5-14 壱拾九話 それぞれの愛のかたち 5
結局オレのバイト初日は、突然現れた親戚連中の話を聞いただけで
終わってしまった。つーか話を聞いて納得というか確信したが社会奉仕活動
という名の無給のバイトも雅蓮の母上、祐実さんのタクラミじゃなく
真司おいたん、さらにその奥方だっていう校長、そしてその親友らしい
美咲の計略だったんじゃないかよ・・・
結局さ・・・
オレがインフルで倒れたから見舞いに来た、なんてのも口実でさ。
停学食らった原因である言っちまえば校内暴力事件をキッカケに利用して
オレと真司オジサンを突き合わせる算段で、喫茶花菖蒲のバイトですら
あの二階の探偵事務所にオレをおびき出す為に美咲が利用したって訳だ・・・
名物カレーの配達は昼間見たイーツ配達員達の軍団で事足りそうだしな。
そうなると、明日からの社会奉仕活動は、喫茶店のアンちゃんってより
ソッチの探偵物語がメインなんじゃねぇか──────?
「はぁ・・・」
「どうしたの? 何か有ったのマコト、元気ないね・・・」
すっかり気が抜けてカウチでぼんやりしている。
突然真司さんにあんな事を聞かされて未だに実感が全く無い。
でも、二人でカレー食ったあとの話の内容から、アレはウソでもなんでも無く
全部真実だったんだろう。
結局、美咲の計略にまんまとハマってオレはこの街でずっと一人ぼっちだって
思い込んでた訳だ。まぁだからって今さら生き方自体を変えられないし
あの連中に甘えるツモリも無いから今まで通り勝手にやるだけだ。
ただ一点、バカな事すると間違いなく連中を通して美咲の耳に入る事は
確かな訳だな──────注意しよ。
「──────な、ガレンさ真司ってどういう人?」
「真司さん? あー・・・わかった。真司さんとなんか有ったんでしょ
マコトこの間もそうだったけど、真司さんをなんか睨んでたし・・・」
「怒らせて叱られたんでしょ?」
「叱られたっていうか・・・告白された」
「ふぇ──────え゛っ!!!」
美咲が蒼一家の事をオレにナイショにしていたのはオレの情操教育?
の為であって、べつに真司から誰にも言うなって口止めされた訳でもないし
ガレンに話しても問題はないんだろうな。真司と親交が深いの雅蓮に
奴の事聞いても、オレが知ってる以上の話は出てこなかったし。
「──────べつに隠せとも言われなかったから言うけどさ」
「親戚らしいんだ、あの真司って人。美咲・・・って、オレの母さんのさ
兄貴なんだって、今日聞かされたよ──────って」
「ガレンさ、何赤くなってんだ?」
「ウソ・・・ホントなのそれ」
「うん、なんかDNAの鑑定書まで見せられてさ、オレが生まれた時の・・・」
「そうだったんだ、通りで似てるわけだね」
「そっか・・・そうだったんだ──────」
そう考えると、美咲の気まぐれでオレが一匹狼を演じていなければ
もっと早くカズや雅蓮と知り合えたんじゃないかってさ
そんな気がして──────
それを隣の雅蓮に話すと、オレの肩に頭をもたげて手を握られた。
「もし、もしね。一年の頃にマコトと話すようになってもこんなに親密に
馴れてなかった気がするよ、わたし」
「それにね──────」
「わたし達が“友達止まり”だったら、この間のようなことに成った時
マコトにわたしのアノ事、気付いてもらえなかった気がする・・・」
「わたしを見つけてくれたのがカズヤで、不良達から守ってくれたのがマコト
貴方だったんだから。一人ぼっちの自分を守るためにマコトが自己鍛錬
してなかったとしたら、不良たちにマコトが負けてたりしたらさ・・・」
「きっと大勢の男の人に、わたし乱暴されて──────」
「この街に居づらく成ってた──────・・・と、思う」
「──────悪い、なんか思い出させて。もう終わったことなのにさ」
「平気、昨日の夜にちゃんと自分で、自分の敵を取ったもん!」
「わたしね、ツライことがいっぱい有っても、今がイイ・・・」
「こうしてる今が幸せなの・・・だから、ね。もしなんて──────
考えなくていいんだよマコト」
雅蓮はほんとイイ奴だ。自分では弱いって言っていながら、オレが憧れるほどの
強い意志、自分をしっかり持ってる。アノ出来事を引き起こしちまったやり方は
褒められねーけど──────
自分が定めた目標に対して、なりふり構わず突き進めるだけの覚悟がある。
「ガレン、あのさ。今日から自粛明けまでお芝居ナシって言ったよな
だから言うけど、オレやっぱお前が好きだ。憧れって言ってもいい」
「スゲーって思うし、お前みたいになりたいと思ってる」
「今のオレには、ガレンの弓道みたいな目標がないけど──────」
「お芝居続けながらお前の夢を支えるっての、目標にするのって・・・ダメ?」
「ううん──────すごく・・・嬉しい」
「でもさ、やっぱり自粛が明けたらわたし──────」
「マコトの部屋を出ていかなきゃダメだよね・・・」
思わず口にしてしまった終わりの日のことを──────
雅蓮はあからさまに寂しそうな顔をして俯いた・・・
実際、オレだってツライよ。お互いこんなに強い絆で結ばれたんだぜ?
ならもうそれでいいじゃねぇか、なんでまた離れ離れに成らなきゃイケねぇんだ
そう思う。今っていうこの瞬間が永遠に続きゃいいとさえ思うよ。
「──────ねぇマコト。今から話すのはね、仮の話だよ──────」
「あのね、わたしが弓道止めてこのままマコトと一緒に暮らすのって
現実的にありえるかな・・・これから──────ずっと」
その言葉にオレは少し心が揺らいだ。オレだって今更お芝居に戻って
雅蓮とこうして近くに常に居れなくなることを考えると
胸が張り裂けそうになる。
でも、オレが一人で築き上げてきて、あの真司をして誇ってイイ事とまで
言わしめた自分を構成する“自信”って物と同じように、今の雅蓮を構成する
“弓道”を捨てたとしたら・・・雅蓮は、はたして今の雅蓮で
居られるのだろうか。
この自信と、遥か彼方の目標を見据えたハツラツとして
老若男女問わず、人々を引きつけるほどの眩しい存在で居てくれるだろうか・・・
「──────どうだろう・・・」
「ぅ──────。マコト、チョット考えてみようよ。二人ただの恋人として」
「わたしが弓道を辞めて、マコトは強がらなくていい・・・」
「わたしのさ──────彼氏として、普通の人生っていう将来のこと」
そんな事を言いだした・・・
雅蓮のご家族もこの娘に弓道を、雅蓮に強制してるわけではない。
それどころか、ご両親の気持ち──────。病気で10歳を迎えられなかった
かもしれない愛娘が運命を乗り越えた先の人生を、本人の意志で謳歌して
もらいたいって想い。それをオレは聞かされた。
きっと、弓道を止めてオレの恋人としてここで同棲する事を雅蓮が心から
望んだら、祐実さんと武雄さんは世間体なんて物を理由に、オレ達の望みを
頭ごなしに否定なんてしないんじゃないかと思う。
じゃ、オレの方は──────
「な、ガレン。これは仮の話、あり得るかもしれない事で──────」
「もしオレがこれから話すことが、今のガレンにとっての望みであっても
それはあくまで可能性の話だって──────約束して」
「・・・うん」
「たぶん、そんな難しいこともなく。一緒に暮らせると思う・・・」
「オレも何も考えないで、出来ることならそうしたい」
「──────うん」
「ガッコの連中から後ろ指さされて全員敵に回しても構わない。
オレはそう思う。でもこれは出来るか出来ないかの可能性の話・・・で」
「実際はそうは行かないってのは、ガレンも理解ってるよね?」
「・・・・・・」
それは短絡的っていう言葉ともチョット違うけど
出来るけどしてはいけない選択なんだと、今は思う。
来年、雅蓮の夢を叶えた末にでも二人でココに住んで、暮らしていって。
時が来たら一緒になる事だってきっと出来る。けどさ──────
雅蓮が自分の命がまだ危うい頃から目標と定めた“弓道の推薦入学を勝ち取る”
って目標は、雅蓮が10歳までの人生って運命を乗り越える、原動力になった
ほどの目標だ。オレは出来ることなら、その目標を一時の情動だけで
捨ててもらいたくない。その目標はオレが惚れた“鏃 雅蓮”って娘を
半分以上“形作る”大事な想いなんだって、わかるからな・・・
オレは、雅蓮をマジで大切に思ってる。だからこそ、その雅蓮の想いを
恋愛感情だけを優先したこの提案を、諸手を挙げて歓迎できない──────
そんな事を言い聞かせたら隣の雅蓮は、ぽろぽろとまた涙をこぼしながら俯いた。
「な、──────ガレンはどうしたいの?」
真似するつもりはなかったけど、祐実さんのような聞き方をしてしまう。
結局さ、そんな雅蓮の気持ちを慮っても、それはオレの雅蓮を思う気持ち
でしか無い。当の雅蓮が弓道を捨ててでも、オレと一緒に居たいって言うなら
オレは尊重するつもりだった──────
でも・・・
「エヘヘ、なんかさ。いっぱいマコトに大事にされてる気がして嬉し・・・」
「──────今きっと、これ以上望んだらバチが当たっちゃうね」
「ね、マコト。わたし絶対に勝ち取ってみせるよ推薦」
「それまで、わたしを支えて・・・お願い──────」
そう言って、雅蓮はゆっくりとオレの胸に顔を埋めた・・・
わかったよ。それが、雅蓮の希望だってんならオレは全力で支えるさ。
恋ってモノ以上の感情を、この心はもう宿しているからな──────
「ねぇマコト、ギュってして──────」
言われなきゃ気付けなかった自分が少し悔しい・・・
きっと雅蓮ももどかしい気持ちで寂しかったんだ、オレと同じで。
でも、そんな気持ちに素直になれない自分は、どこかでまだ強がってんだと思う
いや、照れかな・・・そんな事を思いながら、隣の雅蓮をを力強く抱いた。
「な、ガレンさ。マジ恋って、普通の恋人同士はこんな気持の時にさ
一体何するんだろうな──────」
隣りにいて、撚るように上半身をオレに預けたこの華奢な体を抱いてるのに
もっと、もっとそばに居たいってこのもどかしい気持ちをカレカノの連中は
一体どうしてるのか経験も知識もないオレは、思わずそんな事を聞いちまった。
「ファッション誌にはこう書いてあったよ・・・」
「ちゅーして、ベッドで──────」
「わかったオレが悪かったオトナの本の話は忘れてお願い・・・」
雅蓮が持ってる参考書って、もしかしてオレの参考書より
ヤラシイんじゃねーのか? 赤裸々すぎる・・・
バイトの帰り際、祐実さんに持たされた数種のオカズを元に
雅蓮が夕飯を用意してくれた。見慣れた一人分のオレの食器と
雅蓮がタブレットでポチって揃えた見慣れない食器が並ぶ
ガラス天板の中二テーブルが、幸せの象徴のような気がして
少し気恥ずかしかった・・・
それぞれ風呂を済ませ、一つの布団で寝る準備を進めて
一応と雅蓮にピンク色の体温計を咥えさせると、熱が38℃に迫る
程に少し上がっていた。
「ガレン辛くない?」
「──────なんか、少し熱っぽい・・・」
聞くに少しふらつく程度だって言ってたので一晩様子を見ることにした
で、そんな様子からなのか、ワガママ雅蓮が再発した。
「──────ねぇマコト。あの・・・さ、昨日の続きする?」
昨晩、緊張からか二人で恋人らしい初イベントに失敗して、無念に思ってるのは
オレだけじゃなかったようで、雅蓮は布団の中で真っ赤な顔してオレを見つめてた。
言い訳に聞こえるかもしれないけどさ将来のオレ。
この時オレは快楽目的じゃなくただ純粋に、オレを思ってくれる存在に
近づきたかった。胸に抱いてるのにさ、もっと近くに雅蓮を感じたかった。
「──────身体あっついなやっぱ。ムリは止めとこ・・・」
「ぅー・・・」
あからさまに不満がる雅蓮をなんとか言いくるめ、その日は一夜を過ごす。
ひとしきり恋人らしいスキンシップをしていると、雅蓮が瞳を閉じてる間隔が長くなった。
「寝ちゃダメだよ寝るなら上着ないと──────」
「──────や・・・一晩中抱いて温めてよマコト」
そんな言葉を最後に、もはや聞き慣れた寝息を立てはじめた。
寝てんだか起きてんだかわからないけど、たまに薄目でオレを見ながら
口元が緩むガレンが好きと云うオレが後ろから抱く姿勢で腕を枕代わりにして
すやすやと彼女は眠りについた。
後ろからコイツを抱いていると、心音が彼女の背中を通じてオレの胸に
伝わってくる。運命を乗り越えた二人分の心音はとても力強く打っていて
それが妙に落ち着くんだ・・・
彼女が頭を預けている腕に心地よい痺れががやってくる頃
きっと無意識下なんだろうな、オレのその手に雅蓮が手を重ねてくる。
辛うじてまだ意識の有ったオレは、その手を優しく握って彼女の背を
改めて抱きしめた。
「──────ぅん」
そんな可愛らしい擽ったい声をしながらに彼女はオレの胸の中で猫みたいに
丸くなった。
こうしてるとなんか、幸せホルモン的な何かが脳内にドヴァとでも
出るんだろうか? 頭の中が痺れるような快感が心地よい落ち着きを
齎して、雅蓮の寝息のリズムに自分の呼吸を合わせると、あっという間に
オレも深い眠りに落ちていった・・・




