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虹色アゲハ  作者: よつば猫
カラスアゲハ
22/41

「聡子、って呼んでもいい?」

ピロートークで、揚羽の髪を撫でながら尋ねる鷹巨。


「……いいけど偽名よ?」


「うん、それでも。

さん付けじゃないだけで、一歩前進かなって」


「相変わらずバカね」


「聡子は相変わらず正直だね。

……好きだよ」

そう囁いて、鷹巨がチュッと額にキスを落とすと。


 揚羽はキュッと胸を締め付けられる。



 発端のキスもそうだが、こんな行為をしたのは……

単独の頃、詐欺目的でした数回だけで。

プライベートでは、11年前の仁希以来初めてだったため。

その甘く情熱的な行為に絆されて、鷹巨に愛着を感じていたのだ。


「……私の事、何も知らないくせに?」


「これから知ってくよ。

信用はされるもんじゃなくて、勝ち取るもんだと思ってるから」


「さすが、自称やり手営業マンね」


「自称って、ちゃんと結果残してるし。

聡子にもいつか、結果で気持ちを証明するよ」


「その前に、騙されて終わりかもね」


「騙さないよ、聡子は。

これだって、ちゃんと利用って言ってたし」


「バカね、私は詐欺師よ?

今までの発言だって、あんたを信じさせる手口かもしれないわよ?」


 すると鷹巨はふっと笑って……

「だったら騙していいよ?」と、今度は頬にキスを落とした。


「もぉっ……

どこまでバカなの?」


「そこはバカじゃないよ。

だって手口なら、わざわざそれを匂わさないだろうし。

騙されてもいいくらい、好きなだけだから」


 そう言ってまた唇を重ねると、揚羽もそれに応えて……

鷹巨が腕の中に包み込むと、ぎゅっとそれが返された。


「もっと、抱いてい?」


「んっ……

全部、忘れさせてくれるんでしょ?」



 2人の甘い吐息が、再び夜の闇に溶けていく中。

倫太郎は一晩中、揚羽の安否に不安を募らせながら……

2人が性的そういった関係になっている事も想定し。

切なさに押し潰されそうになりながら、その動向を見守っていた。





 そして朝を迎えると。

鷹巨のおかげで落ち着きを取り戻した揚羽は、起き上がってすぐにハッとする。


 もしかして倫太郎は……

私がまだ帰っていないから、ずっと動向を見守ってくれてるんじゃないかと。


 さらに、いくらプライベートとはいえ。

バディの意見を無視して、元ターゲットの家に押し掛けるなんて、どれだけ心配をかけただろうと。


 今さら、事の重大さに焦ると。


「おはよ、聡子」

グイとベッドに抱き戻される。


「鷹巨っ……

ごめん、もう帰らなきゃ」


「えっ……

じゃあ送ってくよ」


「ううん、行くとこあるからタクシー呼んで」


「……わかった。

でも俺んちに来た時のタクシー代は、強制で俺払いだから」


「もうっ……

わかった、ありがとう」

押し問答の時間も惜しんで了承すると、すぐに服を着始めた。



「あと……」


「まだあるのっ?」


「うん。

利用でいいから、もっと会いたい」


 その不意打ちとひたむきな想いに、揚羽の胸はぎゅっとなる。


「……とにかく、また連絡するから」


「うん、待ってる」

チュッと唇を重ねる、いちいち甘い行動に……

戸惑う揚羽。



 そうして、呼んでもらったタクシーに乗り込むと。

すぐに携帯の電源を入れ、倫太郎の家に向かった。

まだ起きているなら、直接謝りたかったのだ。


 倫太郎は、やってきたタクシーに合わせて揚羽の位置情報が移動してるのを確認すると。

ひとまず胸を撫で下ろして、帰路についたが……

途中でそれが自分の家に向かっていると察して、先に帰ろうと慌てて戻った。



 寝ていた場合を考慮して、合鍵で部屋に入った揚羽は……

散乱した床と、倫太郎がいない状況に唖然とする。


 身勝手な行動に対する、それほどの怒りや。

それでも心配して、また駆けつけてくれたかもしれない事を物語っていたからだ。


 そこで、一足遅く倫太郎が帰ってきた。

なんとか揚羽より先に着いたが、駐車時間のロスでギリギリ間に合わなかったのだ。



「つか朝っぱらから来んなよ」


「ごめん……

もしかして、ずっと近くで待機してくれてたの?」


「は?

そんなヒマじゃねぇし」


「じゃあどこ行ってたの?」


「っせーな、腹減ったからコンビニ行ってただけだし」


「何も買ってきてないのに?」


「っ、帰りながら食ったんだよっ」


「じゃあこの部屋は?」


「それはっ……

寝ぼけて転けただけだし。

つかいちいちうるせんだよっ」


「……ごめん」


 自分を気遣ってか、必死に誤魔化そうとしている倫太郎に……

揚羽は泣きそうになりながら、散乱したものを片付け始めた。


「あぁも、いいから帰れよ」


「なんで怒らないのっ?」


「は?

別に、お前が無事なら怒るとこねぇだろ」

そう言われて。


 ぼろりと涙が崩れ落ちる。



「心配かけて、ほんとにごめん……」


「……泣くなよ。

生姜焼きで、勘弁してやるから」


「っ、それだけっ?」

倫太郎の不器用な優しさが心に沁みながらも、それに応えて泣き笑う。


「あと……

もしもん時のために、携帯の電源だけは絶対に切るな」


「……ん、ごめんっ。

いつもほんとに、ありがとう……」


 もしかしたらバディを解消されるかもしれないと、心のどこかで不安になっていた揚羽は……

当たり前のようにこれからの事を話されて、胸が暖かいもので締め付けられる。



 そして、以前は誰とも組む気なんかなかったのにと。

今では倫太郎を失うのが怖くなってる自分に、秘かに驚いていた。





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