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「はい、こっちにサイン
こっちには印鑑押してね」
社長室で瀬崎さんと並んで座り、とうとう契約(任務遂行)の瞬間を迎えてしまった。
たまったもんじゃない!
あれから、美紀とランチをした後急に社長に会合の予定が入ったらしく予定が急きょ早くなったみたい。
何が何でも見届けたかったらしい社長は、美紀などに任せず今こうやって目の前で指揮をとっている。
あの、説明では『すぐに』っていう話じゃ無かったのに、、
私たちがサインした書類をニヤニヤしながら確認する社長。
今週、何人目だろう悪魔面を見たのは。
「はい、記入漏れはないね。
では、このファイルに入っているのがマンションの詳しい書類。
で、このキーケースの中に入っている鍵がマンションのそれだから
一週間の間、私は社を空けるから何かあったら城崎君に連絡をしてくれ」
と分厚い書類と、ハイブランド物のキーケースを置いて美紀に呼ばれるがまま慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
これまた美紀が口パクで『フ ァ イ ト』って、イライラするー
「あははは、残されましたね」
そうだ、気まずく私は瀬崎さんと社長室に残されてしまった。
三日ぶりの彼は、相変わらずキラキラしていて眩しい。
「あの口ぶりじゃあ、すぐにでも入って欲しい感じだけど
相田さんは荷造り済んだ?」
分厚い書類をパラパラとめくりながら、瀬崎さんは話す。
最近、妙に気疲れが激しかったのか家に帰れば即寝で部屋の片づけすらままならないのに、荷造りなんてもってのほか。
「いや、まだ出来てないんです」
と恥ずかしながら返すと瀬崎さんは、そうだよねと言いながら考えこんでいる様だった。
「やっぱり、引っ越しはお互い同じ日にしよう。
確認事項も共有しなきゃいけないし、重い荷物もあるだろうし
うん、今週末の日曜にしよう」
そんな綺麗な顔でいい?って聞かれると大丈夫ですしか答えられないじゃん。
はぁ、具体的にスタートするみたいです私。
見られてもいい部屋着や諸々を新しく買わなきゃいけなし。
これって私の精神やお財布に、すっごく大きなダメージなんですけど
「じゃあ、今週末宜しくね」
キラキラと差し出された右手を、私は力なく握り返すしかなかった。