02
「あぁ? 誰だおめぇは?」
商人は母親の腕を掴んだまま、少年を睨み付け体を向けた。
「その人を離してください」
「あぁ? じゃあ、お前が代わりに払ってくれるのか?」
商人は反抗してきた少年を値踏みするかのように、爪先から頭のてっぺんまでじろじろと見回した。暗い金髪のさっぱりと切り上げた短髪に、赤いバンダナを額に巻きつけ左側で縛り上げている。白いTシャツに肩からはオレンジ色の長いマントを身に付けており、片手で持てるくらいの剣が収まった鞘が腰のベルトから吊るされている。明るい水色した目尻が少し垂れた瞳は密かに静かな怒りに満ちていた。
「……お、お前、何者だ?」
微かに感じる少年の気迫に負けじと睨み返し、商人は生唾を飲み込み呟いた。
「……僕はトレジャーハンターです」
目付きが変わり怒りを露にしている少年は腰に吊るした剣の柄を握り、ゆっくりと鞘から引き抜く。
「トレジャーハンターだぁ? こんな田舎町にいるのか? ははっ! 証拠はあるのかよっ!」
「……証拠ですか? これでいいですか?」
大袈裟に笑いだした商人に向かって、少年は水色のズボンのポケットから銅で出来た小さいバッジを取り出した。トレジャーハンターが持つと言われる証明書のような物であり立派な証拠である。
「! ほ、本物かよ……こんなガキが」
商人は驚いた勢いで思わず母親の腕から手を放す。その瞬間、母親はすぐさま女の子の側に駆け寄っていき、泣きじゃくる女の子の頭を優しく撫で、そして強く胸元に抱き締めた。少年はその光景を目の当たりにし、ふっと優しく微笑んだ。だがすぐ商人に向き直り、剣先を向け再び睨み付ける。
「……速やかに、この村から出てってください」
「ひっ! こ、こんな村、こっちから、願い下げだぜっ!」
商人は負け犬の遠吠えのように暴言を吐き捨て群がる村人を押し退けながら、村から足早に立ち去っていった。
「ふぅ……」
商人が去った事を理解すると、少年は剣を鞘にゆっくりと戻し、女の子の側に駆け寄っていった。そしてゆっくりと腰を落とし、女の子の目線の高さに顔を持っていく。少年の瞳からは先程の怒りは消え、周りを包み込むような優しい眼差しとなり女の子を見つめていた。
「良かったね? サラちゃん」
「……うん! ありがとう、シェイドお兄ちゃん!」
女の子の顔からすっかり涙が消え、満面の笑顔に戻っていた。それを見た少年も、つられて幸せそうな笑顔になる。
「ありがとう、シェイドくん。サラを一人にさせずに済んだわ」
女の子の傍らに立っていた母親が一歩前に出て、少年に感謝の意を伝えた。その言葉に少年は姿勢を戻し背筋をピンと伸ばして、母親を目線を移した。
「はい。本当に、本当に良かったです」
「じゃあ、また後日挨拶に伺うわ。リーザちゃん達によろしくね」
母親と女の子は、シェイドと呼んだ少年に軽く会釈をして、村の奥に歩いていった。
少年の名前は、シェイド・ウィンチェスター。『サージェ孤児院』で暮らす16歳の少年だ。
シェイドは親子を見送り、誰かを探すように周りをキョロキョロと見渡す。すると後ろから何者かが意表をつくように頭を軽く小突いてきた。
「ん……グローかい?」
「ちっ。バレたか」
シェイドの背後から頭を軽く掻きながら姿を現したのはシェイドより少し背の高い少年であった。
明るい茶色の髪を襟足まで伸ばしており、光が当たると綺麗な琥珀色した少しつり上がった勝ち気な瞳が印象的だ。緑色の丈の短いシャツを羽織り、膝下までの半ズボンを穿いて、いかにも活発そうな少年である。
彼はグロー・レジェンド。シェイドと同じ孤児院で育った15歳の少年であった。
「ってかお前、軽く嘘ついてただろ?」
「えっ?」
グローのいきなりな指摘に、シェイドは図星をつかれたように顔をひきつらせながら笑って見せた。