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その他3公爵家+旧王家

●現皇帝を輩出するタカ派のウェイバー家


「しかしあれはなんだったんだろうな」


 将軍ソラ・ウェイバー・ブレイクは皇帝の甥だ。

 エンパイヤ帝国の重鎮の一人であり、帝国内のタカ派の代表者である。

 帝国で発生する数々の戦争に参加し、死神の異名すら持つ男ではあるが、前回の戦争にはいろいろ思うところがあった。


「まことに不思議なことではあったが……」


 思い出す。

 あれは完全な惨敗であった。

 よもや魔術一撃で兵士が全滅しようなどとは。

 さすがは魔王ロロといったところか。


 そしてそれに立ち向かう少女ジアの姿。

 ソラ・ウェイバーがいま生きているのも彼女のおかげだ。


「確か、聖戦(PVP)モードとかいう魔術だったか」


 妖精帝国の妖精公女から授けられたとされる魔術。


 数時間の間、例え味方が倒され殺されてもその者が思い浮かべる故郷で復活させるというもはや人外(ばけもの)といっても良い技だ。

 魔王ロロに殺されたソラ・ウェイバーではあったが、それにより自身の領地に復活を果たすことができ生きながらえている。


「そして気になる情報がある」


 そのジアと魔王ロロとは通じ合っているのではないか、ということだ。

 その情報をソラに報告したのはスルターナ公国に放った間者、ジア邸の執事長だ。

 しかしその執事長は現在いない。

 ジアに危害を加えようとした罪で屋敷から放逐され、さらに罰を受けるために留置場に拘留しようとしていたところ、何物かによって殺されたと言う。何か情報を伝えてから都合よく殺される。これはソラ・ウェイバーには情報操作の臭いを感じた。なにしろ相手は絡め手を得意とするスルターナ公爵家だ。だが何ゆえに? そのような情報があるのであれば迂闊にジアを子孫の嫁に、などということが考えられなくなるではないか。それはスルターナ家にとって不利ではないのか?

 なお、ソラ・ウェイバーには空中庭園≪秘境≫グンマーのことは知られていない。執事長が独占しようとしていたからだ。もし知っていれば新たなる領地。ソラ・ウェイバーは是が非でもジアを手にしようとしていたことだろう。


 そのジアという娘だが。

 いままでは領地の屋敷に引きこもっていたそうだが、これからは帝国の表舞台に出るべく来月の仮面舞踏会に出席するそうだ。どういう心の変化か。それても謀略か?


「まずは1手。孫のうち一人でも当てて様子を探らせるか?」


 今まで引きこもっていた娘だ。誑し込めば容易く手に入るだろう。

 うまく行くのであれば引き込み、そうでなければ――


「おぃ。コーリン・ウェイバーをここへ呼べ。話がある」


 ソラ・ウェイバーは近くの者に自身の孫の名を告げる。

 コーリン・ウェイバーはウェイバー家にあるまじく武力には劣るが、しかし容姿端麗で性格が優しいと知られる男であった。



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●謀略と政治のヴァリエール公爵家


 謀略と政治で知られるヴァリエール公爵家。


 確かに建国時にはその類まれなる知力を持って帝国の版図を広げるに活動しており、現在も宰相の地位に付いていたがその精細は欠いていた。

 今回の戦争でも進言をしておきながら結果は惨敗。

 しかも惨敗したにも係わらず一人の兵も死んでいない。


 戦費はうなぎのぼりであった。


 なにしろ遺族費は一度払えば良いが兵が生き残った場合、費用は安くなるとはいえ継続して発生する。生き残った兵を養うための新しい土地は奪取できていない。

 その上、今回もっとも活躍したのはスルターナ公爵家である。そこに戦費を押し付け破滅させようとしていた当初の目論見は完全に回避されてしまっていた。


 だが、それはそれとして新たな戦略に組み込むだけの老獪さが、当主のトーリ・ヴァリエール・ダイヤモンドにはあった。

 しかし、それを娘プロト・ヴァリエール・ダイヤモンドにまで有させろ、というのは酷な話である。


「お前もジア姫を見習え、ですって――。くー、いまいましぃ」


 男達の前でじたんだを踏むプロト・ヴァリエール。

 男達はプロトの取り巻きであり、荒事を得意とする冒険者だ。

 どちらかといえば裏の稼業の者達である。


「お前達、分かっているでしょうね? あぁ、わたくしは何も知りませんわよ。お前達が何をしようと知るものですか。スルターナ公爵家のご令嬢が帝国本土の仮面舞踏会に来るとか、その経路と日時とか、もしかしたら街道の治安が悪いのではないかとか、誰かにしばかれるのではないかとか、私には関係のないことです。まったく関係ないのです。分かりますよね」


「「へい」」


 気のない返事を返す男達。

 当主から引き継いだ戦力ではなく、プロト・ヴァリエールが適当に集めた者たち。

 プロトの狭量で綿密な計画もなく集められた男達のその質はどうしても低くならざるを得なかった。


「あら、私。何か落としてしまいましてよ。落としたモノを拾うとか公爵家として恥ですわね。お前達、拾って片付けなさい」


 プロト・ヴァリエールがわざとらしく落としたもの。

 それは地図とスルターナ公爵家から帝国に続く赤い線と点。点の部分には日時、そして金貨が20枚。


「あぁ、私。今日は疲れましたわ。

 お前達も数週間ここに来なくて良いから。

 しばらく好きにして構わないわ。

 例えばその地図に記されたカモの場所にいこうとかしても、私にはまったく関係ありませんことよ」


「「へい」」


 男達は闇へと消えていくー―


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●商売と流通のロージス公爵家


 商売と流通で帝国の富を向上させてきた一族。

 それがロージス公爵家だ。

 その信条は中立。合言葉は世の中は金だ。


 流通を主体としてきたため放浪癖が多い一族ではあるが、その一人。『黒猫の』ロージスという二つ名をもつ公爵家第一王子は、屋敷の地下に引きこもり、とある実験を繰り返していた。


 荒野で拾った一匹のスライム。≪視線の48≫。

 スライムのくせに自ら魔王と名乗ってしまうおちゃめなヤツである。


 通常、スライムとは何でも溶かし闇にうごめく凶悪な魔物であるとこの世界では知られていたが、このスライムに限っては違った。

 なにしろ念話能力を持ち、『黒猫の』の脳に直接話しかけてきたのだ。

 そしてその念話で語る新しい知識というものが斬新で目を見張るものがあった。

 今試しているのはこの世界にない活字を大量の紙に一度に印刷するという活版印刷なる手法だ。

 これは後々金になる。確信する『黒猫の』。


 そのスライムが敵対するジアなる人物がこの帝国の仮面舞踏会に来るらしい。

 スライムいわく、公式勇者だそうだ。


 そりゃそうだ。魔族と友好関係にある勇者などいないだろう。

 そしてジアの正体を『黒猫の』は知っている。


 ジア・スルターナ・アフタースクール第一公女。


 先の戦争で活躍した話題の人物だ。

 仮面舞踏会の参加資格は上流貴族以上であり、当然公爵家の嫡子である『黒猫の』も参加は可能であった。


「さて、どうしてくれようか」


 インクの臭いが香る地下の実験場で『黒猫の』はまだ見ぬ勇者の姫を想像し、舌なめずりした。



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●元皇帝を輩出したゲイード旧王家


 ゲイード旧王家は帝国の形式上トップの家系ではあるが、政略結婚を繰り返すにつれスルターナを除く公爵家の方が力を持ってしまい、多くの場合『あまり』権力を持たない家である。現在は皇帝すらだしていない。『ゲイード家の血縁』という意味であるならば出してはいるのだが。

 ここで、『あまり』というのは普段は政治には関与していない、という意味であって、いわゆる『つるの一声』を発した場合、それは今も絶大な効果を発していた。つまりは君臨すれども統治せずを地で行っているのだ。

 もっとも、政治に関与しないのは建国以前からであり、だいたいにおいて建国からして、お調子者の性格で当初パーティを組んでいたリーダーが「あの領主は領地の娘を手篭めにしようとしている赦せん」だの、「あそこの国は人身売買をしている。倒そう」だのいっている間にいつのまにか帝国化していた、というのが実態なのだ。帝国名のエンパイヤーはただの派閥(リング)名だった、というのは知る人ぞ知る逸話だ。

 そんな旧王家に寄ってくる人物というのは、そんな『つるの一声』を発せさせようとする輩が大半を占めており日々苦慮している、というのが今のゲイード旧王家である。


 『つるの一声』など、繰り返せば威信が下がるだけだ。やつらにはそれが分からないのだろうか。今日もそんな輩の一人を追い返し、ぐったりとした様子で近くのソファーに座るのは、嫡男のネーム・ゲイードである。



「そんな俺に、なんでこんなものが付くのかねぇ……」



 ネーム・ゲイードの目の前には各種のメッセージウィンドウが並んでいた。

 そう、ネーム・ゲイードはプレーヤー(スキル持ち)であった。


「レベルが上がれば楽しめるのだろうが」


 立場上、冒険者のように自由に魔物の狩りができるような状況ではない。

 そこで取ったのは生産者(Worker Holicer)というクラス。

 最初に取ったスキルは『調理』。料理の作成と小売販売を行うためのスキルだ。


 試しにスキルを使って料理を行ってみたが、確かに作ったものは今まで食べたことない食感ですこぶる美味しいものであった。たとえそれがどんなものであっても化ける。それは安物のパンをあぶっただけでもだ。

 経験点的にも料理はおいしかった。あれよあれよという間にレベルは20にまで成長している。料理以外の生産者スキルもこの調子なら複数取れそうだ。

 料理にあたってのレシピは王子に憑いた魔王から「料理の鳥」といういんたーねっとと呼ばれる良くわからない技術で得た知識で得たものを教えてもらっている。いまでは和・洋・中、なんでも来いだが、それらが何を意味するのか、いまいちネームにはピンと来なかった。


 そんな魔王からもたらされた情報。


 ジアという名前のプレーヤー(スキル持ち)が仮面舞踏会に出席するらしい――

 その仮面舞踏会に出席する権利はネームには当然あった。

 なにしろ大抵の場合、この手の主催はゲイード家が名前貸しをしているからだ。

 確かジアは、新興のスルターナ公爵家。

 なまくらの鉄器、というわけのわからないモノが旗章だったはず。


「鉄器程度であれば生産者の鍛冶師スキルがあればもなんとかなる、か? 低レベルでも」


 武器系の生産者スキルは戦闘能力に直結するため、多彩なバリエーションがありそして多くのスキルポイントが要求されていた。専門で武器を作るのであれば全てポイントを振ればよいのだが、ネームとしてはなるべくポイントは節約したかった。

 となると、レベル不足を補うためには工房か?


 ネーム・ゲイードは屋敷を出ると、知り合いの八聖者夜杖家に馬車を向けた。


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