表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/38

第三十七話 安宿にて

 参ったなあ。


 これで怒られるの確定だよ。


 いや、だいぶ長時間抜け出ていたから、とっくに確定していたとは思うけど。


 俺はそんなことを思いながら、リリーサの後についてホテルの階段を昇った。


 ギィギィと音が鳴る。


 お世辞にも上等とは言い難い宿だ。だがそれでもこの町では一番いいところらしい。


 階段を昇りきり、二階へと到着した。


 二階は今日、他に客がいないらしい。


 まあ、だからどうだという話だ。


 リリーサは角部屋が良かろうと思い、階段上がって一番奥の部屋にした。


 俺はその隣の部屋。


 まあ、もしも侵入者が現れたとしても、これなら大丈夫だろう。


 いや、ちょっと待て。


 本当に大丈夫か?


 二ヶ月前に暗殺未遂事件があったばかりだぞ?


 俺は途端に不安がよぎった。


 急激に背筋が寒くなる。


 俺は前を行くリリーサを呼び止めた。


「リリーサ、ちょっと待ってくれ。やっぱり宮殿に帰ろう」


 リリーサは予想通りに、眉根を寄せて振り向いた。


「何を言っているのよ今更!」


「いや、やっぱりまずい。帰ろう」


「いやよ。帰らないわ」


「リリーサ、また暗殺者が襲ってきたらどうするんだ?」


 リリーサは愉快そうに笑い出す。


「大丈夫よ。だってここには剣豪と大魔導師がいるのよ?問題ないわ」


 自分のことを剣豪だってさ。


 ま、レイナに気を遣ってか、剣聖と言い出さないだけましか。


「あの時はレイナとネルヴァが敵の数を減らしてくれていた。そうでなければ勝てたかどうかわからないよ」


「何言っているのよ。数が多くたって勝っていたわよ」


「あのさあ、あの時リリーサは剣を落として絶体絶命だったじゃないか」


 俺はあの時を思い出し、責め立てた。

 

 だがリリーサは、臆面もなく言い放った。


「そうだったかしら?よく覚えていないわ」


「いやいやいやいや、絶対覚えているはずだよ」


「そうだったかなあ~?まあでもそうだとしても、貴方がいれば問題ないじゃない。あの時だって助けてくれたし」


 ほら、覚えてるじゃん。


 俺に助けられたこと覚えているじゃん。


 まったく。


「だから今日も問題ないわよ。何かあったらよろしくね!」


 リリーサは満面の笑みでそう言うと、俺に背を向け、一番奥の部屋へと入っていった。


 俺はまあ仕方ないというかなんというか。


 ちょっと嬉しい気持を胸に、その隣の部屋へと入っていった。




 夜も深まり、俺はベッドに横たわって、天井を仰ぎ見ながら考え込んでいた。


 二ヶ月前の暗殺未遂事件。


 ネルヴァたちが調べてくれているものの、いまだ首謀者は誰か判っていない。


 ただメリッサ王国は現在、諸外国とは対外的にかなり上手くいっているらしい。


 だから今、外国勢がリリーサを暗殺する可能性は薄いとのことだった。


 それ故、敵は身内の可能性が高いということらしいが――。


 それと、あの敵が、慌てて攻めて来たことが気になる。


 何か切迫している事情があるはずだ。


 ネルヴァたちも、その辺の事情から調べているらしいが――。


 俺はそこでのどが渇いていることに気付いた。


 面倒だなと思いつつも、身体を起こす。


 そしてゆっくりと洗面所へ向かって歩いた。

 

 洗面所は入り口の所にある。


 俺は静かに水差しを手にして、コップに水を注いだ。

 

 ゆっくりと水を口の中に流し、一口ゴクリと飲み込んだ。


 その時、目の前に鏡があることに気付いた。


 夜も更けているとはいえ、今宵は満月のため、窓から差し込む月明かりが、煌々と俺の顔を照らしていた。


 どうも顔が疲れているような気がする。


 俺はコップを置いて、マジマジと自分の顔をのぞき込んだ。


 やっぱり疲れているな。今日一日走り回ったせいだろう。


 落ち窪んだ目が、それを物語っている。


 そう思ったその時、扉の外から微かに音が聞こえた。


 それは……ギィ……という床を踏みしめるときに出る音だった。


 俺は一瞬でギョッとした。


 ゆっくりと音を立てずにドアに耳をそばだてる。


 すると、ほどなくしてまた……ギィ……という音が聞こえた。


 俺は念のため、待った。


 するとやはり……ギィ……という音が。


 確定だ。


 かえって安宿でよかった。いい宿だったら足音は聞こえなかったろう。


 俺はそこで一旦気持を落ち着けた。


 音は一人分しか聞こえない。


 二ヶ月前は百人だった。


 今回は数を絞ってきた。


 となれば、相当な手練れのはずだ。


 俺は気持を引き締めた。


 そして俺の部屋の前を通り過ぎるのを待つ。


 横から攻めるより、後ろからの方がいい。


 俺は高鳴る胸の鼓動を聞きながら、その時が来るのを刻一刻と待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ