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白花香  作者: 桐生スケキヨ
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第020話「脱走」

【Tips:〇二〇 どこで覚えたのか?】

・ランナの手際、どこで覚えたのか?

彼女の部屋には本棚があり、意外にも(?)読書家であることが想定されるため、おそらくそういう本も読んでいたのであろう。

それとも、女所帯である妖精隊、白様の周囲では自然と身につくものなのか。

ともあれ頼もしい限りであると思うも、邪魔する輩には鉄槌が必要になることは否めない。


【〇二〇 脱走】


「ま、待ってランナ」

「え? どうしたの?」

「ぬ、脱ぐの?」

「脱がないと、直接パリィを感じられないよ? わたしも脱ぐから、ね?」


 先に脱ごうと服に手をかけたランナの手を、パリィが咄嗟に掴み止めた。


「ま、待って」

「もう、パリィって意外と臆病なんだね」

「違うわよ。その……こ、心の準備ができてなくて」

「ふふ」


 ランナは笑うと、軽い音を立ててパリィの頬に口づけた。


「あっ」

「パリィ、可愛い」

「ラ、ランナ!」

「本当のことじゃない。……緊張してる?」

「してるわ」

「わたしも」

「本当に?」

「本当」


 ランナは自分の手に触れていたパリィの手に触れ、そっと自分の頬へと導いた。


「パリィ、わたしにも触れて。ね」

「ランナ……柔らかい」

「パリィだって」


 ランナの手が、パリィの装束の帯に伸びる。

 その瞬間。


「っ!

「っ!?」


 ふたりの視線が同時に、窓の外へと向けられた。


「聞こえたパリィ?」

「ええ、聞こえたわ」


 ふたりが聞いたのは遠ざかる足音と、剣帯(ベルト)に剣が当たる音。

 剣士が動いていたのだ。


「この宿舎の裏に来るなんて」

「わたしとパリィの時間を覗きに来たのかな?」

「まさか」

「なら……脱走かもしれない。この裏から城壁まで見張り塔はないから。全力で走って城壁を越えれば、すぐに森だもの。脱走にはいい道になるね」

「もうっ、こんな時に」


 ランナはすぐにパリィから離れ、パリィはランナに乱された装備を整え始める。


「ふふ、こんな時って?」

「ランナとの大事な時に、ってことよ。ランナもすぐに支度して。追いかけるわ」

「うん。先に出てて。すぐに追いつく。それと――」

「え」


 ランナは不意を突くように、軽くパリィの唇を吸った。


「続きは帰って来てから、ね?」

「う……うん」

「じゃあ先に!」


 ランナが部屋を出るまで、パリィは非常時にも関わらず彼女の後ろ姿に見とれてしまった。


◇ ◇ ◇


 パリィは剣帯(ベルト)に剣を差しつつ、窓から飛び降りた。音のした方に見当を付けて走り出すと、すぐに草を踏んだ痕跡を見つけた。

 痕跡を残す移動は、まるで素人のようだとパリィは思った。まっとうな剣士ではないという証拠になる。


「お待たせっ」


 追跡を開始してすぐにランナが追いついた。


「早いわね」

「隊長だもの。身支度は誰よりも早くが基本でしょう」

「ふふ、そうね」

「見て、あそこ」


 城壁のすぐ手前あたりに、数人の人影が見えた。

 すると、すぐにランナが声を上げる。


「止まりなさい!」


 人影はこちらに気が付き、足を止める。――が、その姿はすぐに脱走剣士だとわかった。

 闇夜に紛れた旅姿とあれば、不審感だけが浮く。


「あなたたち、どこへ行くつもり?」


 互いの姿が見える位置まで近づき、パリィが声をかける。

 すぐに返事は戻らない。

 ランナが続ける。


「脱走ならすぐに引き返して考え直しなさい。自分がなにをしようとしているのか、わからなくもないでしょう?」


 すると、ひとりが応えた。


「あんたたちにはわからないだろうよ。才能も実力も俺たちとは違うんだ。俺たちはここにいても剣士にはなれない。ただの一兵で終わる程度だ。けどな、俺たちの訓練の経験を買ってくれるところもあるんだ、この国の外にはな」


 忠誠心のかけらもない言葉に、パリィはいらつきを覚えた。


「買ってくれる? あなたたち、ティーシャの剣技を外に持ち出そうと言うの?」

「そうするしかないんだよ、俺たちには!」

「馬鹿なことはやめて引き返しなさい。わたしたちが見逃すと思っているの?」


 パリィが言うと、脱走者たちの一番奥にいた人物が前に姿を現した。


「僕たちだって、見逃してもらおうと思っているほどに考えがないわけじゃないですよ」


 その声は聞き覚えがある。

 頭巾(フード)を取らなくても、その人物はわかった。

 ランナが言う。


「シリウス」

「どうですか、ふたりもこの国を出てみては?」

「なにを言ってるのシリウス。わたしもパリィもあなたたちとは違うの。あなたも戻りなさい。脱走を見逃せるほど、わたしたちは甘くないよ」

「ふたりだって、天羽妖精隊で今はいられる。けど六煌剣を引き継げなかったらどうするんです? 一生、ひとりの剣士のままでいるんですか? みじめじゃないですか?」

「みじめなんかじゃない。剣士は剣士でいられることが名誉。あなたたちのような、余計な出世欲は剣を鈍らせる。だからわたしたちにも勝てない」


 ランナの言葉にぴりっとした殺気が乗った。

 シリウスが足を引く。


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