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宵宮祭

 青森旅行からしばらくした次の月、白根は再び、初代の顔を見に、京都へ訪れた。昼過ぎに着いてまだ時間もあったので、白根はかねてより一度は足を踏み入れてみたかった場所へ向かった。

 バスに揺られ、三十分程して、東山が高く聳える慈照寺へと続く、哲学の道に出た。白根は金閣や清水に訪れたことはあるが、銀閣の元に向かったことはなかった。その後悔に似た思いを胸に持ち、申し訳なさにかられながら、坂を上っていた。

 そして慈照寺に入り、まず急に現れたようにそこに姿を表す銀閣に白根は驚きの声を漏らした。

 銀閣らしいといえばらしかった。その無邪気さに白根は可愛らしさを思った。思ったよりも小さく、それでいて、厳格であり立派な物であった。

 銀閣の生まれもったであろう愛おしさは初代に通ずるものがあった。

 東山に続く山を上り、白根は高い場所から銀閣を覗いた。後ろの林が壁になり、銀閣を守るように聳え立っている。遠くには京の街並みが広がり、山の奥にも街は広がっていた。

 二匹の鳥が合わさるように飛び、その瞬間に、陽が隠れた。冷たい風が吹き始め、蝉の声が強くなった時に再び陽が姿を現した。

 全くの静けさであり、のどかな暖かみは夏には似合わないような気がした。

 この日は祇園祭の宵山の日である。白根は初代を連れて見物に行くことになっていた。

 花見小路で初代と落ち合い、二人は八坂神社へと向かった。

 四条大橋の先の道もこんこんちんちきは無いが人は変わらぬように溢れかえっていた。

 その先にある八坂神社へと向かう人と帰る人が混ざり合い、それは混沌とした街の風景であった。

「八時に間に合うやろか」

 初代は目を下に下げ、その暗闇を真反対に遠ざけていた。

「見えてきた」

 八坂神社が目の前に現れ、二人は人々に溶け込み、その波に流されていった。

「ぎりぎりだな」

 間に合ったものの、人々の背の後ろに顔を覗かせ、その始まる時を今か今かと待っていた。

八時を過ぎると、太鼓が響き、宵宮祭が開始を告げた。周りは話し声が少なくなった。これが皆の緊張を引き締めた。

 宵宮祭が終わりを告げた時、白根はふと、初代を見た。

 白い顔が灯に照らされ、神様の顔のように思えた。

 私の愛子とでも言うべき愛しさはこうも鋭く刺さりくるのかと思われた。

「君は私を狂わせるのではないか」

 初代の耳に届かない声で呟いた。

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