⑹ サエコのアドバイス
リサの質問にサエコは PA について詳しく話し始めてくれた。
「PA ってのは、ライブん時にマイクとかラインの信号をミックスしてデカいスピーカーから鳴らすシステムだね。
セ祭のホールだと、ピアノとかアコースティック・ギターとかボーカルはマイクで拾うじゃん。これは PA 経由。あとキーボードはラインで出力したのを PA のミキサーに直接つなぐから、これも PA 経由。エレキ・ギターとかエレキ・ベースは専用のアンプから音を出すし、ドラムも生音で充分な音量があるから PA 経由じゃないってわけだな。
で、マイクとラインをミックスするボリュームがいっぱい並んだ機械を PA ミキサーとかコンソールとか卓って呼んでるわけだ。」
リサたちが
「なるほど~!」
と納得するとサエコは続けた。
「うちの部長はセ祭用に、ピアノx2、アコギx2、歌x3、それにキーボードのラインがx2、予備のマイクx1、それと幕間の BGM とか演劇部の公演用にスマホのラインをx2 で、トータル12チャンネルくらいのミキサーがあれば大丈夫と踏んでたらしいんだな。
これで全部の出し物を共通の接続で行けると思ってたら、あんたたち LFO は要望書に単独で6つもラインを要求しただろ。それで部長はムッと来てたわけよ。」
リサが質問した。
「あ~、アコギってアコースティック・ギター?」
「そう、アコースティック・ギターはアコギ。エレキギターはエレギ。エレキベースはエレベな。
で、マイクとラインってのはレベルが全然違うからマイクの来てたとこに LFO の時だけラインをつないだりすると、ミキサーの設定を変えなきゃいかんのよ。
設定を間違えるとラインの音が物凄い音量で鳴っちゃったり、逆にマイクの音が物凄く小さくなっちゃったりするから、ミキサー担当の部長としては、出来るだけそういう事は避けたかったんだと思うよ。
なにせホールは出し物が連続だからいちいち細かい事なんか調整してらんない...」
「そこへ私たちがラインを6つもよこせと言っちゃったと... 軽音の調整だけでも頭痛いのに...」
リサがそう聞くと、サエコは少し溜め息まじりに答えた。
「そういう事、そうすると2日目の LFO だけのために、もっと大きなコンソールを借りなきゃならなくなる、必然的に予算がオーバー、作業も増える、と...」
「それは不愉快にもなりますわねえ。」
オミがそう言うと、フミカも、
「確かに...」
と同意せざるを得なかった。
「問題はこれからどうするかって事だよ。試験の喪が開けるまでは何も出来んし... で、あんたたちどんな曲やんの?」
「例えばこれですね。『炎のランナー』という曲なんですが...」
サエコの質問に、オミは候補曲の入ったスマホを手渡した。サエコはそれをヘッドフォンで音を聞きながら、
「へ~、良い曲じゃん。これさあ、会議で渡された資料だとキーボードが二人になってたけど、あとひとりはどうすんの?」
「え? 私は〜~、ボリューム調整係?!」
リサがちょっと可愛らしく語尾を上げながら答えると、サエコは苦笑しながら、
「資料にも書いてあったけど、機材担当はないんじゃないの? ステージに突っ立ってるだけ?」
「そうなの! こないだもその話って出たんだけど、リサちゃんも何かやった方がカッコ良いよね、見ため的にも...」
「じゃあ、パーカッションでもやれば良いじゃん。この『炎のランナー』って曲なんか、雰囲気で適当にパーカス叩いてもいけるんじゃね?」
「パーカッション、パーカスって?」
リサが聞くと、サエコは解説した。
「パーカスはパーカッションの略な。日本語で打楽器。バンドだとタンバリンとかコンガとか... まあ、ドラム以外で叩く楽器の総称ってとこかね。」
「エ~? でもそれって難しくない? 私にできるもん?」
「ウィンドチャイムみたいにシャララ~ンって鳴る盛り上げ系パーカスだったら一定のリズム刻まなくて良いから、上手くいくんじゃね? 夏休みに入ったら練習見に来たら教えてやるよ。」
「うんうん、じゃあ習いに行く行く!」
リサは即決した。リサも楽器をやれば、ステージ的にカッコがつきそうだ。
「で、フミカとオミはキーボードってなに弾くの? 資料だとライン6本希望になってたけど...」
サエコの質問にフミカは完成してもいない楽器の事を、ちょっと伏し目がちに言った。
「主に自作のシンセサイザーを使おうと思ってるんだけど〜...」
「へー! シンセって自作できるもんなの? 面白そうじゃん! だから電子工作部で参加ってわけか! うん、そりゃ目立ちそうだし部長も一目置くかもしれないぜ! そのシンセ見してよ!」
サエコは LFO のシンセに興味を持ったようだ。問題はそのシンセがまだほとんど完成していないって事だが...
「面白そうでしょ? 今、作ってるとこなんだけど... シンセ!」
リサがそう言うと、サエコは飲みかけのアイスコーヒーを吹き出しそうになりながら、
「オイオイ、楽器が完成してないのにステージ枠押さえちゃったの? 大丈夫かよ? そんなの部長に知れたらエライコッチャ! 絶対黙ってなよ!」
「ダイジョビダイジョビ! なんとかなるって!」
リサは例によって例の対応だ。サエコは少し呆れながら言った。
「ホントかよ? 間に合わなかったらそれこそ大ヒンシュクだぜ〜!」
「その時はエアシンセで...」
リサの能天気な答えに、サエコは苦笑しながら、
「まあ私は笑って許すけど部長がなあ。ステージの枠が少しっきゃ取れなかった上に、ゴールデン枠でエアシンセなんて余興やられたら進退問題に発展しかねんだろ。それに...」
と、口ごもった。




