第1話 前世の記憶が蘇った時
みんなは前世の記憶が蘇ったことはあるだろうか?
全くいないわけではないと思うが、普通はないだろう。
俺はある。
俺はセイン・グランベル。
現在3歳だ。
俺には、セイン・グランベルとして過ごした3年間の記憶とは別に、高橋翔太という前世の記憶がある。
いや、高橋翔太の記憶の方が強い。
前世の俺は、ラグビーが大好きだったが、運動神経も悪く、足も遅かった。
いや、社会人ラグビーをやっていて、一時期は日本代表に選ばれそうになったから、一般男性と比べたら運動神経は良かったのかもしれない。
だが、アスリートの中では上には上がいる。
キリがない話ではあるが、俺の中では全く納得できなかったんだ。
日本代表に選ばれそうになった時、筋肉をたくさんつけた。
もっと俊敏に動けて、頑強な体が欲しかった。
結果、体が重くなり、動き出しが遅くなり、想像した動きが全くできなくなった。
それから、普段の試合でも活躍できなくなった。
今でもハッキリと監督の一言は覚えている。
「翔太、お前のピークは過ぎたんじゃねえか? このままじゃ試合に出せねえから引退しろよ」
いや、俺はまだ26歳ですけど!?
ふざけんな!!
クソジジイ!!
俺はまだまだやれる!!
そんな矢先に大地震が起きて、瓦礫に埋もれ、死んだんだ。
そんな前世の記憶が蘇ったのは、つい先ほどだ。
きっかけは、現在、緑色をした醜悪な人物と対峙していることだろう。
「ぐぎぎぎぎっ!!」
その醜悪な人物から漏れた声だ。
声というか鳴き声?
こいつは短剣を俺に向けて、殺意満々だ。
この不審者から逃げたい。
いや、人間ではなさそうだから不審物だ!
だが、足が全然動かない!
体が重すぎる!
前世の動けない体とは違うが、セイン・グランベルの体も全く動けないのは一緒だ!
今世はこいつに殺されて死ぬのか!?
嫌だ!!
今世の父さんと母さんはすごい美男美女で優しい。
俺はまだ、美人な母さんに甘えたいんだ!!
俺は逃げようとして、足がもつれ転んでしまった。
その緑の不審物は俺に向かって短剣を振り下ろしてくる。
終わった……
その瞬間、緑の不審物は一刀両断された。
「グギャ!!」
上半身と下半身が真っ二つだ。
「セインに手を出そうとしやがって!! とんでもないゴブリンだ!!」
ふと見上げたら、父さんが剣を肩に担いで立っていた。
心臓がバクバクと激しく脈打っている。
俺は泣いた。
マジで死んだと思ったわ!!
殺意満々で短剣を振り下ろされそうになったら、そりゃ泣くでしょ!?
日本ではそんな体験したことないからな!
母さんが家から飛び出してきて、俺を抱き上げた。
「セイン!! 大丈夫だったかい!?」
父さんは母さんに少し怒った。
「クレア! 何していたんだ!! 俺が鍛練で庭に出ていたから良かったが、そうじゃなかったらセインは死んでたぞ!?」
母さんが目に涙を浮かべながら俯いた。
「ご飯支度をして少し目を離したら、いつの間にかいなくなっていたのよ。セイン!! ごめんね!! お母さんダメだったね!!」
そう言って、俺の体に顔をつけながら、ゴブリンの死体を蹴りまくっていたのを俺は見逃さなかった。
父さんはそんな様子を見ながら呆れたように肩をすくめた。
「全く……! クレア、気を付けてくれよ? 最近のセインは動き回るんだ。絶対に目を離さないでくれ」
そう言って、父さんはうちの広大な庭から見える森の方を見た。
「だが、最近は魔物が活性化しているとはいえ、まさかうちの庭に出るとはな。周辺を一度ロウエンと自警団で狩り尽くさないと安心できんな」
母さんはそんな父さんを見ながら言った。
「そうだよ! こんなところまで出るなんて安心できないよ。早いところそうしておくれ!」
魔物!?
さっきゴブリンとか言っていたよな。
前世でゲームに疎かった俺でも知っている。
あの緑色をした醜悪なヤツが有名なゴブリンか……
父さんはこの土地を治める領主だ。
いつも、父さんが鍛練していた理由は、魔物から領地を守るためだったのか。
俺はそんなことを考えながら、母さんに抱きかかえられていた。
下から母さんの顔をマジマジと見た。
本当、綺麗で美人な若い母さんだな。
金髪で切れ長な目をして、顔が整いすぎている。
母さんは俺の視線に気付き、笑顔を向けてきた。
「セイン、泣き止んだのかい? かわいい顔してどうしたの? チューしてほしいなら、いくらでもしてあげるよ」
そう言って、母さんは俺にキス攻撃を浴びせてきた。
俺はそれを甘んじて受け入れた。
ああ、幸せ……
こんな美人な母さんに甘えられて、キスまでされるのは今世の役得だよな。
俺は父さんを見た。
俺の父さんは金髪のイケメンで、背が高い。
体には筋肉がかなりついているが、つきすぎているほどでもなく、俊敏に動けそうな雰囲気がある。
見るからに動ける体だ。
父さんはそんな俺の視線に気付き、笑顔で近づいてきた。
「どうした、セイン? お父さんのチューも欲しくなったか? いくらでもしてやるよ」
そう言って、俺は父さんのキス攻撃を受けた。
ぐああーーー!!
やめろ!!
俺にはそんな趣味はない!!
母さんが父さんを制止した。
「あんた、嫌がってんじゃないかい! やめなよ!」
「えっ!? 何で!?」
「髭が痛いんじゃないかい? 鍛練の途中だったんでしょ? 私はセインと家の中に入るよ」
「あっ……ああ」
父さんは顎をさすりながら、寂しそうな顔をした。
そして、背を向けて物凄い速さで剣をふるった。
この世界は、どうやら魔物を剣で倒す世界のようだ。
さっきの俺は、逃げようとしても足がもつれ、父さんがいなければ死んでいた。
動けない、戦えないは死に直結するのだろう。
文明レベルは現代日本とはまるで違い、移動手段は馬で、明かりには油を使っている。
中世くらいの文明レベルなのではないかと思った。
この世界に、前世のようなスポーツがあるのかは分からない。
だが、魔物から自分の身を守れる身体が必要なのは分かった




