⑸ 軽音部長の事情
3人は何か文句でも言われるのではないか? とビクビクしながらゆっくりと声の主の方を見ると...
「私は軽音部のサエコ。さっきの会議に部長と一緒に出てたんだけど...」
リサとフミカは『軽音部』という言葉を聞いただけで体が縮み上がりそうになった。
「ちょっとヤバイ事になったね。ここじゃ誰かに見られるとマズイからその辺のサ店でも入って話さない?」
3人とも『見られたらマズイ』のが誰なのかはすぐに理解できる。ちょっと不安に思いつつも、とりあえず全員無口のまま人目を避け、暗黙の了解で、いつものドーナツ屋に向かった。
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幸い店先から死角になったコーナー席が空いていたので4人は向かい合うように席についた。
3人が自己紹介すると、サエコも改めて自己紹介を始めた。
「私はサエコ、サエでいいよ。軽音所属のバンドでドラムやってんだ。役職は特にないけど、今日はたまたま部長にくっついて会議に出たら、ああなっちゃったってわけだ。
部長も言ってたけど、うちの学校ってクラシック優先でバンド系軽視じゃん。まあ、お嬢様学校だしミッション系だからしょうがないんだけどさ、それでもコンサートとかあると裏方の仕事はみんな軽音に押しつけるわけよ。
お嬢様方はそれを当然のように思ってて、マイクスタンドの一本も『重~い!』とか言って持ちゃしねえの。ドラムセットなんて、どんなに重いか持ってみろってんだよな。」
と、男まさりの口調で軽音の立場を語る。
「んで、部長もその辺は常々不快に思ってたんだろうな。おまけに過去の学校行事でも枠取りができないのは部長のせいみたいに言われちゃって、今日も部員に突き上げを食らってからの会議出席だったんだ。
それなのに又しても枠が取れずってわけで... ちょっと気の毒だろ? 私にゃ絶対できんね、あんな損な役職。間違いなくブチ切れるね。
大体部長は別に PA が専門じゃなくて本当はギター弾いてんだし。だからさっきは不満が爆発しちゃったんだろうな。それも一番良い枠を新参グループに取られたわけだし。あん時、笑っちゃったのもマズったよなあ。
なんで笑ってたわけ?」
サエコはフミカの方をチラッと見た。
「いや、まずかったよねえ。あの時リサが小声でジョーク言ったのにウケちゃって... ああいう真面目な雰囲気にいると急に可笑しくなったりもするよねえ?」
「え? そんなもん? 私ぁそんな事ないぜ。」
サエコはリサを見た。
「私も特にそんな事は...」
今度はリサがオミを見た。
「私もそのような事はありませんわ。」
どうやらフミカ以外は同意見らしい。
「え〜?! でもさでもさ... 例えばお葬式でお焼香の時とか妙に笑いたくなっちゃったりとか~、朝のミサで『皆さん、ひざまずきましょう』なんて言われてお祈りのポーズ取る時って、なんか脇の下くすぐられたみたいに、こう... ゾワゾワ〜っとか来ない?」
(作者注:教会では座席でお祈りをする時、ひざまずく。そのため座席前には膝を乗せるクッションのようなスペースがあり、そこへ膝を置き、両手は合わせて前の席の後部に乗せて祈る。こういう時に居眠りをしてたりすると、一人だけ取り残されてメチャ目立ってしまう。)
フミカが同意を求めると、
「いや~」
3人はほとんどユニゾンで返事をした。
「そうかねえ?」
「私もそんな事はありませんわ...」
「そんな事ぁねえだろ。」
フミカは、
「エ~? ウッソ〜! それって私だけ~?」
と驚いて言うと、またしても3人はユニゾンで、
「ウンウン」
と答えた。
「このフミカさんってちょっと変わってる系?」
サエコが聞くとリサは
「いや、そんな事も~...」
と語尾を下げてしまった。フミカは、
“エ~?! 私、変な人認定ですかぁ?”
と思ったのだが、
『シンセやってる人は変な人? とこないだ思ったんだから、自分もシンセやるって事は... 私ってやっぱり変な人だったのかも?』
と思考が混乱した。フミカが何か弁解しようと言葉を探しているうちに、リサが、
「ところで PA ってなんだったの?」
とサエコに聞いたので話題が途切れてしまった。
フミカは『愛情の反対は無関心』という言葉を思い出しながらリサたちの会話に参加した。




