始まりのはじまり6
別邸に到着し、私たちは固まってしまった。
「なに…これ…?」
そこには報告にある通り『陣』があった。
だが、それを見て何なのか検討もつかなく、これも魔法なのかと思った。
それに隣に立っていた京ちゃんの様子を伺っても同じような表情をしていた。
「この『陣』に何か変化はあったか?」
お父さんは『陣』を見張っていたとされる護衛の人に話しかけていた。
「いえ、この奇妙な地鳴り以外は特に何もありません」
「そうか……。この『陣』を破壊することは可能か?」
『!?』
お父さんの発言に少し驚いていた。
「よろしいのですか?魔法を使えば可能かもしれませんが、どのような影響がでるか想像できません」
そう。魔法同士のぶつかり合いで被害が大きくなる事例はいくらでもある。特に今回みたいに得体のしれないものについては触れないのが吉である。
「確かに通常であれば、そのままにしておき検使庁に応援を頼むのがいいのだろう。だが、今回はあまりにも得体のしれないものだ。魔法で『陣』が必要だと聞いたことがない…。なら、効力が出る前に破壊するべきだろう」
「…かしこまりました。ならここは魔法同士の衝突をされるため複数人ではなく、私だけでまずやってみましょう」
「そうだな。ではたの…」
リーーーン リーーーン リーーーン
「……音が変わった?」
私がそう言った瞬間、『陣』にも変化が起きた。先まで地面にあった『陣』が空中に浮かんだのだ。
「何が起きるの……?」
京ちゃんも不安になっているのがわかる。だが二人とも今のこの現象に目を離せなくなっているようだ。
でも、私は不思議と怖いとは思わなかった。それに何故か私はこの時をずっと待っていたように気がした……
そして『陣』が光りだした。
あまりの輝きにそこにいた全員が目を覆ってしまった。
だけど、私は何とか見ようと薄っすらと目を開け見続けた。
…光り輝く『陣』はそこから地面にゆっくりと人を落としてきた…。
私は落ちてくる人を自然と目を追ってしまった。
その後、その場は静けさを少しずつ取り戻していき改めて『陣』を見ると輝きを失っていく。そしてそっと消えていった。
私はあの『陣』から落ちてきた人を見た。
気を失っているのだろうか。ピクリとも動かない。だが体の上下運動をしていることから息をしていることがわかる。
その人は今まで見たこともない鮮やかな純白の着物を着ており、容姿からして私と年齢差はそうないぐらいの男性だった。
でも、体は動けなかった。あまりの出来事に動揺してしまったのだ……。
しかし、そんな私をよそに京ちゃんが彼に近づいて行った。
「大丈夫ですか?」
「……」
京ちゃんが彼に話しかけた。しかし、彼は全く反応を示さない。
だからか、反応がなかったので京ちゃんが更に彼に近づこうとした。
「京香ちゃんそこでストップだ」
私がその様子を見ているとき、お父さんが静止するように呼び掛けた。
そして、その呼びかけ通りに京ちゃんは歩みを止めた。
「まだ危険が去ったとは限らない。あの『陣』から落ちてきた少年にも迂闊に近づくべきではない」
……その父の言い草に何か言いようのない苛立ちを覚えた。
さっきからどうしてしまったのか。言葉にすることができない気持ち募っている。
なら、言葉にできないなら行動で示すしかない。そう思った。
私は彼に向かって歩き出す。
「!?、さやか止まりなさい!」
「大丈夫よ……お父さん」
そして、地面に寝そべっている彼の横に立ち、脈などを確認した。
「…うん。生きてる!お父さん家に運んで治療を!」
護衛の人や京ちゃんたちはその行動に唖然としてしまっていた。
「ハア…まったく、指示は聞くようにとあれほど言ったのに…」
お父さんは明らかに頭を痛めてしまったという感じで、額に手を当てていた。
そして、お父さんも歩き出し、私の横に並んで彼の様子を伺った。
「気を失っているだけのようだな。治療は必要ない…本来ならこの少年は警察もしくは検使庁に預けるべきなんだが…」
そう言ってお父さんは私の顔を覗き込んだ。
「お願い…もう少しだけ待って。せめてこの人の目が覚めるまで」
「…わかった。しばらく様子を見よう。私としてもこの少年から話を聞きたい」
「ありがとう。お父さん…」
そう言ってお父さんは護衛の人に彼を別邸の空き部屋に寝かせるように指示を出してくれた。
そして、運ばれていく彼を見ていたら、京ちゃんが後ろから近付いてきた。
「彼何だったのかしら?」
「わからない。でも…悪い人じゃない気がするの…」
「でもめずらしいわね。さやかが男に興味を持つなんて」
「え!そんなんじゃないよ!」
「あんな行動してたら説得力ないわよ。…まあ私も興味を注がれて無意識に話しかけちゃったけど…」
けど、その気持ちはよくわかる。奇妙な地鳴りと『陣』、そしてそこから現れた人。これで興味を持つなというのが難しい。
でも、確かにさっきまでの私はおかしかった。今までこんな無茶なことしたことがない。
「?」
元々『陣』があった場所を見ていたら、そこに何かある。
さやかは近づいてそれを手に取った。
それはただの紙切れだ。だが、それはただ真っ白というわけではなかった。
さっきの『陣』と似たようなものが描かれており、如何にも古いと思わせるほどの質感の紙だった。
もしかしたらさっきの彼についてわかるものかもしれないと思い、懐にしまい込んだ。
彼が現れた空をもう一度見上げる。あの時は青空だったが今はもう紅く染まり日が落ちかけている。
「…」
「さやかどうしたの?」
「京ちゃん…」
「うん?」
「今日うちにくること家に連絡した?」
「………」
京ちゃんの顔は今の空模様とは違い青くなっていた。
「どうやらもう一波乱ありそうね…」




