている。
やつはそれをまるでゴミは扱うかのように雑にその辺に放り投げた。
……妹にナニシテヤガルンダァァァァアアアアっ!!
自分の体にまるで麻薬の様に快感が走る。
それは一瞬で俺の体を走り回る。
まるで生き物の様に時には激しく。
俺の体を暴れまわる。
そして俺の体はその感覚に耐え切れなくなったかのように、自然と意識を手放した。
「……ぅっ」
誰かが叫んでる。
「……ろぅっ」
この声を聞くと酷く安心する。
俺は何をしていたんだっけ……。
家族に会ってその後……。
そうだ、その後の記憶が酷く曖昧だ。
「司狼っ、大丈夫!?」
ようやく頭が覚醒してきた。
俺を呼ぶ声。
「アルセ……」
「あ、起きた!?」
「どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよっ、司狼すごくうなされてたよ?」
「ホントに?」
「うん、それに……ホラ」
アルセはそういうと俺の頬に指を這わせる。
するとアルセの指が湿っていた。
これは?
何故濡れているんだ?
「司狼……泣いてる」
え?
そう言われ手を頬に添えてみる。
本当だ。
確かに濡れている。
俺の目からも確かに涙は流れていた。
するとコンコンと控えめにトビラがノックされた。
俺は急いで涙を拭うと了承の意を伝えると。
「失礼します」
落ち着いた物言い。
入ってきたのはグラシオさんだった。
「少々強い力を感じたのですが……発していたのは?」
俺達は体に力を込めた。
疑っている?
だが、
「そう警戒しないでください、こんな老体です。その必要もないでしょう?」
本人はそういうがこの人はどこか油断ならない。
俺達はいっそう体に力を込めた。
「そうですか……残念です。ですが、これだけは言わせてください」
何を言うつもりだ?
グラシオさんはアルセではなく俺を見つめ、
「……大きな力に負けないで下さい……」
!?
フェンの力のことか!?
何故あなたが知っている?
問いただそうとしたがその前に、
「失礼します」
と、部屋を出て行ってしまった。
「「ふぅ」」
と俺とアルセは同時にため息をついた。
「グラシオさん……司狼を見てたよね?負けないでって、どういうこと?」
アルセが不思議そうに顔を傾げる。
だが俺はその質問に対して何も答えなかった。
『さすれば貴様に力をやろう』
その言葉が俺の頭にずっとリフレインしていた。
毎回見てくださる方々ありがとうございますっ
今回は早い段階で更新できました
休日は暇なので……
さて今回の話は
完璧超人っぽかった司狼君ですが、精神的にはかなり不安定です
ゆらゆらと揺れています
それがこの後の物語にどの様な影響を及ぼすのか
グラシオさんは果たして何者なのか
楽しみにお待ち下さい♪
感想などお待ちしています
次回の更新は?
未定ですね(笑