雨
「引く…」
(やっぱり)
「引く?? 俺、そんな態度してましたか? それだったらすみません。全くそんな事ないです。いや、交際の時点からこんなに真剣に考えてるのって素敵だなって、一瞬ぼーっとしてました」
「素敵ですか!? 私から出しといてなんですが、キモいとか怖いとか、思っても言えない状況だったら、全然言ってもらって大丈夫なので!」
せっかく否定されなかったのに、予想外の言葉に、自虐しちゃう私。
(素直に感謝の気持ちを伝えれたら良いのに…。それができないから、こんなやり方を思いついたんだけどおお…)
「刹那さんが良ければ、受け取っても良いですか? いきなり交際は、できない事はないですが、お互いを知らないまま、彼氏彼女となるのは違う気もしますし、これから何度かあって判断してください。ちなみに俺は、一目惚れをしてしまったので…」
(一目惚れえええええ!? しかも、私の爆弾が柴田さんの懐に…。自分で撒いた種なのにこの状況に着いていけないよ〜)
「あ、ありがとうございます…。そう言ってもらえて嬉しいです。では、ご都合の良い日に、どこか出かけましょうか」
「良かった。では、来週の土日はご都合どうですか?」
「来週、どちらも空いてます」
「そうですか。では、土曜日にでも、出掛けましょう。どこか行きたい所はありますか? 初対面で言うのが難しかったら、僕が考えても良いでしょうか?」
「あ、はいっ。お任せします…」
(凄い…。私から言い出しにくいのを分かって、率先して予定を決めようとしてくれてる。こんな人が彼氏だったら幸せになれそうだな…)
目の前に、素敵な人が現れたはずなのに、石田さんの顔がチラつく。
「え」
「どうしたんですか?」
私は目を疑った。
(また居るのかよぉーーーー!)
頭の中でチラついていた石田さんは、私の目にも映ったのだ。
(今回は私のこと、気づいてなさそう。位置的に、石田さんは奥の席、私は入り口の近くだから、出るなら今!)
「ご、ごめんなさい。外見たら、ちょうど雨が降っていて、洗濯物を外に干して来たから、濡れちゃう!と思って…」
(私、部屋干し派だけど、ごめんなさい柴田さん!!)
「え!! そうなんですか!! それは大変です。今日はこの辺りでお開きにしましょう。土曜日の件は、レンラクンで連絡しますね」
(普段は雨ダルいけど、今日はお天道様ありがとうっ!)
柴田さんとは、忙しなく解散する事となった。
家に着くと、レンラクンの通知が2件入っていた。1件は柴田さんだ。
『今日は、ありがとうございました。お洗濯物、無事でしたか? 刹那さんにお会いできて、短い時間でしたが、楽しかったです。また連絡させてもらいますね』
律儀な人だ。私の取扱説明書を少ししか読んでいないのに私の欲する事をしてくれる。いや、待てよ。連絡の事は、冒頭の方に書いていた。もしかして、早速、実行してくれているんじゃ…。
もう1件は、希ちゃんだった。
『今日どうだったー?』
と、今日の事が気になっているようだ。返信をせず、すぐに電話をして、今日会った事を話すと、
「めっちゃいいじゃん!! 柴田さん、旦那から聞いた感じだと、奥手って聞いていたから、結構、積極的でビックリだわ。刹那的にはどうなの?」
「…うーん。すっごい素敵だし、私の理想をそのまま叶えてくれそうで、付き合ったら楽しいだろうなって思った。でもね、まさかの、石田さんもあのカフェに、またいたの」
「まじ!? まぁ、前にもあったし居てもおかしくないけど、そんな頻繁に通ってるのあの人」
「コーヒー豆をよく買いに来るんだって」
「えー!! それ知らなかったから、無神経なことしちゃった。ごめーん、石田さんの事で悩んでるのに」
「いいよ。今日は石田さん気づいていなかったし」
ブブッ。
(ん? アプリの通知かな?)
通知の反応があり、希ちゃんの電話をスピーカーに変えて、通知を確認した。
「やばい…」
「え、どうした?」
血相を変えて凍りつく私の言葉に、心配する希ちゃん。さっき鳴った通知は、レンラクンの通知だった。しかもその相手は石田さんだった。
『今日、楽しそうだったね。来週の土曜日は忙しそうだから、日曜日、僕に時間作ってくれるかな? 盗み聞きしちゃったみたいでごめんね。でも聞こえちゃったから、日曜日、上書きさせてほしい』
(話全部聞かれてたーーーーー。しかも、上書きって何するの)
「希ちゃん、私、心臓の動きが活発すぎて、心臓がもたないかも」
「えーーーー!! なに、心配なんだけど。とりあえず深呼吸して!!」
深呼吸をしないといけないのは、希ちゃんの方だと言いたいぐらい、希ちゃんを焦らせてしまった。その後、石田さんからのレンラクンを伝えると、希ちゃんは大興奮していた。
そして、いつもの日常に戻り、木曜日。柴田さんから送られて来たレンラクンで、土曜日に行く場所が決まった。場所は、海。ドライブデートをしながら、海に向かうというプランだ。海開きがまだされていないから、海を感じに行くだけだけど。私は、泳ぐのが苦手だけど、海を見るのは好き。取扱説明書にも書いてあったから、それを参考にしてくれたんだろう。凄く嬉しいはずなのに、素直に喜べないのは、きっと石田さんのせいだ。
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