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作戦開始2

 きゃっ、がたっ、う・・・ぐっ


 剣道部のほうから小さな悲鳴と呻き声が聞こえた。浩二さんと兄貴が、奈々美を確保したんだ。あちらも順調なようだ。


 沙南が奈々美の呻き声を聞いて、急に沙南が暴れ出した。おそらく沙南は、奈々美の身に何かあったのかと心配になったのだろう。しかし、今、沙南に声を出されたり音を立てられたりするわけにはいかない。


 翔平は、沙南を落ちつかせようと声をひそめて話しかけた。


「沙南、頼む。今はこのまま動かないで。奈々美は大丈夫だよ。それより沙南に騒がれるとまずいんだ。」


 翔平の声に沙南の動きが止まった。翔平は、ほっと息を吐くと沙南の口を塞いでいた自分の手をどけた。

 

 隣も静かになった。静寂が戻ってきた中で、翔平は自分の心臓の音と沙南の息遣いに気持ちが集中していくのを止められなかった。


 沙南の口元からどけられた翔平の手は、抱きしめるように沙南の胸の前で交差している。少し身を屈めて沙南の耳元に顔を寄せた。ふわっと鼻をくすぐる沙南の甘い匂いに、翔平は、束の間、自分の置かれている状況を忘れた。


 このまま抱きしめていたい・・・


 そう思った時、翔平の意識を現実に引き戻すかのように、隣の方からうすいピンク色の封筒が送られてきた。同時に、浩二の声がした。


「翔平、その手紙、頼んだぞ。」


「・・・・・わかった。」


 いよいよだ。


 これからが正念場。Tが、どんなことを仕掛けてきても、沙南には絶対触れさせない。誰にも、沙南を傷つけさせたりしない。





「あった、翔平・・、カギを見つけたぞ。わりぃ、手間取らせて。さっ、早く行こうぜ。」


 海斗が声を張り上げて一平に言った。ふたりは、正門から学校に入ると、ふたたび坂道を下り始めた。


 ~♪♪~~♪~♪~


 ふたりが坂を下り始めた途端、海斗の携帯が鳴った。今度は、さっきみたいにバイブではない。レベル6の音量で海斗の好きなアーティストの曲が流れる。


 レベル6は、さすがにやりすぎだったかな・・・?


 思ったよりも大きなコール音に、海斗は、芝居してるのがTに気づかれやしないかと内心ドキドキしながら携帯に出た。


「も、もしもしっ、優衣、どした?」


 海斗は携帯に応対しているふりをした。


「えっ、うんうん、わかった。すぐ行く。」


 携帯を切ると、海斗は一平に向かって話しかけた。


翔平・・、わりっ。優衣が迎えに来いって言ってる。俺、優衣に告ったばっかだから、あいつの機嫌を損ねるわけにいかない。今から迎えに行くよ。翔平は先に行っていてくれ。」


 今のセリフは本心だからクサくなく言えたと、海斗は内心ほくそ笑んだ。そして今来た道を引き返して行った。


 一平を置いてまたまた坂をのぼって正門から出ていく海斗を見送ってから、一平は、帽子を深くかぶり直して、部室へと向かった。


 自然に早足になる。


 あと少しだ。もう少し頑張れば、シナリオどおりにやり遂げられる。


 一平は、武道場の横を通り過ぎ、一目散に部室へと走った。部室の前でジャージのポケットからカギを取り出すと、見かけだけカギを開けるふりをして部室の中に入った。


 かちゃっ、ばたん


 薄暗い部室には物音一つしない。だが、この暗がりの中で翔平と沙南が身を潜めているのだと一平は思った。ふたりが一緒だと考えると胸が苦しくなる。


 まだ踏ん切りがつかないよな・・・


 一平は自嘲気味に笑った。だが、自分の役目を忘れたわけではない。素早くドアの左側の壁の前まで行くと、すっと屈んで隣へと続く穴に潜り込み、剣道部側に出た。


「よくやった。一平君。」


 浩二は、囁き声でそう言うと、一平の肩に手を置いた。一平が肩越しに振り返ると、浩二が笑っていた。その後ろに、さるぐつわをかまされ史輝に押さえこまれた奈々美がいた。薄暗くてよくは見えなかったが、奈々美の頬が濡れているように見えた。


 涙・・・かもしれない。けれど、俺は奈々美に同情なんか、できない。





 一平が部室に入ったのを武道場の近くに潜んでいた人影はしっかりと見ていた。その人影は、にやっと笑って立ち上がると、ゆっくりとテニス部の部室に向かった。


「翔平君、君には悪いが、私ももう、後には退けないんだ。」


 人影は、顔を歪めてそう呟いた。


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