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インペリアル・ガールズ・ガーズ  作者: 中森正勝
【外伝1】雷術戦隊 那岐護衛戦
2/8

2.接敵

2017/05/23 誤字修正。

2017/05/24 誤字修正。



 敵陣形は2つに分かれている。

 前衛に護衛艦4隻がまだ哨戒隊形のまま鏃型に並んでいる。そこから大きく遅れて戦闘艦が2隻ずつの単縦陣。


 野口司令は遠く浮かぶ敵艦を眺めながらつぶやく。

「敵はまだ混乱中ね」

「どうやら大きく広がった陣形を取っていたようです。それが災いして艦の距離は大きく開いたまま。陣形変換にはまだまだ時間が掛かるでしょう」

「戦力は圧倒的に劣勢。絶望的な程ね」

 野口司令は、そのちっちゃな肩をすくめる。

「普通なら雷術弾を一斉射出して、逃げてしまいたいところです」

「ほーんと、それ。でも私たちにそんな贅沢は許されない」

 良野副司令は少し目をニヤリとさせ、横目で野口司令を見やる。

「隊形では、こちらが有利です」

「ならそれを最大限利用させてもらおうよ」

 野口司令は、ふと振り返り後続に目をやる。


 第12雷術戦隊は護衛艦《春風級はるかぜきゅう》が4隻で編成されている。

 春風級は艦隊決戦を前にして敵主力を漸減するために建造された高速雷術護衛艦で、武装は3連雷術弾旋回発射筒が4基、艦首の旋回砲塔に24口径12センチ術式砲を1門、15口径7センチ術式速射砲を両弦に各4門を搭載し最大戦速27海里毎時を誇る高速雷術護衛艦だ。快速をもって敵へ肉薄して強力な雷術弾を叩き込み、戦闘艦に打撃を与えられる艦として設計された。ただ防空護衛艦が花形となりやや旧式化している点は否めないが、それであっても帝国の打撃戦力としてはまだまだ一線級である。


 春風の後ろの3番艦、「温風ぬくかぜ」の長砂艦長は野口司令の3期下で、グラマーでおっとりした顔立ちの美人だ。2人は周囲から、まるで姉妹のようだと評されており|(ただし野口司令が妹にしか見えない)、上陸時には2人一緒に街へ繰り出し、甘味屋まわりをするのが常で、つまり親友であった。

 長砂艦長は戦術眼に優れていると評価されており、誰もが将来は軍令部で作戦用兵に携わることになるだろうと考えていた。だが才気走ったところはなく、誰とでも変わりなく接する温厚なタイプだ。しかし戦術論になると話は別で、持論を曲げることなく延々と熱く語り続けるので、周囲がドン引きという場面が数多く見られた。

「温風ですか?」

 野口司令は前に向き直り答える。

「うん、あの船の艦長とは友達なの」

「長砂艦長は、よほど優秀だと聞き及んでいます」

「そうね、まったく可愛げのないぐらい」


 前方1時方向から4隻のベレズニキ級が接近してくる。だいぶ間隔が狭くなってはいるが、ほとんど横隊に近く、しかも1隻は後方に遅れており全体では鍵型になっている。

 ベレズニキ級は雷術艇などの小型高速艦を駆逐するのが任務の艦として建造された旧式の駆逐艦だ。しかしその後に近代化改修され、長砲身5センチ自動装填式両用砲が艦首と舷側に3門搭載された。自動装填式なので比較的発射速度が早く1分間に3発を射撃可能だ。ただ到達高度を稼ぐために長砲身化された両用砲だが、工作技術の未熟さ故に命中精度が低く、また砲命数も短くなってしまった。

 主に海賊船対策に活躍した武勲多い艦だが艦隊を相手とした経験は無く、単艦かせいぜい2艦の相手しかしたことがない。故に陣形に対する理解が薄く、ただ勇猛であることが勝利に近づく手段であると考えている者が多いのが特徴だ。


 敵であるクラスイスカヤ連合王国は伝統的に陸軍国で、歴史的に海の向こうに向かうことが少なかった。海運は他国におまかせというのが実情で、連邦沿海の安全を確保するのが、連邦海軍に課せられた使命だった。だがこの度の戦争では連邦史に類を見ない規模の渡洋攻撃から始まっており、海軍の運用にも大きく影響を与えた。つまり急造海軍、そう言って差し支えないのが連邦海軍の現実であった。


 ほぼ敵駆逐艦隊を正面に捉えた時、彼我の距離はまもなく5kmを切ろうとしていた。 大中砲科長がポニーテイルを楽しげに揺らしながら古田艦長に話し掛ける。

「連中、そろそろ撃ってきますね」

「奴らの教則だとそうなっていたな」

 古田艦長が笑顔で返事した。

 その時、こちらの会話を聞いていたかのように敵甲板に閃光が走った。

「敵艦、発砲!」

 見張員の叫びとともに、ようやく発砲音が聞こえる。

「撃ったのは先頭艦のみですね」

 どこまでも冷静な良野副司令の声が聞こえる。

「とにかく弾数、統制は二の次。連中の撃ち方です」

「大したホームランですな」

 砲科長がニヤニヤしながら砲弾を眺める。

 敵砲弾は左舷後方に大きく外れて着弾し、水柱を上げる。

 野口司令が水柱を見ながら、つぶやく。

「着色してないのね」

「敵が着色しているのは、せいぜい戦闘艦の主砲だけですよ」

 良野副司令は淡々と答える。

「へえ、そうなんだ」

 春風艦橋の雰囲気はどこまでも余裕があった。

「自分なら外しませんよ」

 そんな中で砲科長だけは好戦的な目をギラギラさせながらうそぶく。 砲科長の目線は手元にあり、刻々と変わる状況に合わせながらひたすら計算をしている。たまに手を止めてはステレオ式測距儀を覗き、伝声管に向かい何やら呪文のように唱える。算定した諸元を砲長に伝えているのだ。伝えられた諸元に基づき、砲の角度が変更され信管が測合される。


 前方から同時に連続で発砲音が響く。弾着点は先程よりは近い。衝撃波が体を打つ。

「4門斉射かー」

「ようやく統制射撃を開始しましたね」

 敵駆逐艦隊は現在指向可能な4門で統制射撃を開始したようだが、弾着位置はバラバラで最大1キロメートル程度の開きがあるように見える。

「敵砲は精度が悪いと聞いてたけど、こんなに?」

呆れ気味の野口司令に良野副司令が答える。

「これから修正射撃が来ます。いずれ挟叉されますよ」


 敵の第5斉射目が弾着したときに、大中砲科長が振り向き叫ぶ。

「まもなく舷側砲、必中距離!」

 野口艦長は淡々と古田艦長に向かう。

「艦長、撃ってよし」

 古田艦長は一般人にはおかしく思える発音で号令する。

「打ちぃ方ぁ、始め!」

 即座に反応した砲科長が伝声管に向かって叫ぶ。

「てぇっー!」




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