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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片紫莉
第三章

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76/111

76 熱、成長

「じゃあ、オレは教室の隅っこにいるからな」

「すいません、立見さん」

「いいよー、むしろかさばってスマンね」


 からからと笑いながら司狼は生徒にぶつからないようにと教室の隅へ歩いていく。余っていた椅子を適当に引きずってくるとそのまま腰を下ろして足を組んだ。授業参観にしてもフリースタイル過ぎる気がする。


「学校、なぁ……」


 司狼は静かに目を細めた。前回来たときは教室には入れなかった上に廊下はバグだらけで人っ子一人いなかった。いや、正確には子どもがいなかっただけで人類解放の会の下っ端はいたのだが。

 活気というのはこういうものかと事件の当時のことを頭の片隅に押しやりながら考える。南条高校はシステム面含め、ほとんど普段の様子へと戻っていた。生徒たちの話題も最近流行りの漫画やアニメにすり替わっている。


 子どもというのはよくも悪くも順応しやすい。自己を探している最中は色々なものや考えに染まって、ふらふらと道を彷徨うのだ。暗い場所に、危険な場所に行かないようにと、時に手を引いてやるのが大人の役目なのだろう。


 時折、その大人の役目を()()()が請け負うこともあるのだが。


 にこりと真意の見えない顔で笑う同い年の子どもが頭の中を過る。青年期の司狼の手を引いたのは要だった。

 地下の箱庭とて危険はある。そしてその危険は司狼自身だった。


 日本で初めての能力持ちデザイナーベビー。それも発火能力(パイロキネシス)と言う非常に強力なもの。大人の思惑通りに動かないようであれば、()()もあり得たことだろう。


 司狼と名付けられる前の子どもは、人よりも体温が高いだけの幼児だった。その高すぎる体温は疾患なのではないかと疑われていたほどだ。本人は元気に走り回る健康優良児ではあったが。

 その体温は年齢を重ねるごとに高くなっていき、徐々に彼自身を蝕んでいくこととなった。ベッドの上で滝のような汗をかき、点滴を受けながら生きていた少年が、その体温を制御できるようになったのは、能力の開花と同時だった。


 彼を診察した医師の話では、幼少期からの高い体温は炎を操るにあたって身体を熱に慣らすためだったのではないかと言われている。

 実際彼は能力を開花させた際に全身火だるま状態になっていたが、鎮火後の身体は表面に軽い火傷を負う程度に留まっていた。()()()()()であれば、奇跡的に死ななかったとしても、重篤な障害が残るほどの重い火傷を負ったことだろう。


 能力開花後の十四の青年は、彼に関する記録や記憶の全てを厳重に封されて他のデザイナーベビーからは隔離されることとなった。

 この際に彼は個体認識のために立見司狼と名を付けられた。そうして同年代の子どもの代わりに耐火服を着た大人たちに囲まれて育てられることになる。


 大人たちは、司狼に怯えていた。当然聡い子どもはその事実に早々に気づいた。


 要に引き合わされたのは、自分が生きるために彼らの力が必要かどうかを見定めていた時期でもあった。地下施設を能力によって破壊し、一人外へ出るという選択肢も司狼には存在したのだ。

 司狼は外の世界をほとんど知らないが故に、その選択肢を取らなかった。世間と隔離して育てていたのが、功を奏していたのである。


「立見さん?」

「……お?」


 不意に声をかけられ、思考が途切れた。瞬くと目の前に立つ紬の姿が網膜に像を結ぶ。


「次、家庭科で教室移動なので……」

「ん、わかった」


 一限目が終わってもぼんやりしている見えた司狼に声をかけてくれたらしかった。護衛にあるまじき失敗である。

 司狼は立ち上がると教室を見回す。生徒たちはおしゃべりしながら荷物をまとめ、次々教室を出て行っていた。支度を終えた瑠璃が紬の元へと駆け寄ってくる。


「行こ、紬ちゃん」


 うん、と返事をした紬がもう一度司狼に気づかわし気な視線を向けた。それに片手を上げて応えながら、司狼は一つ伸びをする。紬の後をついて歩きつつ、端末のスリープを解いた。要への定期連絡だ。


「もしもし?」

『もしもーし、調子どう?』

「問題ねぇよ、そっちは?」


 要は今は道場の方にいるらしく、時折大きな物音がスピーカーから聞こえてくる。人志のものらしき声もうっすら漏れ聞こえていた。順調に真緒に叩きのめされているらしい。


『人志はぐんぐん伸びてるよ。司狼みたいなマッチョマンになる日も近いかもね』

「アイツまだ背も伸びてんだっけ……どこまで行くかね」


 対する司狼は一九三センチで止まって久しい。純日本人の遺伝子で構成された人志に比べればかなり大きい方だ。その人志も同年代の日本人の中ではかなり背が高い方ではあるが。

 少し前までは青年期らしく背の高さに肉付きがまだ追いついていなかった。そのため、司狼に比べればまだまだ縦に長いだけのような印象が強かったのだ。


『純恋は純恋で人志よりも下地あったしね……体格差はあるけど、勝率は五分五分くらいだよ』


 純恋は元バディの難癖で無理に身体を鍛えていた時期があった。その努力に身体年齢が追い付いてきたのだろう。こちらもメキメキと実力を伸ばしている。


「若いってのは眩しいねぇ……」

『それ言い出したら本気でおじさんだよ』


 呆れたような、それでも楽しそうな声音に司狼も低く笑った。

シロさんの昔の話を一つまみ。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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