■第四話 加入
剣先が、突きつけられる。
「……助けられたのは認める。だが――」
カレンの目が細まる。
「お前は何者だ?」
軽装の男――リガーレは、ゆっくりと両手を上げた。
「……落ち着けって。敵意はねぇ」
「いやいや待て待て!!」
リオンが割って入る。
「助けてもらっただろ!?まずそこだろ!?」
「だからって信用できるかよ」
カレンは一歩も引かない。
そのやり取りを、フィナは静かに見ていた。
視線が、リガーレの頭部へ向く。
「……浅黒い肌、何より特徴的な角……魔族で確定」
張り詰めた空気が漂う。
カレンの剣が、わずかに持ち上がる。
「ご明察、俺は魔族だ。だが魔王が討たれたあたりから山籠もりをしていて世情に疎い」
エリシアは、嘘と真実が混ざっていることに気づく。
だが、敵意がないことから口は出さない。
リオンが首を傾げる。
「で?なんでこんなとこにいんだよ」
リガーレは軽く答える。
「町に行きたい。今の人間の世界、見ておきたいだけだ」
少しの沈黙。
エリシアが、じっと見る。
(……嘘。でも)
(……目的は、本当)
「……目的地は一緒ね」
エリシアが言う。
「私たちも町に向かってる」
カレンが眉をひそめる。
「……ん?」
エリシアは視線を外さない。
「町の中を見ることは許可するわ。ただし、私たちから離れないこと」
短く決まる。
リガーレは小さく息を吐いた。
「……まぁ、魔族だしな」
⸻
森を抜ける道中。
リガーレが口を開く。
「なぁ、今の魔族と人間の関係ってどうなってるんだ?」
「ガチで山こもってたんだな、あんた」
リオンは驚きながらも答える。
「一言でいうと最悪だな」
「何……?」
「前よりタチ悪いって話も多い」
フィナが補足する。
「統制が取れていない。局地的な被害が増加している」
人質が死体となって返還されたことや、魔王城周辺の人間領での略奪など、淡々と語られる。
リガーレの足が止まる。
「……は?」
「いやだから――」
「いや、ちょっと待て」
眉が歪む。
『……あいつら、俺に黙って何してやがる』
一瞬、思考が止まる。
『……いや』
『見てなかったのは、俺か』
小さく息を吐く。
「……思ってたよりひどいな」
そう言いながら、歩き出す。
「……俺の責任……か」
誰にも聞こえないほどの声で、ぽつりと呟いた。
⸻
森を歩くこと数分。
「なぁなぁ」
リオンが横から顔を出す。
「どうせなら、俺らと組まね?」
リガーレはわずかに眉を上げる。
「……は?」
リオンは気にせず続ける。
「俺、避けて足止めは得意なんだけどさ。動きの制限が苦手でさ」
軽く笑う。
「さっきみたいに止めてくれるやついると、めちゃ楽なんだよ」
ちらりと後ろを振り返る。
「普段は天下のフィナさんが、正確無比な最強の魔法で足止めしてくれるんだけどな」
後ろでフィナが、どや顔でピースをする。
カレンが即座に反応する。
「は?魔族を入れるとか正気か?」
リオンは肩をすくめ、にやりと笑う。
「でもやりやすかったのは事実だろ?それに、人間の世が気になるなら、一つ町見たくらいじゃ分かんねぇよな」
一歩踏み込む。
「で、町見るなら名目上監視がいる。だったら――ちょうどいいじゃねぇか」
「それとこれとは別だ!」
フィナが静かに口を開く。
「……戦力としては有用。戦闘の安定度が格段に上昇する」
カレンが舌打ちする。
「お前まで……」
リガーレは小さく息を吐く。
「……まぁ、あんたらのリーダーが許すなら」
皆の視線がエリシアに集まる。
エリシアは一歩前に出た。
「入りたいというなら、加入は認めるわ。ただし――条件が二つ」
少しだけ首を傾げる。
「一つ、正体がばれないようにすること」
一拍。
「そしてもう一つ……こっちの方が重要」
ほんのわずかに、声の温度が落ちる。
「人に危害を加えないこと。正当防衛の範囲なら認めるわ」
リガーレは間を置かず答える。
「……あぁ、それは問題ない」
小さく頷く。
そして、少しだけ考えるように視線を落とした。
「……となると」
腕を上げる。
「これでどうだ」
取り出したのは、一つの腕輪。
「人の街に行くつもりだったからな。こういうのは持ってる」
軽くはめる。
わずかに魔力が揺らぎ――
角が消え、肌の色が変わる。
リオンが目を丸くする。
「おぉ!?すげぇなそれ!!」
フィナの目が細まる。
「その魔道具……」
言いかけて、口を閉じる。
じっと見つめる。
「……ん」
小さく頷き、エリシアへ視線を向ける。
その頷きは、“問題ない”という合図だった。
エリシアも軽く頷く。
カレンは腕を組み、睨みつける。
「……おかしな真似したら、その場で斬るからな」
リオンは笑いながら一歩前に出て、親指で自分を指す。
「リオンだ!よろしくな!」
後ろを振り返る。
「こっちは――」
フィナが軽く一歩出る。
「……フィナ」
短く名乗り、小さく会釈する。
カレンが腕を組んだまま口を開く。
「カレンだ。……まぁ、さっき言った通りだ」
ぶっきらぼうに言い切る。
エリシアも視線を向ける。
「エリシアよ。よろしくね」
最後に視線が集まる。
リガーレは一瞬だけ間を置き、
「リg……」
わずかに言葉を区切る。
「リグだ。世話になる」
エリシアが頷いた。
⸻
こうして。
家出した魔王は――
勇者パーティの後衛として、同行することになった。
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