死者の村 ゲルニール
3時間ほどゾンビとスケルトン(骸骨)を狩り続け、レベルは8まで上がった。
獲物を探して移動しているうちに出現するモンスターにも若干の変化がある。
ゾンビは緑がかった少々動きが速い個体が出現するようになり、スケルトンも盾や槍など、武器にバリエーションがでてきた。
アイテムインベントリに入っていた初心者用ポーションも残りが心もとないし、時間的にもそろそろ夕食なのでログアウトしないと親が心配する。
ところで、ゲームを初めてまだ一人も他のプレイヤーはおろか、NPCとも出会っていないのだが、町や村はどこなのだろうか。
なんでも村の宿屋で回復と位置セーブができるらしい、回復薬も買いたい。
そう思い辺りを見回すが、相変わらず辛気臭い雰囲気……ん?
人影を見つけた。
10mほど離れた黒い柵の向こうから一人の少女がこちらを見ている。
モンスターかとも思ったが明らかに人間だ。どうやら手招きをしている。
如何にも怪しいものだが、付いていかない選択肢はない。少女の方へ歩みだすと同時に、目の前にクエストウィンドウが展開された。
『シークレットクエスト:死者の村 ゲルニールへの招待を受注しました。』
「おおお、やっと村に行ける!」
そして、クエストウィンドウを開いたことで、既にもう一件受注済みであることに気が付いた。
『クエスト:始まりの町へ』
「あちゃー、多分これ初めからあったやつだ。」
初っ端からゾンビに驚き気が付かなかったのだ。よくある話だ。。。
『死者の村』とは物騒だ。村という名のダンジョンではないか?
ちょっと遠くてよく見えないが、あの少女、足がない気がする……。そしてシークレットクエストとは何ぞや。
疑う要素は多々あるものの、せっかくなので少女に付いていき、死者の村ゲルニールとやらへと向かうことにする。
しかし、足がないくらいじゃ驚かなくなってしまった。ホラー耐性がどんどん上がっていくのを感じる。
少女は一定の距離を保ち歩いていく、歩く? 進んでいく。こちらが止まると少女も止まって手招きをする。道中、クエストのせいなのだろうか、モンスターとは一回も出会わなかった。
5分程歩くと村に着いた。
西洋の農村といった感じで、畑と煉瓦造りの建物がちらほらとある。
これまでに見た廃墟などとは違い、崩れた様子はない。
相変わらず空は薄暗いままだが、のんびりとした風景を見渡すと、モンスターのいない安全地帯に初めての安心感を覚えた。
村に着くなり足のない少女は笑顔を浮かべ、その中心部へと消えていった。
「案内ありがとー」
ぶんぶんと手を振ったが、返ってくる言葉はない。
宿屋を探して村の奥へ進むと、道は煉瓦で舗装され、畑は見なくたった。『INN』と書かれた看板の宿屋、剣のマークが交差する武器屋等、どうやら買い物できる店はこの中心部に集まっているようだ。
途中に数人の村人を見たが、皆一様に足がなく、膝から下が透けている。そしてやはりプレイヤーらしき姿は一人として見当たらなかった。
宿屋で位置セーブを行った後、せっかく初めての町なので武器屋を覗いてみる。
あまり大きくはないこの町は、武器屋と防具屋が一緒になっているようだ。
扉を開けると所せましと並んでいる武器や防具が目に飛び込んだ。
「いらっしゃい!」
がたいの良い口周りに白い髭を蓄えた如何にもなおじさんが、威勢よく声を掛けてくる。
「あの、ちょっと見せてもらってもいいでしょうか」
「はいよ、良いのが揃ってるよ!なんたって英雄ローランの故郷さ!」
「ローラン?」
「知らないのかい?首都サンクワルドの騎士隊長になった男さね、「俺は英雄になるんだ」なんて言って飛び出した若造が、武功を上げてほんとに英雄になっちまった。もうすぐ町に帰ってくるんじゃないかね」
「そ、そうなんですか、すごい人なんですね」
自分には関係がない話だと、適当に話を合わせ、武具を見せてもらう。
「か、かっこいい」
性能の良し悪しはわからないが、とにかく色んな装備に目が奪われる。
店の奥をには鍛冶場らしき炉や金敷が見える。
「あの、もしかして、新しく装備を作ったりとかも……」
「ああ、もちろんできるよ、鍛冶屋ってのは町や地域によって毛色が違ってね、その地域周辺のモンスターが落とす素材で特殊な能力を付与することができる。エンチャントってやつだ。新しい装備を一から作ることもできるが、売ってる装備や、もうすでに持ってる装備に付与することもできるよ」
優秀なAIだ、聞いたことに対してしっかりと説明してくれる。
私は初期の皮装備とドロップアイテムを売り払い、比較的安価で見た目が気に入った装備を買った。
膝程まである長い前垂れが特徴の腰当、左肩にベルトで掛かり、お腹が見えている鉄の胸当て、それから太ももはスパッツのような伸縮素材で覆われ、膝下はしっかりと金属で守られている鉄のクリーブだ。
そして、余った素材でエンチャントなるものも試してみたが、残りの素材もお金も少なかったので、胸当てしかできなかった。
鉄の胸当て【怨嗟】:対象指定攻撃で受けたダメージの2%を確定ダメージとして攻撃を行った対象に与える。
怨とは物騒な……。ここにきてまだホラーな匂いがする。
装備も買って、意気揚々と武器屋を出る。当面の目標は全部の防具にエンチャントと、それから大盾も新しいのが欲しい。
「また来てくれよ!あんちゃん!」
あんちゃんか…。見た目は確かに男ではあるがちょっと慣れない。
武器屋を出たところでログアウトしようとメニューウィンドウを開いたところであることに気が付いた。
「シークレットクエストがまだ終わっていない?」
そう、村に着いたにも関わらず『シークレットクエスト:死者の町 ゲルニールへの招待』がまだ進行中のままなのだ。




