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果てまで歩けば  作者: 泣き癖
第1話 壁の外

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2/2

任務

 二人が仮の拠点に戻ると、ダリル・ケイドは木々の間に張った偽装布の下で装備の手入れをしていた。獣の毛皮を被ったテオを見るなり、無言で銃を構える。

「待って、僕だよ」

「……紛らわしい格好をするな」

「じゃあ銃を下ろしてよ」

「臭いで別の何かが寄ってきたのかと思った」

 ダリルは顔を顰めて溜め息をつき、銃を下ろす。臭いへの言及に、クレアが即座に同意する。

「今度はどこで拾ってきたんだ」

「え、これ?落ちてた死骸から作ったんだよ。良いでしょ」

「……とりあえず、今すぐ脱いで身体を洗ってこい。そういうもんはちゃんと下処理が必要なんだよ」

「なるほど。でもこれで触れ合う距離まで近付けたんだけど、下処理しても出来るかな?」

 ダリルはクレアの方を見る。

「えぇ、テオが着ている皮と同じ獣には、実際に近付けていましたよ。最後に殴られて逃げられてましたけど」

「結果としては良かったにしろ、危ない行為は辞めろ。お前の考えなしの行動で傷付くのはお前じゃないかもしれないんだぞ」

「……ごめんなさい」

「気を付けろ」

 テオは感情が分かりやすい。表情と身体が合わせて動く。

「ダリルさん、共有ですが」

 クレアが先程見つけた、湖に潜んでいた捕食者について報告する。

 ダリルは笑わず、湖の位置、獲物との距離、水から飛び出した範囲、足跡の形などを細かく確認する。クレアが手帳を開き、テオが身振りを交えて説明を追加した。

「今後、濁った水辺には近づく時には注意しろ。水があるから安全とは限らん。むしろ生き物が集まる場所ほど、待ち伏せる奴もいる」

「分かりました」

「はーい」

 テオは右手を挙げ、お気楽な返事を返す。

「テオ、その毛皮となった獣の食性は?草食だろう?」

「うん、そうだけど」

「なら、その臭いで肉食獣が寄ってくるかもしれん。この拠点から離れた場所、出来ればその死骸の近くに埋めてこい」

「えーっ!?せっかく作ったのに。また使えるかもしれないよ?」

「なら、一人で別に拠点を作って、それを抱いて寝るんだな」

「……埋めてきます」

 クレアは笑いながら、調査記録の端にテオの醜態を追記した。


 野営の荷を片付けながら、ダリルが言う。

「さて、そろそろ標的が見える頃だと思うが、作戦はどのプランで行く?」

「背中の探検!」

「先ずは行動ルーティンの把握ですね。調査するにも、例の異生種はとにかく大き過ぎて追い付くのもやっとでしょう。遠方から確認出来る範囲でも、危険が無いか、動きが止まるタイミングが無いかなどを確認するべきです」

「そうだな」

 テオの高らかな挙手を無視し、二人は淡々と方針を決める。

 主にダリルが片付けた荷をまとめ、三人は調査対象の進路へ向けて歩き始めた。


 今回の調査対象は定期的に同じルートで前線都市に姿を現す。故に、過去データを元に正面からぶつかる進路でテオ達は進み続けていた。

 空は雲ひとつない快晴。木々の間を抜ける風は穏やかで、遠くから生き物らしき鳴き声が聞こえてくる。

「目標を見つけることだけ考えれば、今回の任務ほど簡単なものは無いですね」

 クレアが白紙の地図に大まかな絵を書き足しながら呟く。

「そうだな。これほど分かりやすい跡は他に無いだろうな」

 三人が進む森の隙間から、不自然に木々が途切れた荒れた景色が広がる。そこには幾つものクレーターのような巨大な地形が築かれている。

 しばらく歩くと、荒野とは別に、森が途切れた。開けた地形がゆるやかに続き、視界が一気に広がる。

 緩やかな起伏がどこまでも続き、ところどころ岩肌のような黒い地面が露出している。木も低く、まばらに生えている。

「……随分と静かな場所ですね」

 クレアが呟く。

「お、あの高台からなら良く見えるんじゃない?」

 テオはそう言って、軽やかな足取りでごつごつとした岩場のような山を楽しそうに登っていく。

「おい、勝手に先行するな」

 ダリルの声が届いていないのか、あっという間に小さくなっていく。テオはそのまま岩場の頂上まで登りきった。

「おぉー!!良い景色だ!ここからなら良く見えるよ!」

 テオは振り返り、二人に向かって両手を大きく振る。

「ったく、一人で行動するなとあれほど」

「ほんと、元気過ぎ……」

 ダリルはハッとしてクレアを見る。先行するテオを追って、進む速度が上がっていたのだろうか、クレアは息も絶え絶えといった様子だった。

「大丈夫か」

 ダリルがクレアに手を伸ばしたその時。


 ズゥン……


 靴底から、地鳴りのような振動が伝わる。二人は同時に足を止めた。

「今……揺れました?」

「地震か?」

 ダリルはしゃがみ、地面へ手を当てる。テオを見ると、先程まで騒がしかったのが嘘のように静かに立ち止まっている。

「標的が近いのかもな」

 ダリルは立ち上がり、クレアの手を掴む。

「ありがとうございます」

「テオの居る場所から様子を見よう」

 テオは未だ、何処かを見つめたままじっとしている。

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