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深刻なバグが発生しました。  作者: 四片ユカリ
第三章

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77 笑顔、好きなもの

◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 司狼の目の前にいたのは、自分と似たような成長途中の青年だった。手足を伸ばすことばかりに栄養が使われて、身体の方は薄っぺらい。

 温度のないエメラルドが笑みの形に細められ、薄い唇もにこ、と人懐っこく吊り上げられている。司狼に負けず劣らず端正な顔立ちの青年である。


「こんにちは、僕は御部要。今日から君のバディになる」

「……へぇ」


 気のない返事をした司狼に気を悪くする様子もなく、要はにこにこと笑みを崩さない。普通の子どもであれば、多少なりとも不快感を示すだろうに。そんな彼の様子に司狼は一種の気味悪さを覚えていた。


 まるで良く出来たプログラムを組みこまれた人形のようだ。


 AIを()()に組み込むのは法律によって禁止されている。故に国民に配られるガイドは全て動植物の姿をしているのだ。

 加えていかなる優秀なプログラムでも、()()()()()をコントロールすることは未だ出来ていない。表情筋への刺激等で疑似的に再現することは出来るが。


 己の前では穏やかに笑うようにプログラムされたナニカなのではないか、と当時の司狼はそんなバカげたことを考えた。自分のために用意された、人型のAI搭載のガイドなのではないか、と。


「そうだ、コレ君に渡すように言われてるから……はい」

「……何?」


 要が差し出した両の手にはそれぞれ黒と銀色のフレームの端末が載せられていた。首を傾げる司狼に、要の方も首を傾げつつ口を開く。


「君――えっと司狼と僕用の新しい端末だよ。どっちか好きな方選んで」


 好きな方、と司狼の声に困惑が乗った。うん、と要が応じる。


「シルバーとブラックどっちが好き? 他の色が良いならその色に変えてもらうけど」

「あ、いや……」


 司狼の戸惑いは最もだ。彼はこれまで生きてきた中で()()()()()()()()を選んだことなどない。与えられたものを与えられるがままに受け取ってきただけだ。

 おずおずと手を伸ばす。特に理由などなかったが、司狼はシルバーの端末を()()した。


「そっちにするの? カバーは自分で買って良いって言われてるから、後で探そ」

「……ん」


 受け取った端末を早速マイクロチップと同期させれば、画面に浅葱色の鷹が顔を出した。勝手に横から覗き込んでいた要が声を上げる。


「司狼のガイドも鳥なんだ? 僕のもだよ、ほら」


 向けられた画面の中では緑色のセキセイインコがくしくしと羽を繕っていた。要が指先でかまってやれば機嫌よく歌い出す。

 どこか楽しそうな横顔を見つめていたのに気付いて、司狼は無理やりに視線を外して口を開いた。


「あー……で、どうすんの? お前も俺と同じ授業受けんの?」

「うん、そうだよ」


 適当に尋ねた問いに肯定が返ってきて少し驚いた。司狼は自分が並外れて優秀であることを自覚している。受けている教育も当然ハイレベルなものだ。しかし、そんな自分の専属になるくらいの子どもなのだから、そういうものかと呑み込んだ。


「でも今日は引っ越しと模様替えしなきゃだから、明日か明後日からかな」

「……お前、ここに住むの?」


 現在二人がいるのは地下深くにある実験棟の一室だ。司狼の能力は当然だが未知の部分が多い。実験や検査がしやすいようにと実験棟の空き部屋に必要最低限の家具が用意され、そこに寝泊まりしている状態なのだ。

 広さや強度は十分だが、何せ人工光しかない地下室だ。自分はもう慣れ切っているが、見た目繊細そうなこの青年に耐えられるのか、と司狼はそんなことを考えていた。


 が、要はフルフルと首を横に振った。そうして司狼の手を取る。


「引っ越すのは君だよ。能力持ちのデザイナーベビー専用の部屋を作ってもらったんだ」

「つくってもらった……?」


 繋いだ手を揺らしながら要が頷く。今度こそ呑み込み切れずに半ば呆然としていると、立つように促されて同じくらいの手に引かれる。

 扉の近くに立っていた研究員が二人が通るのに合わせて左右に道を開けた。それに目を丸めているうちに廊下へと出る。要の足が向かっているのはエレベーターだ。


「地上じゃないけど、ここよりは過ごしやすいと思うよ」


 考えが顔に出ていたのか、要はエレベーターに乗り込みながらそう言った。がこん、と一つ揺れた箱がゆっくりと上昇していく。


「お前、なんなの?」


 監視カメラや集音マイクはあるのだろうが、狭い箱の中で二人きりだ。なるべく口を動かさないようにして小声でそう問えば、要はまたにっこりと笑った。口元を覆うように両手を添えたので素直にそちらに耳を傾ける。


「僕は()()()()()()()だよ」

「……なるほど」


 だから多少の無理は効くのだと、言外にそう言ってのけた要に司狼は薄く笑った。

 そうこうしているうちにエレベーターが目的の階に着いたらしく、電子音を鳴らした。


 要は当たり前のように司狼の手を引く。司狼も特に抵抗はせずに身をゆだねていた。やがて辿り着いた扉横のパネルに要が手を触れる。


『権限者、御部要を確認しました。フリールームのロックを解除します』


 無機質な声がそう告げて、静かに扉が開いた。


 司狼の視界にはだだっ広い空間が広がっていた。地下故の閉塞感を少しでも薄くするためか、天井が酷く高いのだ。床や壁は明るめの木目調となっていて、どこか温かみがある。

 何よりも驚くべきは、窓があったことだ。真昼ということもあり、さんさんと明るい光が部屋の中へと降り注いで見える。


「外の天気をそのまま投影してもらったんだ。本物じゃないけど、窓あると部屋が明るくなるよね」


 司狼が呆然と部屋を眺めていると、要はそんなことを言いながら右手の壁を指し示した。そちらには幾つかの扉が立ち並んでいる。


「あっちが個人用の部屋だよ。お風呂は部屋に備え付けのがあるけど、人数増えてきたら大浴場とか増設してもいいかもね」

「あ? ……あぁ」

「フリールームの方はどうしよっか。おっきいモニターとか欲しくない? それでゲームしたり映画見たりしたいよね」


 生返事にも気分を害した様子もなく、要は楽しそうに話していた。


「個人の部屋は全部作り一緒なんだって。僕は君の隣にするけど、司狼はどこにする?」


 小首を傾げる要に司狼は困ったように眉を寄せた。全部一緒ならどこでもいい気がするが、要は司狼の答えを待っている。


「あー……じゃあ、端っこ使うわ」

「オッケー。ほんとに今何にもないから、色々選んで買わなきゃね……ふふ、楽しくなってきちゃった」


 ころころと要が笑う。その一瞬だけはその笑みが年相応のものに見えた気がした。

ちょっと尖ってた頃の司狼さんと今とほぼ変わらない要さん。


閲覧ありがとうございます。

更新のたびに読みに来てくださってる方がいることが励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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