十四夜
ユキエにはとても大切にしていたものがある。
祖父から譲り受けた銀のロザリオだ。
ユキエがまだ幼かった頃、祖父にねだったのだ。
祖父は「何かお願い事はあるかい?」とユキエに尋ねるので、ユキエは答えた。
「お月様の妖精さんに会いたい」
祖父は笑っていた。そして、ユキエに言った。
「このロザリオは願い事を叶えてくれる不思議な力がある。今からおじいちゃんがユキエの願いが叶うように御まじないをかけてあげよう」
そう言って、祖父はロザリオをユキエの首にかけて唱えた。
「主の身名において、汝の願いが叶うことを望む」
それからは片時も肌身離さずにいたユキエだったが、大雨の土砂崩れのときにどこかにいってしまった。
それに気が付いたのはユキエの意識が戻ってからだった。すぐに、別荘を探してもらっているが、あれから一ヶ月もたっており依然として見つかっていなかった。
それがまさか、目の前に現れるとは思ってもいなかった。
ロザリオをつけていた女性が月の妖精に思ってしまったのも無理はなかった。
乳母が息を切らせて戻ってきた。
「お嬢様、すでにどこかに行ってしまわれたようで見つけることが出来ませんでした」
私は病院から退院してから、家ですることもなくだらだらとしていた。
会社に連絡を入れたら、強制的に10日間の有給消化を伝えられた。まあ、あんな会社いっても行かなくても気にもならないけどね。
退院して2日ぐらいはまあ何とか時間をつぶしていたが、さすがに3日目は暇を持て余してしまった。
ふと、マリといった教会を思い出した。
ロザリオの持ち主とはまだ会うことは出来ていないが、バイクの事故が奇妙な感じだったこともあり、出向いてみることにした。
荘厳な感じの教会は時間の流れに動じないかのようにそこにあった。
人の救いのための建物なのに何か人とは違うものが住んでいそうな。
桜木神父は優しい微笑で私を出迎えてくれた。事故の一件を神父に話したが、軽症だったことが神のなにかしらの啓示だろうと笑って答えるだけだった。
前回は遅い時間に来たが、今回は昼間に来ているせいか、ちらほらと信者らしき人たちが祈りをしていた。
私はカトリック教徒でもないので、祈りをする気にはならなかった。神父とひとしきり話を済ませると挨拶をして、教会から出て行こうとした。教会のドアが外から開かれた。
そこには白いワンピースを着て車椅子に座る少女の姿があった。
「どこかで見たような」
私はそんなことを思いながら彼女の車椅子の横を通り過ぎようとした。
「すみません。ちょっといいでしょうか?」
車椅子の彼女が私に声をかけた。




