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インペリアル・ガールズ・ガーズ  作者: 中森正勝
【外伝1】雷術戦隊 那岐護衛戦
4/8

4.導術射撃

2017/06/05 誤字訂正。ルビ追加。

「敵戦闘艦、射撃を開始!」


 前方で閃光。続いて落雷のような轟音が発せられた。

 戦闘の戦闘艦バシーリー級には主砲として30センチ砲が連装3塔の計6門装備されている。そのうち艦首に連装砲塔を背負式に2塔装備している。それが火を吹いた。砲塔ごとに1門、計2門が発砲した。交互射撃を実施する様子だ。

 艦砲射撃の斉射というと、全砲門を1度にすべて撃つという印象があるかもしれない。しかし実際には半分づつ交互に打つのが一般的だ。砲撃を行う際には、弾着点を見て方位射角を修正し次弾を発射する。そうしてより正確な位置に砲弾を叩き込む。ならば発射回数が多いほうが修正の機会が多くなる。さらに砲弾が多すぎると弾着観測が難しくなる上に、発射時の爆風により他の砲が影響を受けて砲弾がそれてしまうという難点もある。

 つまりバーシリーは基本通りに砲撃を開始したのだ。


「もう撃ってきたのね。思ったより早い」

「まだ敵護衛艦が近いです。よほど射撃精度に自信があるのでしょうね」

 野口司令はその整っているが綺麗というより可愛いという印象が強い顔を一瞬伏せ、目を閉じ歯を噛みしめる。ここからが本番だ。これまでは運良く、まだまだ被害が少ない。だがこれからは違う。戦闘艦の主砲を喰らえばただではすまない。1発轟沈も十分に有り得るのだ。

 少しため息を吐き、目を開ける。


 弾着は全弾近。まだ大丈夫。しかし案外近い。


「この調子ではすぐに挟叉(きょうさ)されちゃうな」

 挟叉とは目標を包み込むように弾着した状態を指す。つまり射撃諸元が正解に近いということになり、そのまま射撃を行い続ければ命中弾を得られると期待できる状態だ。


「術式波感知、敵は測的術式(そくてきじゅつしき)を使用中」


 見張り担当の術式将校の不吉な報告に背筋が凍る。

「ということは導術射撃(どうじゅつしゃげき)かぁ。連合帝国で導術射撃できる艦は多くなかったよね。」

 野口司令は気楽さを感じさせる物言いで尋ねる。やばい。内心は平静ではいられない。雷術弾を発射できる位置まで接近できるかしら?

「バシーリー級は建造時から導術射撃試験用の設備を備えているはずです」

 良野副司令はあくまでも冷静に答える。


 導術射撃、帝国での正式呼称は火砲誘導術式併用射撃は、測的術式と算術術式を組み合わせ照準指示と弾着観測するもので、砲撃戦の新時代を築くとされている新技術だ。

 まず測的術式とは何か。

 見張りを行う術式は大きく2つに別れる。まず一般的に使用されている捜索術式。これは全体をくまなく見て、何処に何があるかを判別するためのものだ。この方向のこの距離にこの程度の大きさのものがある、という情報を全周360度について確認することができる。ただし対象物の向きや速さについては正確に捉えることが難しい。

 次に測的術式。捜索術式が全体を見渡し複数目標を捉えることが可能なのに比較して、測的術式は単一の目標について距離・角度・速度と言った詳細な情報を正確に得ることができる。ただし角度などの各要素ごとに1人以上の術者が必要になる。つまり距離・垂直角度・水平角度の3要素ならば少なくとも3人の術者が必要になるのだ。ただでさえ測的術式を行える術者は少ない上に、その希少な術者を多数動員しなければ実現できないのが難点だ。

 測的術式によって、目標の詳細な情報を得られる。だがそれだけでは砲撃はできない。その情報から目標の未来位置を予測しそこを狙う必要がある。目標と自艦の位置は常時変化しており、また砲弾は様々な力の影響を受ける。自艦の速度に燃薬の力、更には風や空気抵抗、地球の自転に至るまで多様に渡る。これらは射爆理論として体系化されているが、そのためには膨大な量の計算が必要になる。それを高速に行うための技術が算術術式だ。複数の術者がそれぞれに担当の算術器を用い膨大な演算を行う。それにより計算尺などを用いて計算するのに比べて数百倍の速度を実現することができる。しかしこれも多くの術者を必要としている。

 このように導術射撃は人員と各人が使用する術式器、それらを収容する場所の面積と、実に多くのリソースを持ってようやく実現できる技術なのだ。


「艦長! 最大戦速!」

 野口司令は号令する。とにかく雷術弾発射位置まで、可能な限り早く進出しなければならない。また速度を変更することで、敵の射撃を撹乱できるかもしれない。さほどの術力を持たないので、捜索術者のように敵の状態を知ることはできないが、相手の心理状態は予見できる。

「もう雷術弾を射出してもよいのでは?」

 良野副司令が意見を述べた。確かに命中弾を受けて艦数が減ってしまえば攻撃力は減じてしまう。ある意味もっともな話だ。

「いや、もうちょっと、もう少し待とう」

 しかし今射っては期待できる命中数が少なくなりすぎる。まだ耐えるべき局面だ。


「敵艦回頭、取舵です」

 しまったやられた。先に回頭されてしまった。これで相手は向き合った状態から、側面をこちらに向ける形になる。そしてそれにより敵は艦尾砲塔を含め、全ての砲をこちらに向けることができる。翻ってこちらはまだ艦首砲がギリギリ届く程度。完全にアウトレンジされてしまう。まずい状態だ。


「しまったね。もう射つしかないか」

「どちらに向きましょうか」

「うん。艦長、取舵。反航戦とする」

 操舵手が、とぉりかぁじと間延びした復唱をしつつ舵輪を回す。艦が傾き敵がじりじりと右側にずれていく。


「雷術!」

「いつでも打てます!」

 雷術長が食い気味に答える。よしやれる。護衛艦必殺の一撃を食らわせてやる。

「艦長、よーそろー」

 また復唱が上がり、艦の傾斜が元に戻っていく。艦が傾いていては雷術弾は射てない。まだだ、まだ。脂汗が流れる。


「敵艦、発砲!」脂汗の量が増える。弾着が近ければ艦が動揺するし、雷術弾が沈められてしまうかもしれない。良くないことしか考えられない。


 そしてついに艦が復元し直進する。


「雷術弾、全弾射出!」




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