第41話:異物の正体
俺はゆっくりと荷物の中から黒地に派手な舌のロゴが描かれた服を取り出した。黒地に派手な舌のロゴが描かれた、ローリングストーンズのライブTシャツ。
フードの男はそれを見るなり、表情を強張らせた。
「……やはり、それか」
「これの何が問題なんだ?」
俺が問いかけると、男は慎重に距離を取りながら低く呟いた。
「その布には、この世界では再現できない技術が使われている。それだけではない……その“柄”には、強い呪術的な力が宿っている」
俺は驚いてTシャツを見つめた。
「いや、これただの服だぞ? 俺の世界ではよく知られた柄なんだ」
リーナも興味津々といった様子で覗き込む。
「確かに、この模様は見たことないわね。でも、呪術的な力って……?」
男は目を細め、慎重に言葉を選ぶように続けた。
「これは、数百年前の文献に記されていた。『赤き舌の印』——それを纏った者は、人々を狂わせ、無秩序をもたらすという……」
「待て待て待て、そんな大層なもんじゃないって! これはただのバンドのロゴで、俺の国では普通の服なんだよ!」
しかし、フードの男は首を横に振った。
「お前の国ではそうかもしれない。しかし、この国では“異物”は異物だ。お前の持つものが、この世界の理から外れたものである以上……その影響は計り知れない」
俺は思わずTシャツをたたみ直し、再び荷物の奥にしまった。
「……どうするべきなんだ?」
男は一瞬考え込んだ後、静かに告げた。
「お前の持つそれ……買い取らせてくれ」
俺は驚いた。「え? 買うのか?」
男は興味深そうに服を見つめながら頷いた。「私はこの世界に存在しないものを研究している。異物を手に入れる機会など滅多にない。ぜひ、私に譲ってほしい」
俺は少し考えた後、男の腰にかけられた魔法具に目を留めた。「じゃあ交換にしないか? そっちの魔法具と」
男はしばし沈黙した後、満足げに頷いた。「いいだろう。それならば公平な取引だ」
俺は服を手渡し、代わりに男から魔法具を受け取った。
「ところで、これって何なんだ?」
男は満足げに頷きながら説明を始めた。
「それは魔法の光源だ。稀に市場で売られるが、高価なものだ。光魔法で代用できるが、これは魔力を使わずに永遠に光を放つ。特に魔力を持たない者にとっては重宝される代物だ」
俺は興味深くその魔法具を見つめた。「魔力なしで光るってことは、ずっと使えるってことか?」
「その通り。冒険者や商人の間では便利な道具として人気がある」
俺は思わぬ収穫に、交換して正解だったかもしれないと感じた。