再観測
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
朝。
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静かな部屋。
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机の上に、一冊のノート。
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班目唯は、それを見ていた。
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「……」
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ページをめくる。
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同じ言葉。
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「この名前を追え」
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何度も。
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繰り返し。
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「……誰」
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小さくつぶやく。
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名前がない。
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書かれていない。
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“抜けている”
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「……」
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ペンを取る。
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空白の部分を見る。
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そして。
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書く。
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「ここに名前があった」
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一拍。
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「消されている」
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その瞬間。
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頭の奥に、わずかな違和感。
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ノイズ。
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「……」
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目を閉じる。
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思い出そうとする。
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だが。
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出てこない。
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それでも。
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「……いる」
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一言。
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確信。
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理由はない。
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だが。
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分かる。
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■
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数時間後。
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編集部。
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班目は、パソコンに向かっていた。
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検索。
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履歴。
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削除されている。
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「……」
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ログを辿る。
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微妙なズレ。
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消えたアクセス。
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不自然な空白。
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「……ここだ」
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小さく言う。
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“何かがあった場所”
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そこに。
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名前はない。
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だが。
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痕跡はある。
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「……」
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ノートに書く。
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「存在は消される」
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一拍。
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「だが、痕跡は残る」
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その瞬間。
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何かが繋がる。
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■
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夜。
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街。
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班目は、一人歩いていた。
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目的はない。
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だが。
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足は止まらない。
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「……また来た」
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小さく言う。
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見覚えのない場所。
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だが。
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“来たことがある感覚”
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「……」
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周囲を見る。
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普通の街。
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だが。
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どこか。
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“ズレている”
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その時。
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一瞬。
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視界の端。
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人影。
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振り向く。
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誰もいない。
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「……」
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だが。
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確信する。
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“いた”
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ほんの一瞬。
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観測した。
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「……」
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呼吸が、少しだけ速くなる。
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恐怖ではない。
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理解に近い。
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「……分かった」
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小さく言う。
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「消されるんじゃない」
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一拍。
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「観測できなくされてる」
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その言葉。
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核心。
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■
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高台。
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宮島悟は、街を見下ろしていた。
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「……」
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班目の動き。
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すべて見えている。
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消したはずの情報。
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それを。
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再び繋げている。
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「……」
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初めて。
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“違和感”を覚える。
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完全に制御できない存在。
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「……再観測か」
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一言。
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新しい概念。
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想定外。
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だが。
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排除すべきか。
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許容すべきか。
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「……」
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結論は出ない。
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ただ。
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一つだけ、確かなこと。
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「……面白い」
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わずかに。
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口元が動く。
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■
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夜。
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班目は、ノートを閉じる。
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「……分からない」
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小さく言う。
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「でも」
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一拍。
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「また見つける」
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その言葉。
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迷いはない。
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証拠もない。
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記憶もない。
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だが。
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それでも。
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追う。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




