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奮戦そして……

英雄ヘクトールを失ったトロイア軍。状況を打破する為に援軍を招いたが、果たしてあのアキレウスに太刀打ちできるのか?

そしてアキレウスに運命の時が訪れる。

 さて、長い長いトロイア戦争ですが、まだまだ続きます。そしてここからはホメロスの叙事詩にはありません。意外な事ですが、トロイア戦争の全ては書かれておらず、ハイライトシーンの木馬作戦すらも書かれていないのです。ぶっちゃけてしまうとアキレウスとアガメムノン王の喧嘩あたりからヘクトールの葬儀までという中途半端な構成です。この連載でいうと第二話と第三話だけですね。これだけしかない話をあれだけ膨らませるとは、某大手週刊少年誌もビックリです。


 その後はというと、「小イリアス」や「イーリオスの陥落」や「アイアース」など、様々な(昔の)二次創作やごく短い文献しかありません。「アイティオピス」のオリジナル文献など、たったの五行しか残っていないという有様です。


 戯曲に至ってはもはや「魔改造」の域で、クライストの「ペンテシレイア」はアキレウスがアマゾネスに食われてしまうという驚きの内容です。ざっくり言うと、アマゾネス達はトロイア勢の援軍を兼ねて男を(性的に)いただきにきます。そんな中でペンテシレイア(軍神アレスの娘でアマゾネスの女王)とアキレウスは互いに一目惚れします。が、どちらも脳筋なため話がまとまらず、最後はアキレウスが(食事的に)いただかれてしまうというとんでもない展開です。後世のマルキド・サドに代表される強烈な作家の皆さんに影響を与えたと言われる伝説の作品ですね。


 そんなこんなでここからは資料によってバラバラな展開なため、各資料混在で構成してみます。あんまり無茶なヤツを混ぜると内容が繋がらなくなるので、今回は穏やかな展開になっています。


 トロイア勢の英雄ヘクトールが斃れた後、プリアモス王はアマゾネスの皆さんに増援を要請しました。と言っても地球の裏側から来たわけではなく、あくまでも伝説上のアマゾンで、今で言うと黒海沿岸だそうです。そしてアマゾネスの皆さんと言えば弓を引くのに邪魔になるからと、右の乳房を切除していたという戦闘民族。おっかないですね。しかし皆がそうしていたわけではないようです。


 やって来たのは女王ペンテシレイア率いる精鋭達。彼女たちが奮戦して優位に立つのですが、そこにアキレウスとアイアースが到着。これで一気に形勢逆転です。アマゾネスの精鋭たちも次々と斃れ、女王ペンテシレイアもアキレウスに瞬殺されてしまいます。


 相手が悪すぎましたね。そして――


「どうせゴリラみたいなごっつい女なんやろ。兜剥がして見物したろ」


 と素顔を見てみると、とんでもない美女だったのです。


「しもたぁぁぁ! 殺す前に襲っときゃよかったぁぁぁぁ!」


 と嘆くアキレウスをあざ笑う人物がいました。ギリシャの下士官テルシーテースです。アガメムノン王を「強欲」、アキレウスを「臆病者」となじる程の無謀な男。ホメロスも彼の事を「怪物のごとく醜い」「アホ」「ハゲ」などとボロカスに書いています。まぁ仕方ありませんね。アキレウスに文句を言い放つなど、殺してくれと言っているようなものです。私なら絶対に嫌です。というかコイツ、何故今まで生きていられたのかが不思議なレベルですね。


 当然の如くこのテルシーテースも瞬殺されてしまいます。

 しかしながらこの男、意外な形で復活します。なんと「ファウスト」の仮面舞踏会の場面にチョイ役で登場するのです。他にもシェイクスピアの「トロイラスとクレシダ」にも出てきます。更にはニーチェやヘーゲルといった凄い面々が「社会批評家」として論じたりしています。

 思わぬ大出世ですね。


 ついでにこのハ……いやテルシーテースですが、人物像の割にディオメーデースの従兄でもある為、従兄を殺害された事に激怒したディオメーデースと犯人のアキレウスが一触即発の事態に陥りますが、周囲がなだめてなんとか事なきを得ます。死んだ後まで傍迷惑な人ですね。


 さてペンテシレイアが敗れてすぐ、今度はエチオピア王メムノーンが援軍に駆けつけます。彼は暁の女神エーオースの子でありトロイア王家の親族と言う家柄。神様にコネがあるのでヘパイストスの手による甲冑を身に着けていました。


 そのおかげでヘクトールに比肩するほどの武勲を誇っていたのですが、「ヘクトール並み」という時点でアキレウスに勝てよう筈もありません。アキレウスと戦い、順当に負けてしまいます。


 ペンテシレイアといいメムノーンといい、ただアキレウスにやられに来ただけの扱いですね。

 こうなるともうトロイア側に勝ち目はありません。蜘蛛の子を散らすが如く逃げ惑い、場内に逃げ込みます。


 が、その中にアキレウスが紛れ込んでいたのです。

 ああ、なんという事でしょう。もはやアキレウスに立ち向かえる勇者はトロイア勢の中には誰ひとりとして残っていません。羊の群れの中に腹をすかせたティラノサウルスが入り込んだようなものです。トロイアの落城は確定したかのように見えたその時。

 アポロン神がパリスに命じて矢を射かけさせたのです。第一の矢は右の踵に、第二の矢は胸に命中し、アキレウスの命を奪ったのでした。


 あれ? 踵はともかく……胸に刺さった? 踵以外は無敵なんじゃ……?


 ちなみに、アレクサンドリア時代からの異伝によると、アキレウスはトロイアの王女ポリュクセネーに一目ぼれしていて、アポロン神殿で密会していたところを射られたとされていますが、このくだりにも様々なバージョンがあるようです。


 ともかく、この舞台となったスカイアの門に斃れたアキレウスの亡骸をアイアースが単身守り、そこにオデュッセウスが駆けつけギリシャの船陣に戻り、ねんごろに弔われます。


 そのもがり火の中から母テティスが我が子を運び去り、パトロクロスの遺骨と共にレウケーの島、或いは至福者の島に葬ったと言われています。


 ちなみにこの後、アキレウスの武具を誰が貰い受けるのかで醜い争いが起こってしまいます。やれやれですね。


 こうしてアキレウスの波乱万丈の人生は幕を閉じ、盟友オデュッセウスと冥界で再会を果たすその時までしばしの休息につくのでした。

                    ――完――



こんな駄文にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。心からお礼を申し上げます。

友人とのお喋りから生まれたこの作品、思わぬ反響をいただいている様で恐縮です。あ、友人に作品化の承諾はもらっていますのでご心配なく。


もしもこの作品をきっかけにイリアスを読んでみようという方がいらっしゃいましたら覚悟してお読みください(笑

私も読みましたが、難行と言いますか苦行と言いますか……そんな感じでした。しかも原文に近い程長く冗長になるという鬼畜仕様です。かつてイタリアで「最近の若者はこの名作を読んでいないらしい。我々が朗読会を開いて読み聞かせをしよう!」と俳優さんが立ち上がったのですが、リハーサルで全文を読んだら20時間もかかったので企画は取りやめになったと何かで読んだ記憶があります。

岩波文庫版はかなりアッサリめにまとめている感じでしたが……。


長くなりましたが、とにかくありがとうございました。また別の作品でお会いできたら嬉しく思います。

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