「お前、処女外来って知ってる?」
「お前、処女外来って知ってる?」
「何だよそれ。」
「一部の嫉妬深い男が結婚相手に新品の義体を求めるのは今じゃもう珍しくない。われわれ日本の伝統では、まあ清めの水がその役目を果たしたんだろうな。神道って奴では、罪や穢れを水で払うのを禊と言って、儀礼として重視したし、キリスト教の洗礼もそうだな。それで木の棒の先に貼付けた和紙の紐を神主が来訪者の頭の上でじゃらじゃら振るのも、やっぱり穢れを払うためだったんだ。あれだ、ほうきを掃くみたい儀式あるだろ?」
「古い映像で見たことがあるわ。お前、そういうの詳しいよな。穢れを払って、新しい体でやり直すってことか。」
「そうそう。あと体だけじゃなく心な。それが昔々の儀礼の目的だったわけだが、今じゃ処女外来っていうので、結婚前に体と記憶の調子を清めてくれるってわけだ。もちろん、男も受けられる。忘れられない男や女の経験ってのは、多くの場合、薬より毒だからな。」
「へー。科学の進歩様々だな。」
男ばかりの職場で休憩時間に同僚が話していた。
面白いと思ったので、この話を愛子にも聞かせてみた。
「あたしにとってゆうちゃんの右に出る者はいないのよっ?」
「多分、自分の好きな女の子が過去に愛した男を、男は今の浮気みたいに考えちゃうところがあるんだなぁ。過去は過去、今は今なのにね。」
「ゆうちゃんはあたしの初めてになりたかったの?」
「あはは、随分と直球だね。出来ればそれが良かったっていう程度かなぁ?」
「あたしもあげたかったなっ」
「やっぱり初めては特別だった?」
「やだもう、変なこと聞かないでっ///」
「ははは・・・じゃあ、最後にいい?もしも愛ちゃんに俺よりも好きな男ができたら…どうする?」
「あたしの初めては2年前のゆうちゃんで、今好きなのは目の前のゆうちゃん、未来のゆうちゃんは今よりずっと格好良くなってあたしを惚れさすのよっ?」
そうか、好きっていう気持ちは進歩して、その度に穢れを払ってくれるんだね。
「愛ちゃん、俺たちもそろそろ子供でも作ろうか?」
「何人でもいいのよっ?」
愛子が今21歳なので、毎年作ったとして、少なくとも20年はこいつと慌ただしくも楽しい日々を重ねて行けそうだと、俺は20人の子供たちに囲まれる破天荒な空想をした。