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君の影に。-僕と約束の妹-  作者: メロ
1st.第1話「女の子は、未知で出来ている」
24/35

チャプター3-5

 ──カッ、カッ、カッ、カッ……。


 秒針の音が鳴り響く静かなリビング。掛け時計に目をやり時刻を確認すると、二十二時前だった。

 夜遅くとはいえ僕と母さんしかいないリビングには妙な違和感があり、テーブルもいつもより広く感じる。少し前までは、これが当たり前だったのに。

「何も聞かないの?」

「んー? 何を聞くのー?」

 対面に座っている母さんは不思議そうに小首を傾げ、その様子から呆れに似た感情を抱いてしまう。

「今まで何してたとか気にならないの?」

「なんで? もしかして、悪いことしてきたのー?」

「そういう訳じゃないけど……外泊して、帰りが遅かったら普通は気になるんじゃないかな、って」

「んー、私はシンちゃんを信じてるから大丈夫よー」

 両手を組み、そこに顎を乗せてニコニコする母さん。信頼されてるのは悪い気分じゃないが……軽く悶々とする。

 とりあえず、気を紛らわすように温めなおしてもらったシチューを口へと運ぶ。すると、思いのほか熱かった……。

「ねぇ、何か聞いてほしいことでもあるのー?」

「別に」

「そっかー」

 しばらくの間、沈黙が続き、食器とスプーンがぶつかる音だけが響いていた。まるで心の準備をする為のように。

 そして、意を決して尋ねた。本当に聞きたかった事を。

「……あのさ、今日の都ちゃん、どうだった?」

「朝から出かけていたわよー」

「そう、なんだ」

「どうしてもやらないといけないことがあるって。 それでね、お昼は戻らないって言うから、お弁当を作ってあげたのー」

「昼も、帰らずに……」

「そしたらね、すごく泥だらけで帰って来たの。 何があったのか聞いても教えてくれなくて、ちょっと心配しちゃったわー」

 きっと、今日一日中探していたのだろう。あのストラップを。

「ところで、どうしてそれを聞いてきたのー?」

「玄関に泥だらけの靴があったから」

「…………。 そっかー」

 驚いたような顔をして少し間を置いた母さんだったが、すぐにいつものように微笑んでいた。母さんがそんな反応をした理由は分かっている。いや、分からない方がおかしい。僕がそれぐらい露骨に都ちゃんを避けていたから。

「そうそう。 今日のシチューはね、いつものと違って隠し味に白味噌を入れてるのー」

「…………」

「どう? 美味しいー?」

「……何で、黙ってたの……」

「隠し味なんだから先に言っちゃダメじゃないー」

「違うよ。 何で都ちゃんが家に来るのを黙ってたの?」

 あの時は気にする程の事でもないと言及しなかったが、母さんはシチューの隠し味だって自分から言ってしまうような人で隠し事はしない。というか、すぐ口を滑らせるから向いていない。

 その母さんが都ちゃんが来るのを僕に話さない訳がない。それに、あんなにも楽しみにしていていた。だから、意図的に黙っていたとしか思えない。

「んー、サプライズの方が喜ぶかなって」

「相変わらず嘘が下手だよ」

「あらー、それじゃあ本当はね、恥ずかしがり屋の都ちゃんの為に」

「母さんっ」

「はーい」

 母さんは嘘をつく時に、チラッと右斜め上を見る癖がある。だから、母さんの嘘を見抜くのは簡単だ。

「シンちゃんがあの子の話をしなくなったから、言わない方がいいかなって」

 僕が……話をしなくなった!?

「旅行から帰って間もない頃はね、ずっとあの子の話をしてたのよ。 楽しかったとか、あの子のために絵を描きたいとか、また会いたいとか」

「…………」

「それでね。 毎日『次いつ会える?』って聞かれていたわ。 一日に何回も聞いてきた時もあって、すごく好きなんだなぁって」

 僕にとってそれは全く身に覚えのない話だった。普通、そこまで思い入れのある話なら、聞けば断片的にでも、その時の記憶が戻るだろう。でも、今の僕にはそれがなかった……何一つ。

「なのに、それがある日ピタっと止まって……シンちゃん?」

「何でも、ない。 話、ありがと。 もういいよ」

「うん、分かった」

 それから、一言も話さずに黙々と食べた。少しだけしょっぱくなったシチューを。


 食事を終え、洗い物くらいは自分でしようと思い、流し台へ向かう。

「ねぇ、シンちゃん。 明日も朝から出かけるのー?」

「……出かけるよ」

「そっかー、明日は夜に台風が来るらしいわー」

「それまでには帰るよ。 けど、お風呂用意しといて。 多分、必要になるから」

「ふふ、はーい」

 その時、直接母さんの顔を見ていないが、その声色からすごく嬉しそうにしているのは分かった。

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