女っ気をめぐる戦いは続く!
結論から述べるならば……。
受付嬢の心配は、至極もっともなものだったという事になる。
ゴブリンらが見せる悪知恵の冴えときたら……。
イタズラを仕掛けては得意げな顔をしていた村の悪童らに、その爪を煎じて飲ませようかというくらいなものである。
鳴子や奇襲などは序の口に過ぎぬ。
どこでそのような知恵を得たのか、はたまた本能によるものか……昆虫や植物から抽出した毒物までも駆使してくるのだから、ナビキとシンジーだけでは下っ端たちですら殲滅することあたわなかっただろう。
巣穴の長であるホブゴブリンなどは、万全の状態から二人がかりで正面切ったとして、勝てるかどうか……。
我流が多分に含まれるものの、十分な訓練は積んできたつもりだった……。
しかし、現実の魔物討伐というものは生易しいものではなかったということだ。
……あくまでも、ナビキとシンジーにとってはだが。
「お、何だこれ? 毒が塗ってあるぞ」
「おいおい、まさかこんなショボイ槍が刺さっちまったのか?」
「んにゃ、何か塗ってあったから舐めたらピリッときた」
「僕に見せてみろ……ああ、これ即効性の麻痺毒だな。雑だが結構良くできてる」
「はっはっは、面倒なので自前で神に祈っててください」
――何でこの人たち、ゴブリンの槍も矢も皮膚で弾けてるんだろう?
――というか、何で毒舐めたのにピンピンしてるんだろう?
――僧侶の人は、笑ってないで治療してやれよ。
……この事である。
同じ初心者だというのに、この違いは何だというのか?
むしろ、彼らは同じ生物なのだろうか?
鳴子は発見していたというのに面白がって鳴らし、奇襲に対しては「かわいそうだから驚いたフリしてやろうぜ」とのたまう。
しかも、持参した武器に関しては掴んだ瞬間に柄を握りつぶしてしまい、「やっぱ中古の安物は駄目だな」などと言いながら結局全てのゴブリンを素手で殴り殺してしまったのだ。
ホブゴブリンとの戦いに至っては、もはや言葉もない。
筋力にしろ素早さにしろ、ナビキとシンジーから見れば驚異的なものがあった。
しかし、『ズッキンノ』のリーダーである戦士はデコピン一発でこれの頭部を弾け飛ばしてしまったのだ。
飛び散る脳漿と血しぶきを前にしながら、呆然と呟く……。
「シンジー……あたしさ……」
「ナビキちゃん……わたし……」
「「考えが甘かったよ」」
これが大志を抱いて冒険者となった少女二人の、最初で最後の依頼における顛末である。
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「というわけで、残念ながら『初心者のフリして何も知らない女の子を勧誘しようぜ大作戦』は失敗に終わってしまった」
テインロプ冒険者ギルドからほど近い酒場の一席にて、いつも通り樽単位でビールをかっくらいながら素っ裸となったアランは、やおら真面目な顔をするとそう言い放った。
「イイ作戦だと思ったんだがなー」
「理論的に見て、何の問題もないはずだった」
「ならばきっと、神の定めなのでしょう……」
同じく裸となってジョッキを手にした一同も、深くうなずいて見せる。
「しかしまあ、失敗しちまったもんはしょうがねえ! また何か新しい作戦を考えようぜ!」
「「「おお!」」」
ポジティブ&クリエイティブ!
王国最強の冒険者パーティ『ノーキンズ』は、今日も裸で酒を飲みながら女の子勧誘の作戦を練り始める。
「本当、いい加減にこりなさいよ……」
とても楽しそうな彼らを尻目に、オルタは離れた席で眉をしかめるのであった。