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ああ、だめだ。
これでは人間は悪魔に餌付けされてしまう。
麻薬のような家庭料理なしでは、生きられない体になってしまうではないか。
私はそれ以上、母の言葉を聞くのが辛くなって、リモコンのミュートボタンを押した。
これで私は洗脳と自分自身との間に距離を保つことができるようになる。
「ふう」
また、ため息をついた。
私は、兄については、本当に自分のことしか考えていない人間だと反感を覚えていた。
家庭を顧みず、変な格好をして外で遊んでばかりいる。
もうちょっと家のことをしてくれてもいいじゃないか。
もうちょっと母の手伝いをしてくれたっていいじゃないか。
私は自然と母と共に時間を過ごすことが多くなった。
兄のことで、当時の母によく愚痴を聞かされた。
「あの子は父親に似てしまったのねえ」とか。
「あの子には苦労させられるわ」とか。
まだ幼かった私は、その全てを真正面から受け止めた。
母は兄のことで苦労しているんだ。
父から逃れられたと思ったら、今度は兄だ。
この人はどうしてこう、苦労する星の下に生まれついているんだろう?
あんまりかわいそうではないか。
そんな母を一番近くで見てきて、私は、この人の味方にならねばならない、と思った。
母を喜ばせなくてはいけない。
家庭のことでも、学校のことでも。
模範的な子供にならねばならない、模範的な生徒であらねばならない。
そう思った私は、学校のことを頑張った。
決して、あの子は片親だから、とか、父親があんなだったから、などと言われるようであってはならない。
不平不満があっても、それを言っちゃいけない。
母は外で働いているのだから、兄のようにフラフラしていちゃいけない。
母の留守を預かるのは、私なんだ。
私は、遊びに行こう、という友達の誘いも断り、なるべく家にいるようにした。
兄のように外で遊び回っていては、母が心配するからだ。
その結果、私は母のお気に入りとなった。
母に愛されていると思い、嬉しくなった。
でも、今から思えば、それは愛していたのではなく、体のいい道具として扱われていただけなのではなかったか。
やんちゃな兄に比べて、良く出来る妹は、手がかからない。
母は、私を置いて、いくらでも外に働きに行けた。
それは母にとって、単なる都合のいい存在だったのではなかったのか。
テレビに目を移す。
音は鳴らないけど、そこでは相変わらず母はカリスマ料理家のキャラを演じていた。
テレビ局から与えられた役割を見事にこなしていた。
そうだ。
この人は役者なのだ。
劇団に所属していたことなんてなかったけど、誰にも教わらずに役をこなせる、天性の役者なのだ。




