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10三日目

暑い。冷房が切れてる。

じっとりと汗をかきながら目を覚ました。

あー、どうせ道中で汗だくになるんださっさといこう。


夏休み三日目、今日から本番だ。


「おはようございます!」

「おはよう、今日も元気ね」


今日もいい天気、雲一つない青空。うん、暑い!

叔母さんに挨拶して、弁当を受け取り早速水汲みに向かった。

神社に昨日の子も神主さんもいなかったので賽銭箱の上にお弁当を置く。


帰りもさすらいの美少女にタクシー替わりに使われることもなく、

順調に水汲みを終えた。サクサクだったな。


そして待ちに待った朝食だ。

食堂では1組の男女が食事をとっていた。

ひょろっとした細身の中年男性と目つきが鋭い若い女性。

会話から察するに父親と娘、親子のようだ。


前は朝ごはんも部屋に持って行ってたから会わなかったんだろう。

通り過ぎるときに会釈をされたので会釈を返した。


おいしい朝ごはんも食べ終え、大浴場の掃除にはいる。

その後、ついでに汗を流した。

時間が余ったので廊下なども掃除し、本日の仕事が終わった。


さて、午後だ。

今日はどうするかと歩いていると食堂にいた親子が受付にいた。


「パパ。私にも手伝わせてよ」

「今日はまだ八重の力を借りなくても大丈夫なんだ」

「でも私、パパを手伝うために着いてきたんだよ」

「と言ってもな、おい君ここの従業員かな」


何やら言い争いをしていたので、そっと脇を通り抜けようとしたのだが呼び止められてしまった。

面倒ごとの気配を感じる。


「はい、ただ午前中だけで、午後は違いますよ」

「なら丁度いい時間があるなら娘を案内してもらえないか」

「案内、ですか」

「そうだ、この村の地理を娘に教えてあげてほしい。頼めるだろうか」


ちょっとパパ!と娘は不満げに父親を見ている。

父親はどこか懇願するような目でこちらを見ていた。


「分かりました。おっしゃる通り暇ですし、娘さんを案内しますよ」

「おお、そうか助かるよ。私は深塚伸太郎(みづかしんたろう)。歴学者をしている。この村の郷土史を調べに来たんだ」

「天ヶ谷翔琉です。よろしくお願いします」


反射的に頷いてしまった。

あの目は、仕事の応援を頼むときの上司の目にそっくりだった。

人に指示を出すのに慣れている感じだ。

ああいう雰囲気で頼まれるとつい頷いてしまうんだよな。


「この子は娘の深塚八重(みづかやえ)だ。ほら挨拶しなさい」

「…高校2年生、八重です。よろしく」


明らかに娘は不満そうだ。こちらを恨みがましい目で見ている。

鋭い目をした美人だから迫力がある。


「じゃあ私は行くから、八重いい子にしているんだぞ」


伸太郎さんは言うだけ言うとどこかに行ってしまった。

受付には俺と八重と呼ばれた娘だけが残る。

こんな時に限って受付には叔母さんがいない。


「…あんた、年と名前は」

「はい、高校2年生、天ヶ谷翔琉です!」


短い言葉だったが、声音に怒りがまったく隠せていない。

少しビビッて叫んでしまった。

さっき言っただろうと思ったが、こういう時は素直に答えるのが一番だ。


「このバ翔琉!っもう、こんな田舎まで来たのに!!あんたなんで頷くの!!」

「いや、そう言われても、困ってそうだったし、すまない」


噴火した火山のように次々と罵声がとんでくる。バカケルってひどくない?

しどろもどろ言い訳しながらとりあえず謝る。

1分ほど言葉にならない罵声が続いた。

子供の癇癪としか思えなかったので落ち着くまで頭を下げることにした。

上司のクドクドとした説教に比べればなんともない。


「………分かってるわよ。あんたに八つ当たりしても仕方ないって」

「そいつはよかった」

「平気な顔されるのもむかつく、まあいい、村を案内して」


父親の言葉に忠実なのか村の案内を頼まれた。

てっきり部屋に籠ると思っていたのに意外だな。


「分かりました。深塚さん案内させていただきます」

「丁寧な言葉遣いしなくていい。あと、八重でいい。

私もあんたになんも気を遣う気ないから」

「はいはい」


結局、日焼け止めやら乾燥対策やらでさらに10分ほど時間を浪費して出発することになった。


「翔琉、暑い」

「いやいや、それはどうにもならないから」


外に出ての第一声がそれとはどうしようもないな。

自転車で二人乗りもやりたくないし、

歩きながら灯台以外の案内してもらったところ行けばいいか。


「じゃあ、案内するけどなんか要望あるか」

「神社あるでしょ、まずそこ」


父親が歴学者なだけあって、それっぽいところから行きたいのかな。

まあ、神社以外そういう歴史的な場所知らないけど。

とりあえず、ゆったりと歩いていく。

道中、思いのほか八重はしゃべった。といってもほとんど愚痴のようなものだったが。


父親は研究しているとほかの事がおろそかになり食事もとらない、風呂も入らないが当たり前にあるようだ。今回もこんな田舎に誰も着いてきたがらず、夏休みの家族旅行兼お手伝いお目付け役として娘である八重が同行することになったようだ。

なお八重は父親の愚痴は言うが今回同行できたことがかなり嬉しかったみたいだ。

そんな雰囲気を感じる。かなりのファザコンだな、突っこまないけど。


「もうとっくに限界集落になっていてもおかしくないのに、なってないのが不思議なんだ」

「子供はけっこういるみたいだよなあ」

「そう、だから調べ甲斐があるって父さんが」


そうこう言っていると神社にたどり着いた。

山の坂をわりと上ったところにある神社だ。


「ここが天海神社(あまみじんじゃ)。今朝は見なかったけど普段は神主さんと巫女さんがいます」

「うわ、急な階段。のぼりたくない」


といいながらも階段を上っていく八重。

実際階段は急だが、一段一段上がっていくたびに涼しくなっていくので正直嫌いじゃない。


「すごっ、涼しい!」


八重の喜びの声が聞こえる。

境内にあがると昼間なのにやはりかなり涼しい。

しかし、たまたま留守にしているのか人の姿は見当たらなかった。

朝置いたお弁当はなくなっているので、いることにはいるようだ。


「それで、神社でなにがしたいんだ」

「人がいれば聞きたいことあるし神社のパンフ置いてないかなって」


正直パンフレットは置いてないだろう。お守りとかも売ってないんじゃないか。


「社務所とか、どれだろ」

「うーん」


いくつか建物はあるが名称とかは分からない。


「すいませーん!!どなたかいらっしゃいませんか!!」


悩んでいると、八重はささっとお参りをして大きな声で境内に響くよう呼びかけた。


「何か御用ですか?」


すると静かで低いが不思議と耳に響く落ち着いた声が聞こえてきた。

奥のほうから袴を着た中老の男性がやってくる。

懐かしい、この神社の神主さんだ。


「参拝客の方ですか、私はこの天海神社の宮司をやっている天海宗次(あまみそうじ)です」

「深塚八重です。よろしくお願いします」

「天ヶ谷翔琉です。よろしくお願いします」


この人は昔からなんとなく襟を正さなくてはいけない雰囲気がある。

八重もそれを感じ取ったのか丁寧に挨拶した。それに続いて挨拶をする。


「ああ、天ヶ谷君は旅館のバイトかな。いつもありがとう」

「いえ、まだ二日目なので。恐縮です」


頭を下げられても困る。


「深塚さんは外からですね、なにか聞きたいことでもありますか」

「はい、父がこの村の郷土史に興味がありまして、近日中に伺いたく」

「なるほど」


どうやら八重は父親のためにアポイント取りに来たようだ。宮司さんと予定を調整しはじめた。

暇なので境内を見渡してみる。セミの鳴き声も聞こえず、雑音が一切ない、静かな場所だ。

手入れも行き届いており、ゴミや雑草など見当たらない。

今も昔もしっかりと観察したことはなかったが、本当に独特の雰囲気がある。

普通の神社にこんな感想を持ったことはない。まさに神域というのに相応しい場所に感じる。

観察に集中していたら八重に声をかけられた。


「ねえ、終わったんだけど」

「ああ、お疲れ」

「別に疲れてないし」


八重と宮司さんの話は終わったようだ。

いつの間にか宮司さんの姿も消えている。

労うと少し照れたように早口で八重は返答した。


「で、次はどこ行くの」

「階段上って、湧き水汲める広場みて、こんびに案内して終わりかな」

「コンビニあるんだ。マルソン?マルンレブン?マルミマート?」

「いや、そうだな。そう言われてみたら、こんびにの名前知らないな」

「なにそれ」


そんな風に会話しながら道を歩く。

あった時よりかはツンケンされずに会話できてる気がする。


結局、コンビニは【こんびに】という名前の小売店だった。

でも普通のコンビニより商品も豊富だし問題ないという結論になった。

そしてこんびにの隣にある【食パン屋】は同じ店主がやっている趣味の店で、本当に食パンだけ販売していた。お試しに一枚もらったがとてもおいしい。

村を二人でダラダラ歩いていたら意外と時間がたってしまった。


「今日はありがとね」


なんだかんだで夕方頃に旅館の受付に到着した。

別れ際、八重からお礼を言われる。


「いいよ、こっちも楽しかったし」

「ならいい。よしパパのために頑張ろうって気持ちもわいてきた。明日案内してあげるんだ」

「そいつはよかった。まあほどほどに頑張れよ。じゃあな」

「なんか雑。じゃあね」


軽く手をあげお互い別れる。

今日はよく眠れそうだ。三日目はあっという間に終わってしまったな。でも楽しかったからいいか。

八重も少しきつい性格をしているが悪いやつじゃないし、困ってたら助けてやるか。

なんて考えていたらいつの間にか眠りについていた。

祝10話 三日目はテンポが良かったような気がします。

ヒロインも全員揃ったので、こっからサクサク話が進んでいくといいですね。

登場人物一覧も近いうちにつくりたいです。

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