表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

16

 駅ビルに入った久遠と空音はメンズファッションのフロアがある六階へ行くためにエレベーターに乗り込む。二人から距離を取って尾行していた百瀬はエレベーターを避けてエスカレーターで六階を目指す。

 六階に着いた久遠と空音はいくつかのブランドを見て回る。

「へぇ……」

 久遠は店先に並べられている服を見ながら声を漏らす。

「ここからは久遠君の気に入った系統の服があるブランドのテナントを探しましょうか」

「そうだな……」

 空音の言葉に頷き、久遠はテナントを見て回る。少し離れたところでは百瀬が二人のやり取りを柱の陰から見ている。はっきり言わずとも怪しいその姿を店員や他の客が訝しげに見ている。そんな視線などどこ吹く風で百瀬は二人の動向を観察している。

「ここの服を見てみていいか?」

「別に私に確認なんかしなくてもどうぞ、ご自由に」

「ん、サンキュー」

 空音の確認を取った久遠は服を物色するためにテナントの中に入っていく。

「いらっしゃいませー」

 一人の店員が挨拶の声を上げるとそこらかしこから挨拶の声が飛んできた。久遠は目の前にある綺麗に畳まれた服を手に取って広げる。それは外国の街並みがプリントされたロングTシャツだった。空音も久遠の後ろから覗き込む。

「へぇ、オーストリアの街並みか……」

「知ってるの?」

「あぁ、前に居た所だからな」

 空音の疑問に久遠はサイズを確認しながら答える。

「へぇ……オーストリアに居たのね」

「一時期だけどな。これどう思う?」

 ロングTシャツを自分の前に持ってきた久遠は空音に訊ねる。

「……いいんじゃないかしら。似合ってるわよ」

「ならこれ買うかな」

 棚の横にあった買い物カゴにロングTシャツ入れた久遠は他の服を見て回る。空音もその後に付いてく。その頃の百瀬はというと―――

「むぅ……何喋ってんだろ?」

 ―――柱の陰で唸っていた。その姿に周囲の客がヒソヒソ話している。最早完全な変質者だった。

「ちぇ~、こんなことなら読唇術覚えておけばよかったなぁ……」

 唇を尖らしながら言っている姿は可愛らしいが、言っていることは物騒だった。

 そんな百瀬のことなど知りもせずに久遠と空音は買い物を続ける。カゴがいっぱいになったところで久遠は会計に向かう。

「いらっしゃいませ。そちらお預かりしますね」

「お願いします」

 店員にカゴを渡し、久遠は財布を取り出す。その横で空音はレジの会計を見ている。見る見るうちに金額が増えていく。最後の商品のバーコードがスキャンされた時には相当な金額になっていた。

 とりあえず、高校生の平均的な収入からは考えられない金額である。

「結構買ったわね……」

「まぁな……」

 久遠は財布の中身を確認しながら苦笑している。

「お金は大丈夫なの、久遠君?」

「とりあえずはな」

 お札を数枚出しながら答える久遠。その様子を心配そうに見ている空音を、店員がどこか羨望の眼差しで眺めている。

「仲の良い恋人同士で羨ましいですね」

「そ、そんな私たちはただの友達ですよ……」

 空音は少し慌てつつ隣の久遠を横目で見やる。久遠はというと、少し苦笑混じりの笑顔を見せているが、あまり慌てている様子はなかった。その姿に空音は少し顔を俯かせる。

「ま、今は……ですけどね」

 しかし、久遠の一言に空音はバッと顔を上げる。

「え?」

「まァ聞き流してくれ。お会計お願いします」

「はい、かしこまりました」

 微笑ましそうにした店員は久遠からお金を受け取り、レジを操作してお釣りを渡すと数枚の綴り券を差し出してきた。

「? これは?」

「ただいま八階で開店五周年を記念して福引をしていまして、これはその券ですのでどうかご利用になって下さいね」

 そう言って笑顔で券を渡す。それを受け取った久遠と空音は店員の挨拶を後に店を出た。

「八階に行くの?」

「そうだな、折角もらったし行ってみようか」

「えぇ、そうね」

 二人はエレベーターへと向かう。百瀬はその姿を見送るとエスカレーターに向かい先回りをすることにした。



 エレベーターで八階に着くとすぐ目の前には福引の会場が目に入った。特賞は温泉旅行と大きく書いてある。

「温泉かぁ……」

「久遠君は特賞狙い?」

「んー、特には。あの全国共通お食事券とかでいいよ」

「無難なとこね」

 そんなやり取りをしてるとカランカラーンと音が鳴る。どうやら特賞を前の人が引いたようだ。

「アンタって本当にこういう引きはいいわね。普段の運はないのに」

「ちょっと(れん)ちゃん……清澄くんが泣きそうになってるよ……清澄くんも温泉旅行が当たってよかったね」

「いつものことじゃない。水面(みなも)もあんまり甘やかさないでいいのよ」

 そんなやり取りをしている三人組に困り顔の店員。しかし、それよりも久遠が気になるのは両手に花の見覚えのある少年と隣にいる空音の表情だった。いかにも嫌そうな顔をしている。

 そこで女子二人のやり取りに視線の行き場を迷わせていた清澄と久遠の視線が合う。

「あれ、上倉先輩と真崎先輩?」

「奇遇だな、清澄」

「あ、真崎先輩じゃないですかぁ~」

「お久しぶりです、真崎先輩」

 茶髪でメイクもばっちり決めている派手系の女の子とその女の子に隠れるように黒髪にメガネの地味目な女の子が空音に挨拶をする。

「えぇ、久しぶりね。花咲(はなさき)さんに滝川(たきがわ)さん」

「神薙の生徒か?」

「脳運部の一年生よ、久遠君」

「あなたが噂の上倉久遠先輩ですか?」

空音から視線を久遠に移し、どこか見定めるような視線を向けてくる茶髪の女の子が訊ねてくる。黒髪の女の子も同じように見定めるような視線を向けている。

「あぁ、どんな噂か知らないが俺がその上倉久遠だよ」

「アタシは花咲恋。この子は滝川水面です」

「滝川水面です。よ、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしくな。花咲さんに滝川さん」

「ふ~ん……」

 未だに見定めるような視線に居心地の悪い久遠。何やら言いたげな花咲の様子に小首を傾げる。

「? とりあえずここだと他のお客さんの迷惑になるし場所を移動しようか」

 久遠の提案にみんな異議もなく一行は休憩スペースへと移動する。幸い他の客はいないようで、脳運部の面々はベンチに腰を下ろす。

「さっきから気になってたんですけど、お二人はデートしてたんですか?」

「なっ!?」

 花咲の発言に空音の顔が赤くなる。

「一応名目上はな」

「ちょっと久遠君!?」

 後輩のいきなりの質問にも難なく答える久遠だが隣の空音は声を荒げる。

「すでに名前呼びだし……あの真崎先輩がねぇ……」

「恋ちゃん……初対面の上倉先輩に不躾だよ」

「そうだよ! これからが楽しみな曖昧な関係なんだから変な茶々を入れない!」

「って百瀬さん!?」

 何故か突然現れた百瀬に依然声を荒げる空音。普段からはとても想像の出来な空音の姿に清澄はポカーンとしている。話に入れないのもあるだろうが。

「なんであなたまでいるのよ!?」

「んー、休日にショッピングなんて女子こーせーならおかしくないと思うんだけどな~」

「いつから尾行してたの?」

 端から百瀬の言葉を信じていない空音がジト目で睨みつける。

「私も福引券もらったからここに来たらたまたま(、、、、)みんながいただけだよ~」

 空音の視線もどこ吹く風の百瀬はポケットから福引券を出しどこか得意げだ。

「駅前からだろ?」

「!? 気づいてたの?」

「あぁ」

「ってまたほぼ全部!?」

「ずっと張り付いてたのによく福引券持ってたな」

「あ、これ? この前来た時にもらったヤツだよ」

 空音の叫びは二人に届くことはなく流され、久遠と百瀬は話を続ける。

「というか久遠君も気づいてなら教えてくれても良かったじゃない……」

 少しふてくさる姿に苦笑する久遠は空音の頭に手を乗せる。

「悪かったな。でも変に突っついて邪魔されるのも嫌だったからさ」

「っ!?」

「言いますね、上倉先輩」

 顔を真っ赤にしている空音を尻目に花咲が面白そうに言う。

「まァな」

「ちょっと先輩に興味が出てきました」

「恋ちゃん!?」

滝川が花咲を止めるように名前を呼ぶ。しかし、花咲はベンチから立ち上がり、久遠の目の前に立つと、ウインクして小悪魔のような笑みを浮かべて久遠を見つめる。花咲の大きく吸い込まれそうな瞳に目が離せなくなる久遠。

「っ……」

「久遠君!」

「!? 今のは……?」

「あぁ、何で邪魔するんですか? 真崎先輩」

「何でってあなたね……」

「そりゃ気になってる男の子が他の女の子にちょっかい出されたら怒るよ~」

「それもそうですね」

「というか今のは能力なのか?」

 久遠の問いに花咲はベンチに座りながら答える。

「そうですよ。ウインクしてからもう一度ウインクするまでの間、瞳を見続けた時間の十倍だけ相手はアタシの虜になる。それがアタシの能力……奸魅了カブウェブチャームです」

「虜になる、か……桃花みたいに操作系の能力なのか?」

「アタシは人間限定ですが……百瀬先輩の動物縁アニマルリンクと似た感じですね。ただしアタシの場合は対象が一人までですが」

「その分恋ちゃんの命令に絶対服従だけどね」

 花咲の説明に百瀬が補足を入れる。それを聞いて久遠は冷や汗を流す。

「恐ろしい能力だな……」

「ただしこの能力を使うにもいくつか制限はありますけどね」

「恋ちゃん……」

 そう言って花咲は嘆息する。となりでは滝川が心配層にしている。それを見た花咲は微笑を浮かべる。

「大丈夫よ、水面。今はこの能力も受け入れてるから」

「……うん」

 花咲は立ち上がり、体を伸ばす。

「さてと……さっき貰い損ねた特賞でも貰いに行きましょうかね」

「あ……」

「何? アンタ自分で当てたくせに忘れてたの?」

「う、うん……」

 花咲の言葉に清澄は顔を俯かせる。どうやら彼の立ち位置は随分と低いようだ。

「はぁ……先輩たちも福引が目的だったんじゃないんですか?」

「そうだな。俺らも福引しに行こうか」

「えぇ」

 久遠たちも立ち上がると先に歩き始めた一年生たちの後を追い、福引コーナーへと向かうことにした。


長らくお待たせしました。相変わらずの日常パートですが、次回には多分事件が起こる予定なのでそこで少しは物語が進むかな。いや、進まないか(ぇ


ようやく脳運部全員登場ですね。

水面の能力は多分事件が起きた時にでもお披露目します。

わりと実践向けな能力です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ