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「ふう」
私は、また大きなため息をついて、現実に引き戻された。
新しい緑茶を湯呑みに入れて、一口飲む。
それから、読みかけの本を取ってきて、ソファに座ってペラペラとページを捲った。
小説とかではない。
今読んでいるのは、法律の本だ。
家に引き篭もることが多くなって、本当にいろんな本を読んできた。
法律、投資、IT関連、などなど。
何とか今の生活から抜け出る糸口を見つけ出したくて、とにかくいろんな本を漁っている。
北海道の有名大学に入学したことは、私の唯一の自慢と言っていい。
でも、頭の出来には自信があったのだが、どんな本を読んでも、内容がちっとも頭に入ってこない。
まるで、無味乾燥な味がする食物を食べているようで、知識が頭の中に定着しない。
あるいは、知識がスケートリンクの上を、高速で滑り抜けていく感覚と言えるかもしれない。
学生時代にやった水産の勉強は、今は全くしない。
さして興味もないのに一生懸命に取り組んだというのに、あれは一体、何だったのだろう?
その前の、青春を犠牲にした受験勉強は、一体何だったのか。
勉強なんて、どれだけしようと、何の役にも立たないのかもしれない。
一部の人たちが言うように、これは社会が人間をゾンビ化するための、ツールなのかもしれない。
食と同じように。
でも、他にすがるものもないから、また本を開いてしまう。
私は、本当は何がやりたかったのだろう?
あんな母でなかったら、私はどんな道に進んでいたのだろう?
あんな兄でなかったら、あんな父でなかったら……。
気に入らないことがあるとすぐに激しく怒り、母に暴力を振るっていた父。
悪魔のようだった父。
そんな父を憎めたことで、母のことが憎めなかった。
父は憎んでいい存在だったけど、母を憎むことは罪悪感が許さなかった。
だが本当の悪魔は、こっちだったかもしれない。
こんな結果になるのなら、東京にいた方が良かったかもしれない。
その方が、何とかこの状況を抜け出す出口を見い出せたのかもしれない。
私は母を見誤っていた。
心のどこかで、母は私の味方である、という意識があった。
私が母を大事にするのと同じように、母も私を大事にしてくれるのだと思っていた。
でも、それではダメだったのだ。
私は、あの人を母と見なすのをやめるべきだったのだ。
この世界はあくまで母を中心に回っている。
母は女帝なのだ。
私は、もっと冷徹に人生を計算すべきだったのだ。
いっそのこと、自暴自棄になってAVの世界に飛び込もうかと思ってもみる。
でも、令和の美女飽和状態のAV業界には、私が飛び込める隙間がない。
いや、平成の時代だって、昭和の時代だって、私にはそんな隙間はなかった。
35歳の今ではなく、一番綺麗だった時代にだって、そんな隙間はないどころか、一番綺麗だった時代なんて、私にはそもそもなかったのだ。




