第一話「目覚め」
…寒い。
けれど、暖かい。
…明るい。
でも、暗い。
僕は今何をしている?
俺は今どこにいる?
私は…なんだ…?
無数の情報が流れ込んでくるが、そのどれもが曖昧だった。
正しいのか、間違っているのか、判断すらできない。
ただひとつ分かることがある。
俺はずっとここにいる。
どのくらいだろう?
一年か
十年か
百年か
わからない、忘れてしまった。
これは夢なのだろうか…長く…長く続く夢。
そして…刹那、光が差した。
光が僕の視界を包み込み、僕は目を覚ました。
「ん…うぅ…?」
そうして、目を開けると…段々と光に慣れた目が、灰色の天井を視界にとらえる。その天井はひび割れており、苔むしている。
体を起こし、状況を確認しようと、周囲を見渡す。
薄暗いえらく殺風景な部屋に、崩れ落ちた壁、その他に気になる点と言えば…なぜかひどく荒れていることだろうか?
そして、そのまま視線を下ろし、俺は自分が寝ていた物と、自身の状態を確認する。
何も衣服類は身につけていないらしく、少し肌寒い。
自分が寝ていたものは…ポットだろうか?
楕円形の形をしたもので、ある程度大きな物でも中に入れそうだ。
外装はかなり古びているが、ちゃんと稼働している。
ポットの蓋の外側には無数の引っ掻いたような傷がついていた。
「…?なんだろう。」そう言いながらも、僕は自分の状況を確認しようと、記憶を遡ろうとする。
その瞬間、頭に激痛が走る。
激しいノイズと、理解できない音。
視界が揺れる、吐き気が込み上げる、足から力が抜けそうになる。
頭が重い、まるで脳の奥へ何本もの針を突き立てられているようだった。
私は思わずポットの縁を掴む。
痛い、辛い、これは──嫌だ。
「っ…!あ゛ぁ゛っ゛…!う゛…!あ゛ぁ゛ぁ゛…!」喉の奥から声が捻り出される。
早く、この地獄が終わることを願いながら、僕はそれに耐える。
耐えて、耐えて…耐えて──
数分後、私はやっと落ち着きを取り戻していた。
どうやら記憶を思い出そうとするのがトリガーみたいだ。
「…ここで止まってても埒が明かないよね。」そう呟き、僕はポットから降りる。
少し高さがあり、ポットの縁に掴まりながら、つま先立ちで降りる。
肉体は正常に動くようで、床がひんやりしていて、少し身震いをしてしまう。
「…私はなんでこんなところに…」
「…私?」
「ん〜…違う…僕…」
「違うかな…俺…?」
「…全部なんか違う…ま、いっか。」と言い、そのまま歩みを進める。
そのまま部屋の中を眺めながら歩いていると、何かを踏む。
それは、白衣?と呼ばれる衣服のようだった。
「…寒いから、これを着よう…」と、俺は白衣を着る。
「…そんなにあったかくない…」と言い、偶然鏡が目に入る。
「…?生き物…?」壁の向こうに誰かいる、そう思い、近付く。
すると、相手も近付く。
「……。」
じっと見つめる。
向こうも見つめる。
「……。」僕は手を振る、すると向こうも手を振る。
「…なんだこいつ…間抜けな顔…」そう呟いて、何となく頬に触れた。
その瞬間だった、頬に触れた指。
鏡の中の生き物も、まったく同じ場所へ触れていた。
「……あ。」そこで初めて気付く。
この生き物は──私だ。
僕の動きを真似していたんじゃない。
俺が向こうの動きを真似していたわけでもない。
最初から同じだった。
「……私。」鏡へ触れる、冷たい。
「俺って、こんな顔なんだ…」と言い、マジマジと見つめる。
「…なんか、男か女なのかよくわからない…」全体的に体つきは細く、純白の髪は肩ほどの長さで、紫色の目が光を放っている
「…多分…男…だよね?」と言い、自分の下半身を確認する。
「…うん。」と言い、開けた白衣の前を閉める。
周りの散乱した物とかと比べると、私はかなり小さいようだ。
くるりと一回転する、どうやら、これが今の私らしい。
「……うん。」
特に面白い発見もなかった、私はそのまま扉へ向かう。
理由は単純、『退屈』。
ここにいても何もない、だから行く。
ただ、それだけだった。
扉を開けると、冷たい風が肌を刺激した。
「ん…」
そこは自然と同化したかのような廊下、ツタや苔の他に、花まで咲いている。
「…なんて言うんだろう…これ。」と、花を見て呟きながらも、廊下の異常な点に目を向ける。
壁や床に何かの引っ掻き傷のようなものがあった、それは僕が寝ていたポットの蓋についているものと少し似てると感じた。
そのまま、部屋の扉の上の部屋のネームプレートを見る。
「第 適 存実験 」と、途切れ途切れだが書いてある。
「実験…室?」と、小首を傾げるが、気にせず進むことにした。
だが、進もうとした時、なぜか、背中に冷たい汗が垂れた。
だが、私は進む、この退屈を払拭するために。
汚れ、荒れた謎の台、散乱した注射器などなどが広がる部屋を見ながら、しばらく進んでいると、右の部屋に目が行く。
何かの棚が倒れて、壁にもたれかかっている。
ここに来るまでも何度も見た光景だったけど…棚の下に何かが光っているのが見えた、それが僕の興味を引いた。
「んしょ…んしょ…ん〜…」と、四つん這いになって、棚の奥まで手を伸ばす、そこは棚に乗っていた瓶の破片が散乱していたが、気にはしなかった。
「…!」手が届いたそれを引き寄せる。
「…なんだろうこれ…筒と箱がくっついてる…?」と言いながら、触っている。
それは黒い光沢を放つ金属、冷たく、重たい。
それに触れた瞬間、私の脳内にノイズが走り、脳内に文字が浮かび上がる、「安全装置を外せ」、俺はそれを理解できなかったが、身体はそれを理解したようで、無意識のうちにカチッと何かを動かす。
「…?なんか出た。」と、その金属の物質を引っ張ってみていると、その筒の上部部分が動き、そこから何かが飛び出す。
僕はそれを掴む、それは金属でできた半円がついた円柱状の小さな何か、僕はそれを興味本位で口に含む。
「…苦い…」と言い、私はそれをぺっと吐き出す。
「他には?」と言い、その筒の中を覗き込む、暗い空洞。
「…これは…グリッ…プ?だった…気がする…」と言い、その金属製の何かを握る。
妙にしっくりと馴染む、まるで元々握っていたかのように、自分のために設計されたかのように。
「…なんか面白そうだし持っていこう…」と言い、手に持ち、歩き出す。
「…廊下長い…」と、ボソッと呟くのだった。
少し進むと、曲がり道があり、そこを曲がると…そこには何かが横たわっていた。
「…同族?」姿形を見比べ、大体が同じ形をしていることからそう判断する。
それは横たわったままピクリとも動かない、だから、どうしたのか確かめるために俺はそれに近づく。
近づいた、その刹那──
僕の体が勝手に身体を背後へ反らせる、何かを感じ、勝手に動いた。
それとほぼ同時に、僕の鼻先を鋭利な何かが通過し、右の壁に深々と突き刺さる。
もし、今避けなかったら、この腕は私の頭に突き刺さっていただろう。
僕はそこへ目を向ける。
紫色の僕と似た形の何か。
でも、どこか違う。
左腕だけが、異常に大きい。
「…同族…?君、誰?」と話しかける。
だが、返事は帰ってこない。
ズボッと音を鳴らし、そいつは壁から腕を引き抜き、こちらを向く。
次の瞬間、そいつの足が膨れ上がった。
地面がひび割れるほど強力に地を蹴り、一気に私との距離が縮まる。
僕は咄嗟に身を翻し、避けるが、その爪が頬に掠り、僕の頬に生暖かいものが滴る。
僕は頬に右手で触れ、赤く染まる指を見つめる…なんだろう…この感覚は…これは、嫌だ──。
「……どうして、俺に嫌なことするの?」
「……そんなことするなら、私もやり返していいよね。」そう言って、腕に力を込める。
だが、何も起きない。
(あいつは、できていたのに…)と思いながら、僕は小首を傾げる。
そんなことをしていると、そいつは再び地を蹴る。
だが、もう見た攻撃だ。
回避するが、爪が髪を掠め、数本髪が宙を舞う。
俺の横を通り過ぎていくそいつに、手に持っていた金属製の筒を向ける。
そして、私の頭に言葉が浮かび上がる──それは「拳銃」。
それを認知した瞬間、握っていた拳銃のトリガーを既に僕は引いていた。
僕が自分の意思でやったのではない、自然と、自分の都合がいいように体が動いたような、そのような感覚──。
私が放った弾丸は、そいつの爪に直撃し、甲高い音を周りに響かせ、火花を散らし、爪にヒビが入った。
攻撃が空を切ったそいつは、そのまま身を翻し、慣性を使い腕を僕の方へ振り下ろす。
体が勝手に動く、気付けば僕は後方へ飛び、攻撃を避けていた。
(わかりやすい…)と考え、拳銃をもう一度向ける。
まるで扱い慣れているかのように、また弾は自然と命中する。
甲高い破壊音と共に、俺は3本ある爪のうちの1本を破壊した。
破壊された爪は宙を舞い、重力に従い床に突き刺さった。
その次の瞬間、そいつは言い表せないような不気味な音を出した、まるで叫び声のように。
それと同時に、そいつの足が膨れ上がる。
迫る爪を躱しながら二発撃つ。
弾丸は頭部に命中し、紫色の頭蓋に亀裂が走る。
またしても僕の横を通り過ぎるそいつ。
振り向き、そいつの背中を見つめる。
そいつも振り向き、私を見つめる。
だが、瞬きした次の瞬間──既にそいつは僕との距離を詰めていた。
なんだ?この感覚、体が震える、何か、妙な感情を覚える。
咄嗟にその爪を回避するが、爪の先端が私の左腕を切り裂いた。
私の横を通りすぎ、少ししたところで、そいつは止まり、異様なほどに体を捻り、体を反らせ、俺を見て
「イェヒェッヒェッ」と不気味な音を発した、まるで笑っているかのようだ。
左腕が熱くなり、嫌な感覚、そう、「痛み」、それが電流のように脳に伝えられ、鮮やかな赤が床に滴り落ちる。
…これが…焦燥と困惑。
後退り、壁を背にして構える。
ほんの一瞬だった、ほんの一瞬、ほんの僅かな瞬間、やつの足が膨れ上がったのが見えた。
それが見えたのと同時に、俺は横に避ける。
なんとか避け、僕はそいつに目を向ける。
すると、頑丈な壁に、そいつの腕は深々と突き刺さっていた。
「…かかった。」瞬時に僕は拳銃をそいつの右膝に向け、3発の弾丸を放つ。
そいつの膝は砕け散り、片膝をつく。
そうして、僕はゆっくりと、ゆっくりとそいつに近づき、そいつの頭に拳銃を突きつけた。
そうして、次の瞬間、私は引き金を…引いた──
だが、弾は出ない…これは…弾切れだ。
次の瞬間、俺は背後へ飛ぶ。
私がいたその場所を、爪が切り裂いた。
次の瞬間、そいつはまたしても急速に距離を詰め、僕の襟を掴み、言い表せないような醜い声を出し、私を横に向かって投げ飛ばす。
廊下に投げ出され、床にぶつかり、数回俺の体は跳ね、自然と減速することで、やっと停止した。
視界が回る。
口の中に鉄の味が広がる。
起き上がろうとする、だが、上手く力が入らない。
顔を上げると、そいつがいた。
ゆっくりと、確実に、こちらへ近付いてくる。
逃げなければ、そう思うのに、体が動かない。
胸の奥が冷たい、手が震える、呼吸が乱れる。
嫌だ。
死にたくない。
その瞬間、僕は理解した、これが──「恐怖」。
そして、そいつは私の頭を掴み、持ち上げ、爪を心臓へ突き刺そうとする。
「…はは…」と、俺の口から笑みが溢れでる。
確かに、怖い…だけど…希望はあった──。
そうして僕はそれをそいつの頭に突き立てる。
僕が投げ飛ばされた場所にあったもの。
私が破壊したもの。
俺を今刺そうとしたもの。
そう、それは──さっき砕いたこいつの爪だ。
そいつは力無く…地面に倒れ、僕もそのまま離された。
安堵が心を覆い、全身がずっしりと重いように感じた直後…僕は、そのまま…瞼が重くなり…どんどんと意識が闇に呑まれていく。
薄れゆく意識の中、『実験体No.006、成功個体No.2』と…脳内に声が響き渡り…私は意識を失った。
第二話を楽しみに待っててね。




