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虹色アゲハ  作者: よつば猫
カラスアゲハ
21/41

 翌日から、柑愛は店に来なくなった。


 辞めると連絡があったらしいが……

携帯の動き見る限り、数日経っても次の店を探してる様子はなく。


 塞ぎ込んでるんじゃないかと、その状態や金銭面が心配になった揚羽は……

「悔しいなら戻ってきて、あんな男見返してやりなさいよ」と、留守電でけしかけてみたものの。


 何の反応もないまま、週末を迎えた。



 すると例のごとく、久保井が何事もなかったように来店する。


 自分との勝負のためかと思った揚羽だったが……

指名されたのはなぜか、店のナンバーワンだった。


 どういう事?

今度はその子をターゲットにするつもり?




 次の夜、揚羽はまた久保井をその潜伏先で待ち伏せた。


「あんた、私と勝負するんじゃなかったの?」


「また待ってたんだ?健気だね。

そのキャラでそーゆうの、悪くないよ。

でも毎回こんなとこで話すのもなんだし、部屋で話そっか」


 部屋で?

思わずドキリと身構える。


「あれ、怖いんだっ?

そんなんで俺と勝負出来る?」


「笑わせないでよ、誰があんたなんか。

さっさと案内しなさいよ」



 部屋に入ると、そこは今チェックインしたかのような状態で……


 ほんと、手掛かりを残さない男ね。


「それで?

なんでナンバーワンにも手ぇ出すワケ?」


「そんなの、揚羽ちゃんを庇うために決まってるじゃん。

別れる時に柑愛が、揚羽さんに何か言われたからでしょ?ってキレてたからさっ」


「……つまり心変わりを装って、怒りの矛先をそっちに向けたって事?」

揚羽は一瞬揺さぶられそうになった心を、慌てて本題に縛り付けた。


「そっ。

相手がナンバーワンなら、プライドの傷も最小限に抑えられるし。

1番稼いでるコだから、詐欺のターゲットにしても不自然じゃないし。

その地位を掴めるような魅力的なコになら、目移りしてもおかしくないし。

他にも色々便利だからね」


「なるほどね。

だったら別れ話の時に心変わり(それ)を言うべきだったわね。

今さら庇ってもらっても手遅れだし、無駄骨もいいとこよ」


「手遅れって、もうなんかされたんだっ?」


「そうよ。

あんたの詰めが甘いせいで、こっちはビールまみれよ」

プイと憎らしげに顔を背けると。


「ごめん……」

不意に抱き寄せられて。


 揚羽の心臓は大きく弾ける。


 と同時に、甘くて残酷な匂いに包まれて……

それにぎゅうっと抱き包まれる。


「っ、離してよっ」


 胸が早鐘を打つとともに、苦しいほど締め付けられて……

必死に久保井の腕から逃れようとするも。


「離さない、って言ったら?」

さらにぎゅっと抱き締められる。


「ふざけないで!

早く離してっ……

悪いと思うなら他の方法で示してよっ」


「他の方法って?」


「知らないわよっ。

とにかく離して!」


 すると久保井は腕を解いて、揚羽の顔をクイと持ち上げると。

その唇に自分のそれを重ねた。


 刹那、心臓が止まって固まる揚羽に。

久保井の唇がゆっくりと絡んで……


 激しく胸を握り潰された揚羽は、久保井を思い切り突き飛ばした。


 途端、ぼろっと不可抗力に涙が零れて……

今度は久保井が、きょとんと固まり。

直後、小馬鹿に吹き出した。


「え、キスくらいで泣くっ?

あ、もしかして。

そーゆう、実は純粋設定で落とす作戦?」


「っ、だったらなにっ?

少なくとも、そういう行為で落とそうとするよりマシだと思うけどっ」


 我慢しても、次から次へと涙が落ちる揚羽は……


「そんな低レベルな手口で勝負持ちかけてくるなんて、とんだお笑い種ね。

私を落としたいなら、もっと頭使うのね」

そう吐き捨てると、逃げるように久保井の部屋を後にした。



 そこで、抑えてたものが一気に弾けて。

いっそう涙に襲われる。


 抱き締められた時の、大好きだった甘い匂いや。

唇に残る、愛しい感触に……

あの頃の感情が甦って、苦しくてたまらなかったのだ。


 こうも簡単に、あんな男に心が動かされる自分が許せなくて。

なのに唇は、もっと仁希を求めてて……


 揚羽は何度も、泣きながら何度も。

唇をゴシゴシと擦って、必死にその感覚を消し去ろうとした。


 なのに全然消えなくて……


「なんでよ……

ううっ、なんでよっ!」

そんな揚羽の声を。


 盗聴器越しに聴いていた倫太郎も、胸を幾度となく潰されて……

遣り切れない思いに苛まれていた。



 それから盗聴器が切られて、しばらくすると……

倫太郎は、タクシー移動らしき揚羽の動向が、ある場所に近づいている事に気付く。


 まさかと思いながらも……

発信機は予想通りの場所で止まり。

慌てて揚羽にメッセージした。


〈おいそこ岩瀬んちだろ、何してんだよ〉


〈ちょっと用があるの〉


〈用って何だよ、危ねぇだろ〉


〈大丈夫よ、心配しないで〉


 埒が明かないと焦った倫太郎は、すかさず電話に切り替えた。



「大丈夫なワケねぇだろ!ヤケになんなよっ」


『あれから鷹巨とは何度も会ってるの!

それで判断した結果、大丈夫だって言ってんのっ』


 その事実にショックを受けて、言葉を失う倫太郎。

だけど。


「そーやって油断して盗聴器仕掛けられたの誰だよっ」

胸の痛みに襲われながらも、そう反論する。


「そうだけどっ……

だとしてもプライベートなんだから口出さないで!」


 その約束を持ち出されて、再び何も言えなくなる倫太郎だったが……

それでも行かせる訳にはいかなくて。

行かせたくなくて。

必死に揚羽を引き止める。


「だからって!

まだ監視カメラとか付いてるかもしれねんだぞっ!?」


『いいからほっといて!』


 そう言って揚羽は電話を切ると。

電源まで落として、鷹巨の元に急いだ。


 一刻も早く、自分に残る仁希を消し去って欲しかったのだ。



「クッソ!!」


 倫太郎は、繋がらなくなった電話と引き止められなかった自分に苛立って、テーブル上の物を床になぎ倒すと。

片手で覆った顔を、苦しげに歪めて項垂れた。


 でもやっぱり、どんなに大丈夫と言われても心配でたまらなくて……

いつでも助けられるように、急いで揚羽の側に向かった。




 その頃揚羽は、鷹巨の部屋の玄関チャイムを鳴らしていた。


 エントランスロック解除の際には、突然訪問して来た聡子の姿に驚いた鷹巨だったが……

その時の様子がおかしかったため。


 いらっしゃい、と優しく出迎えると……

揚羽はすぐさま、その胸に飛び込んだ。


「ねぇキスしてっ…

利用していんでしょっ?

上書きして全部消してよ!」


 その言葉に、再び鷹巨は驚くも。


「ん、いいよ……

俺が全部忘れさせる」

そう囁いて。


 揚羽に優しく口付けた。



 そしてすぐに、唇を絡めると……

甘く、濃密に絡め合い。

同時に舌も這わせ始めると……

ふいに口内へと潜り込み、今度はそれを絡め合う。


 次第に2人は激しく求め合い。

夢中でそれを続けるうちに……

自然と、ベッドへ流れ込んでいったのだった。





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